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15.元気のない会長




 黄色チームの新しい仕事が始まった。今回は注文数が多く、前回よりも忙しくなるとジネットは気合いを入れていた。


 仕事に慣れてきたかと思っていたけれど、想像以上の忙しさに目が回りそうになっていた。三日も経つと、ようやく少しだけ忙しさに慣れてきた。


「これを終わらせるのは大変ですね」

「ルネ、体力あるね。これなら繁忙期も大丈夫そう」

「……今よりも忙しい時期があるんですか?」

「もちろん! うちの商会最大の繁忙期は社交界シーズン前だからね。あれが始まると、寮に住んでないお針子が商会に泊まり出すから。酷い時は事務の子達も手伝わされたりしてたよ」


 とてもじゃないが、今の私には想像できない忙しさだった。


「はい、そこ! ジネットとルネ! 口じゃなくて手を動かしなさい」

「はーい」

「すみません」


 チーム長に怒られると、視線を手元に戻して仕事に集中した。




 その後、黙々と仕事をした甲斐があり、今日のノルマを達成することができた。


「やったー! 終わったー! ……あとは明日の私よ。頑張れ」

「お疲れ様です。ジネット、よければ」

「ありがとう、ルネ!」


 遠い目をしていたジネットにお茶を渡すと、すぐに飲み干した。


「よし、帰ろう。すぐ帰って寝よう」

「それなんですが、少し残ります。ハリス会長に

お話が」

「そうなんだ。じゃあ先に帰ってるね」


 了承してくれたジネットを見送り、他のお針子も見送ったところで、三階の会長室に向かった。


「失礼します」

「……どうぞぉ」


 いつもと違って、死んだような声が扉の向こうから聞こえてくる。


(……何かあったのは間違いないわ)


 ここ数日、ハリス会長の様子がおかしいのを感じていた。仕事で多忙なのかと思えば、ジネットからの話を聞く限り、もっと忙しい時期があるという。


(考えてみれば、私関連で何かあるのは間違いなさそうなのよね)


 挨拶をすれば返ってはくるが、どこかよそよそしい。視線を感じることがあるのに、目を合わせると気まずそうに目をそらしてしまう。

 疲れているのかと思っていたが、思い返してみれば私に対しておかしな態度を取っているようだった。


 扉を開けると、どこか重い空気の会長が机に視線を落としていた。何かあったのか聞こうとすれば、会長が口を開けた。


「……ディオン。何度も言ってるでしょう? ルネは城に行く気はないの。そもそもディオンに興味もないの。だからいい加減連れていくのを諦めて──って、ルネ⁉」

「……お疲れ様です、ハリス会長」


 どうやら、会長の悩みの種を聞く手間が省けたようだ。それと同時に、自分が原因の一つになっていたことを申し訳なく感じてしまう。


「え、えぇ。お疲れ様。……ルネ、もしかして……いや、聞いてたわよね」

「はい。すみません」

「いいのよ。勘違いしたあたしが悪いから」


 そう言われたものの、気まずい雰囲気が流れた。どこまで踏み込んでいいのかと躊躇ったが、自分のことだと思い直し、詳細を尋ねることにした。


「毎日いらしてるんですか、皇太子殿下が」

「えっ……えぇ」

「それは商会に対するご依頼ではありませんよね」

「それは……そう、だけど」


 会長が気を遣っているのがわかる。それに、今まで守ってくれていたのも。

 数日前、皇太子殿下を撒けたことで満足していた自分をひっぱたきたくなった。


(中立の立場を取ると言ってたのに……これでは私の肩を持っているようなもの)


 ハリス会長の負担になっていたことを悔やみ、深く頭を下げた。


「申し訳ございません、ハリス会長」

「えっ……どうしてルネが謝るのよ!」

「私の問題を、会長に押し付けてしまいましたので」

「そんなことないわ。これはあたしが勝手にやったことだもの」

「ですが……先程の発言を聞く限り、私の肩を持ってしまっているのではと思いまして」


 だとしたら、いくら友人といえどハリス会長の立場が危ない。皇太子殿下とは関わりたくないが、会長に危険が及ぶなら話しは別だ。


「やだ、それなら気にしないで。前回、ディオンの肩を持ったでしょう? それのお詫びみたいなものよ」

「それなら気にしていません」

「あたしが気にするのよ。それに……今のディオンとは、話し合いができそうにないの」


 ため息を吐くハリス会長は、座ってと椅子を指した。向かい合って座ると、ここ数日何が起こったか教えてもらった。


「……ディオンがね、ルネを皇城に連れていくって聞かないの」

「お断りしたはずですが」

「ディオンはそう思ってないみたい。だからまずは話し合いの席を設けるべきだといったのに、それは皇城でもできると言われたの。あの様子は、ルネを見つけ次第連れ去るつもりよ。それだけは阻止しないと」


 会長の優しさに胸が温かくなると同時に、胸がきゅっと苦しくなった。

 柔らかな眼差しを向けてくれた会長だったが、どこかハッとしたような顔でこちらを見つめた。


「ルネ。駄目よ、ここにいちゃ。話の通じない人がくるんだから。早く帰りなさい」

「…………いいえ、帰りません」


 会長の言葉に私は首を横に振った。


「今日は私がお相手します」


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