表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/19

14.気配を消して



 別人にというジネットの意図がわからなかったので首を傾げると、彼女は話を続けた。


「なんていうんだろうな……例えば、役者みたいな感じ。今ルネがまとってる気配と全く違うものにすれば、感知されにくくなる気がするんだよね」

「なるほど」


 対策するに越したことはない。そう思いながら、気配について考えていた。


(どうしましょう。演技は未経験なのよね)


 できる可能性は未知数で、下手に動けば却って気付かれてしまいそうだ。


「上手に演技するっていうよりも、お相手と会った時の気配を《《消せれば》》いいと思うんだけど」

「消す……それならできます」

「え、本当?」


 悩ましい状況から一転、ジネットの言葉のお陰で得意分野へと変化した。

 ふうっと息を吐くと、目を閉じて呼吸を整えた。


(……リシアスでは、気配を消して、存在感を消して、面倒事を回避してきたわ。それがここでも生きるのは、不思議な気持ちね)


 自身を空気だと思い込みながら、その場と同化するように気配を消していく。上手くできているかわからないので、保険としてリシアス時代のオルラの気配を混ぜてみた。


「……凄い。隣にいる私でも、変化したってわかるくらいだから、絶対大丈夫だよ」

「ジネットの助言のお陰ですよ。……準備ができました。行きましょう」

「うん……!」


 匂いを消し、気配も消したところで、馬車を気にせずに玄関側へと向かった。静かに息を殺しながら馬車との距離を縮めると、一度も目を向けずに進んだ。


 屋台通りに行くには、馬車が停められている道を通るしかない。ジネットと二人で、沈黙を貫きながら馬車の隣を通り抜けた。


 ──ガチャリ。


 背後で馬車の扉が開く音がした。

 先程降りたのが従者だから、次に降りてくるのは間違いなく皇太子殿下だ。

 

 音に気を取られて足を止めていると、ジネットが手を取って走り出した。


「行っちゃおう……!」


 ジネットの判断に従い、一度も振り返ることなく屋台通り目指して思い切り駆け抜けた。幸いにも追ってくる気配はなく、無事に通りへでることができた。


「ご、ごめんルネ。いきなり走っちゃって」

「い、いえ。手を引いてくださりありがとうございます。私一人ではきっと固まってしまいました」


 全速力で走ったため、二人揃って呼吸が乱れていた。立ち止まって息を整えると、改めてジネットに感謝を伝えるのだった。


「それにしても気が付かれなかったね」

「はい。よかったてす……これもジネットの知恵のおかげかと」

「えへへ。あれも言い伝え的なもので、本当に効果あるかわからなかったから、役に立ってよかった」


 嬉しそうに笑うジネットは親指をグッと立てた。私もそれを真似して返すと、ジネットの笑みが深まった。


「ルネ。香水買おう」

「そうですね。たくさん買いましょう」


 一回だけなので、絶対的な効果があるとは断言できないが、素敵なお守りになる気がした。


「それにしても凄い馬車だったね。……もしかしてお相手ってお貴族様?」

「……そうですね」

「すごっ。お貴族様なら、一生贅沢できそうだけど……それもあんまり興味ない感じ?」

「えぇ」


 ジネットの言いたいことはわかる。恐らく、経済的な面では魅力的な相手だということだろう。


「凄いなぁルネ。私ならなびいちゃうよ」

「そうなんですか?」

「うん。自由な恋愛したいのは嘘じゃないけど、贅沢とか不自由のない暮らしにも憧れがあるからさ。ルネはないの?」


 そうジネットに問われると、リシアスでの生活が思い浮かんだ。


(贅沢……贅沢で不自由のない暮らしなら、もう十分すぎるほどしたもの。これ以上はいらないわ)


 冷遇されていたとはいえ、必要最低限の暮らしはできていた。そしてそれは、ジネットのいう不自由のない暮らしだったと、平民として生活してからわかった。


「……いえ。私の中では、穏やかな恋愛をすることが叶えたい願いなので」

「なんかカッコいい。……私も揺らがないで、恋愛頑張らなきゃ」

「ふふっ。ですが、贅沢な暮らしに憧れることは悪いことではないのでは」

「そうだけど……優先順位はつけておかないとだから!」


 どうやらジネットのやる気を出させてしまったようで「せっかくならイベント申し込んじゃおう!」と、目を輝かせていた。


 恋愛により火がついたジネットにより、週末はイベントに参加することになったのであった。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ