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13.匂いを消して


 更新を止めてしまい大変申し訳ございませんでした。お待ちいただき誠にありがとうございます。本日より再開させていただきます。よろしくお願い致します。




 翌日出勤すると、ハリス会長に呼び出された。会長の部屋に向かうと、いつものように対面で座るよう指示される。


「ルネ。一つ確認なんだけど、もしかしてあたし、昨日の話し合い来るよう伝え忘れてた?」

「昨日……皇太子殿下の件ですか?」

「えぇ」

「そうですね。同席するようなお話はありませんでした」

「そ、そう……なんだかごめんなさい……」

「?」


 どんよりと落ち込むハリス会長に、何か自分がしてしまったのかと不安が浮かび上がる。


「あ……気にしないで! こっちの話よ。ルネは何も悪くないから」


 苦笑いを浮かべる会長の言葉を素直に受け取り、気にしないことにした。


「昨日のお話は、同席した方がよろしかったですか?」

「……相手側はそれが希望だったみたい。でも、あたしも皇太子殿下も伝え不足だったでしょう? こちらに非があることだから、この件は気にしないで」

「でしたら良いのですが……」


 皇太子殿下との話はお断りし、個人的には何も始まらなかった関係。しかし、向こうの考えと違うようで、不穏な空気を感じる。


(……まぁ考えるだけ無駄ね。答えが変わることはないし、気にしないことにしましょう)


 そんなことよりも、仕事に集中しようと気持ちを切り替える。


「もしかしたら……また訪問することがあると思うの。でも、もしルネが同席したくなかったり、話し合いに興味がなかったら言ってちょうだい。こういう場は、無理に設けるものではないと思うから」

「……はい。ありがとうございます」


 中立になると言った会長の言葉は、どれだけ本気なのだろうかと考えていたのだが、今の言葉で安心する方に傾いた。


「話はそれだけ。時間を取らせてごめんなさいね」

「いえ。お話を聞けて良かったです」


 安堵したところで、私は部屋を後にして仕事に戻った。




 私が属する黄色チームは、皇太子殿下用の服が完成し、明日から新しい仕立てに取りかかる。今日は作業行程の確認と、割り振りを行った後に、他チームの補助に回った。


 赤チームは刺繍が終わっていない状況だったので、私が手をつけることにした。


「ありがとうルネ。それにしても本当に上手ね」

「ハリス会長のデザインが素敵なだけですよ」

「それを前提として、ルネの技術力が高いのは明らかよ?」


 完成品を見た赤チームのお針子が、たくさん褒めてくれた。刺繍の腕を評価されたため、頬が緩んでしまう。


「またお願いしてもいい? もちろんルネに余裕があったら!」

「是非。喜んでお受けします」


 自分にもできることがあると嬉しくなった。それと同時に、技術を叩き込んでくれたリシアスの先生と、機会をくれたお母様に心の中で深く感謝をするのだった。


「終わった~! やっと帰れるね」

「お疲れ様です、ジネット」

「お疲れ様! せっかく早く上がれるし、買い物してから帰る?」

「そうですね。明日からまた忙しくなるでしょうから、買い置きしておきましょう」


 買い出しは寮とは反対方向なので、裏口から出た後、表側に回る必要があった。


「それにしてもルネの刺繍技術は凄いよね。商会一なんじゃない?」

「さすがにそれは言い過ぎですよ。皆様お上手ですし、ジネットだって素晴らしい腕じゃないですか」

「いやいや。刺繍苦手だからさ。他のお針子も、苦手意識持ってる人多いんじゃないかなぁ。だから、ルネみたいに手早く正確に、綺麗な刺繍ができる人はありがたいんだよね」

「皆様のお役に立ててるようで何よりです」


 こんなに褒められ続けてよいのだろうかと思うほど、商会のお針子達に褒めてもらえた日だった。ふわふわした気持ちで歩いていると、遠目に馬車が見えた。商会の正面玄関付近にいる辺り、お客様の可能性が高い。


「……ジネット」


 嫌な予感を抱き、足を止めてジネットの腕を軽く掴んだ。


「? どうしたの、ルネ」


 ジネットはまだ馬車に気が付いていないようで、戸惑う声色で振り返った。事情を説明するよりも先に、馬車から人が降りてくるのが先だった。


(あの方は……確か、皇太子殿下のお付きの方だわ)


 となれば、中に誰が乗っているかは察しがつく。今近付けば、面倒なことになるのも容易に想像ができた。


「……すみませんジネット。あちらに、私を運命の番とおっしゃる方がいるみたいで」

「えっ……! あの馬車?」

「はい」


 解決策を考えながら頷くと、ジネットは私の気持ちを察してくれた。


「それは会いたくないよね。……これは村で聞いた話なんだけど、獣人って鼻のいい人は一定距離近付いたら番がいるって気が付くみたいなんだよね」


 そう言いながら、ジネットは私の手を握って裏口へ戻った。


「要は匂いでわかるってことらしいの。でも、逆に言えば匂いを変えちゃえばわかんない可能性があるってこと」

「匂いを」


 ジネットは力説しながら、バックに手をいれた。そして、中から小瓶を取り出した。


「これは香水。これをルネにかけちゃおう」

「よろしいのですか?」

「もちろん! 効果があるかわからないんだけど」

「ありがとうございます。後で新品をお返しします。どちらで購入を」

「いやいや、気にしないで。それ貰い物だから。私香水つけないから、使い道に困ってたの。むしろありがとう」


 逆に感謝をされると、それが不思議で笑ってしまった。ジネットから香水を受け取ると、体のあちこちにかけていく。


「すみません、少し香りがきついかもしれません」

「いいのいいの。私がきついって思えば、お相手の鼻も騙せるくらいだから!」


 肯定的に話すジネットに感謝をすると、彼女は話を続けた。


「あとね。何か気配で感じとる獣人もいるみたいなんだよね」

「気配?」

「うん。あくまでも聞いた話だから、意味があるかわからないんだけど」


 そう前置きした上で、ジネットは私の目を見た。


「ルネ、別人になれる?」


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