12.素敵な友人
「私がいた村は運命の番を夢見る人が多くて、関連する話を嫌というほど聞かされんだ。……それが嫌でメロリウス来たのもあるんだけど」
なんとも言えない顔をしながらジネットが話を続けた。
「運命の番って、獣人にとっては本能みたいなものらしくて。それで、見つけた瞬間にはビビビっときて、もうその人しか目に入らない……いわゆる、理性を失うって話を聞いたんだけど……」
「……そこまでではなかったですね。話し合いの場が設けられたほどなので」
皇太子殿下は、特に熱くなったり周囲が見えなくなったりすることはなかったと思う。
「めちゃくちゃ理性的だね。……精神的に成熟した人なのかな。おじいちゃんみたいな」
「お相手の年齢は存じ上げないのですが、幼さは感じなかったですね」
「そっか。それなら……あるの、かな」
ジネットは、納得できるようでできないという難しそうな顔になっていた。
「私が話してた運命の番ってあくまでも想像なんだけど……ルネから聞いた運命の番は、なんというか、全然ロマンチックじゃないね」
「そうですね……ときめいた瞬間は一度もありませんでした」
「そっか。態度とかはまぁ、話を聞く限りときめく要素なさそうだけど、顔とか声とかさ。好みだったりはしない?」
「好み、ですか……とても整ったお顔だとはおもうのですが」
好みかと聞かれるとわからない。それ以外の印象や要素で、恋愛対象から弾いてしまったから。
「……興味がない、が答えかなと」
「それならもう、未練もないね」
「えぇ、ないです」
ジネットの声にすぐさま頷くと、彼女は少し驚きながらも面白そうに笑っていた。
「やっぱり全然ロマンチックじゃないなぁ…………実際、運命の番ってそういうものなのかもしれないね」
ようやく腑に落ちた様子で、ジネットは深く頷いた。運命の番にそこまで興味を持っていないからか、それ以上話題には挙がらなかった。
「じゃあ尚更、ルネは新しい恋愛を探しにイベント参加しないと!」
「はい。頑張ります」
「話聞く限り、ルネは強かだからどんなイベントでも大丈夫そう」
「あら、そうですか?」
「うん。その強かさだったら、良縁は自力で掴めると思うし、悪縁なら速攻切れると思うから」
どうやらジネットの中で私の評価は良い方向に転がったようだ。私の中でも、ジネットという人も強かな人だと思えた。
(……ジネットは尊敬できる先輩で、とても素敵な友人だわ)
ジネットの言葉通り、私は彼女との良縁を掴めたと思う。出会いに感謝しながら、再び釣りを楽しむのだった。
しばらくすると、ジネットは立ち上がって体を伸ばした。。
「そろそろ終わりにしよっか」
「そうしましょう。お腹が空いてしまいました」
「もうお昼だもんね。ご飯なら任せて! せっかくなら釣った魚、私がさばくから」
「まぁ。ジネットはさばけるんですか?」
簡単な料理を身につけたからこそ、さばくことの難しさを知っていた。
「うん。自分で釣った魚は、さばくまでがセットだからね。安心してルネ。私結構上手いよ?」
「ふふ。それは楽しみです。良ければ教えていただけますか?」
「えー! 釣りだけじゃなくて、さばくところまで付き合ってくれるの? 天使じゃん」
魚を回収し、釣具を片付けたジネットは、目を輝かせながらこちらを見ていた。よほど嬉しかったのか、尻尾がピンと立っていた。そんな姿が可愛らしくて、尻尾ばかり目で追ってしまった。
片付けを終えると、寮への道を歩き始めるのだった。
ここまでお読みいただき誠にありがとうございます。
大変申し訳ございません。私の事情により、次回更新を3月11日とさせていただきたく思います。
毎日更新を掲げてきたのですが、二日も穴を空けてしまうこと、心よりお詫び申し上げます。