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11.おとぎ話の世界


 ジネットはメロリウスにいる歴が長いだけあって、そういう変な人をたくさん見てきたらしい。


「出会いの場っていいことだけじゃないからさ……そういう変な人に会う危険も考えて参加しないといけないところが、おすすめできない理由」


 真剣な声色と眼差しは心配してくれている様子で、その理由も納得できた。


(もう既に変な人に会っているのよね。ジネットには言えないけれど)


 恋愛を目的にメロリウスに来た身としては、危険を怖がって寮にこもっていては、意味がない。


(私の望む穏やかな恋は、お相手がいないとできないもの)


 お針子という女性だらけの仕事場を選んだ以上、自分から動かなくては何も始まらないことを重々承知していた。


「ジネット。私はそれでも素敵な方との出会いを夢見て参加してみたいです」

「そう?」

「はい。でなくては、メロリウスに来た意味がなくなってしまいますから」

「…………うん。それもそうだよね」


 私の主張に納得したジネットは、再びこちらに視線を向けた。


「それじゃあ、次のお休みは一緒にイベント参加しよう!」

「ですが、それではジネットの大切な休日が」

「ううん、大丈夫。ルネの言葉で目が覚めた。……私、ちょっと面倒くさくなってイベント避けて釣りばっかしてたんだけど……やっぱり恋人欲しいし、いい人と出会いたい。もちろん、ルネさえ良ければなんだけど」

「ご一緒できるのは、嬉しいですし心強いです」

「よかった」


 こうして、次のお休みの予定が決まった。イベントに関しては、ジネットがよさげなものを調べてくれることになった。


「ルネ。変な人に絡まれたら、最悪逃げていいからね」

「わかりました」

「大丈夫かなぁ……ルネ優しいから、そこに付け込んでくる奴がいる気がして」

「それならご安心を。こう見えてしっかりと壁を作る方なので」

「おぉ~もしかして、ルネって意外と強い?」

「かもしれませんね」


 自分でもそこまで心配はしていない。既に一件昨日お断りしたばかりなので、対応力は問題ないと思う。

 今度は自分の方に魚がかかると、急いで釣り上げた。


「私はさ、とにかく自由な恋愛がモットーなんだ。何にも縛られない、自分の感情に従う恋。ルネは?」

「私は穏やかな恋、ですかね」

「穏やかな恋?」


 キョトンとした顔のジネットと目を合わせると、自分の恋愛観について語った。


「なるほど……それは確かに穏やかだね」

「はい。あまり多くは望みませんが、そこは譲れませんね」


 語り終えると、少しの沈黙の後ジネットが口を開いた。


「それにしても意外。メロリウスってさ、運命の番目当てで来る人が多いから……ルネの恋愛観だと対極だよね」

「そうですね。……ジネットは運命の番にご興味が?」

「ないない。あれおとぎ話だと思ってるから」


 ははっと笑い飛ばすジネットを見て、なんだか私も笑みがこぼれてしまった。


「実際運命の番に出会えるのなんて一握りにも満たないって聞くし。それこそ縛られてるみたいでやだな。私がしたい自由な恋愛に反するじゃない?」

「確かに。そうですね」

「そこはルネと同じだね」


 お互いの恋愛観として、運命の番に興味はないという部分は共通していた。


「でも……そう考えたら、私とルネって立場は違うんだね」

「立場、ですか?」

「うん。私は運命の番を探す方。獣人だからね。でも、ルネは運命の番として誰かに探される方。そう考えたら、私は見つけても無視すればいいけど、ルネは見つかったら厄介だね」


 軽く笑いながら話すジネットは、運命の番をおとぎ話だと思っている故に冗談っぽく言っているようだった。


「もし見つかったら言って。私、全力でルネの味方するから」

「ありがとうございます。でもそれならもう大丈夫ですよ。お断りしましたから」

「あはは。やっぱりルネって思った以上に強かみたいだね。断る想像ができてるのは凄いや」

「そうですか? 好みでないお相手の告白をお断りするのと大差ないかと」

「言われてみれば……そうなのかな――――うん?」


 ジネットは釣り糸を垂らしたところで手を止めた。まるで思考が停止したように、微動だにしなかった。


「ルネ……聞き間違いだよね。もうお断りしたって聞こえたんだけど」

「いえ、間違っていませんよ。昨日お断りしましたので」


 私の答えを聞いたジネットは、こちらを見て目をぱちぱちさせた。


「冗談?」

「いえ」


 首を横に振ると、ジネットは川と私を交互に見た後、空を見上げて再び私を見た。


「…………えぇぇぇっ⁉」


 大きな声が静かな空間に響くと、ジネットは釣り竿を置いて私に近付いた。


「ど、ど、ど、どういう事⁉ もしかしてルネ、もう運命の番に見つかっちゃったの?」

「みたいですね」

「それまずいじゃん!」


 おとぎ話の世界だと思っていたジネットからすれば、あり得ない話だろう。


「もう見つかっちゃったって……ルネ、昨日何があったの……」

「私もよくわかっていないのですが――」


 混乱しているジネットに、昨日の出来事を話した。

 昨日、顔も合わせたことのない初対面の方から運命の番だと言われたこと。それを断ったところまで話した。

 お相手に関しては、ハリス会長のお客様ということもあって伏せてある。


 話を終えると、ジネットは状況を整理しているのか、難しそうな顔をしていた。


「う~ん?」

「すみません、ジネット。おかしなお話をしてしまって」

「え? あ、ううん。ルネの話を信じてないとかじゃないの。ただ、引っかかることがあって」

「引っかかること?」

「うん」


 深く頷いたジネットは、しばらく頭を悩ませると、私に視線を戻した。


「なんか……ルネが運命の番っぽくないね、その人」


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