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拝啓、○○に出会いました。  作者: 緋色
三章

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15/17

新人冒険者、誕生!

 次の日、フォーンゴーン邸の朝食。

 その日はカタリナも同席することが出来、アイゼンとしては初めての、ラドニーとしては久しぶりの全員での朝食となった。

 そのラドニーは少し遅れているようで、朝食を伝えに行ったターニャが困惑して先に戻ってきてそれを全員に伝える運びとなった。

「珍しい。寝坊かね?」

「いえ、起きておられました。何かなさっているらしく、もう少し待っての一点張りで」

「そうなのかい」

 カタリナは昨夜のやり取りを思い出して、訝し気に顎に手を添えた。

 昨夜は念入りに、「久しぶりに全員で食べたい!」と懇願してきたのに、その本人がいないのはどういう了見だい、と。

「アイゼンの旦那が呼びかけたら一発じゃねえかい?」

「女性には準備が多いと聞く。ここは待つが吉ではないか?」

「まあ、アイゼン様は紳士でございますね。それに比べてケニック。あんたと来たら」

 ヘルマが目を細めてケニックを見やる。

「俺は紳士とは程遠いからな!」

「やめんか、見苦しい諍いは。カタリナ様。どうなさいますか?」

 ゴームレットが制止し、カタリナに方針を求める。

「仕方ないね。あたしが行ってくるよ。……いや、来たかね」

 ぱたぱたぱた、とお嬢様らしくない足音が聞こえてくる。冒険者は足さばきにも気を使えるので、ラドニーほどなら気配すらさせないのにそれなのは、履きなれない部屋履きだからだろう。

「で、出来ました、アイゼン様!」

 食堂に飛び込んでくるなりの、ラドニーの報告。

 その顔は紅潮し、喜びが爆発していた。

 唖然とするカタリナ、ゴームレット、ヘルマ、ケニック、ターニャ。

 ただ一人、疑問顔のアイゼンに、あ、と気づいたラドニーは、慌てて言い直した。

「ま、間違えました、アイゼン! 出来ました! 出来たんです!」

「……む? ……!? さすがだな、ラドニー!」

 ラドニーの言いたい事に気づいたアイゼンは、驚きに腰掛けていた椅子を飛ばさんばかりに立ち上がる。

「い、いいえ、そんな! アイゼンのおかげです!」

 謙遜しながらも嬉しそうに微笑むラドニーは、落ち着かない両手をとりあえず落ち着けるべく組んだ。腹部の前で。

「ちょっとお待ち!」

 柳眉を逆立てるカタリナ。

「な、なんですとっ!?」

 驚愕のゴームレット。

「まあ……!」

 祝福に頬を染めるターニャ。

「これはご馳走ですね!」

 腕まくりをするヘルマ。

「さすが旦那だ! 手が早え!」

 褒めているのか貶しているのか分からないケニック。

「うん? 手が早い?  拳打の速度の事か? 」

 そんなのんきなことを言うアイゼンの右肩をカタリナが、左肘をゴームレットが掴んで食堂の外へと引きずっていく。

「なんだ? よくわからんが、とりあえず引きずられればいいのか?」

 誰への質問でもなかったが、返答はあった。

「素直で何よりだね。欲にも素直に従ったようだが」

「何という。何という事だ。このゴームレット、一生の不覚……!」

 片方は苦虫を千匹は噛んだような顔、片方は深い悔恨の刻まれた顔だった。

 意味が分からず、とりあえずされるがままのアイゼン。

 その様子に、ラドニーは戸惑うばかりだ。

「え、カタリナ、ゴームレット? アイゼン様をどこへ連れていくつもりだ?」

「いや、それは仕方ねえよ、お嬢。通過儀礼は受けねえと」

「そうですねえ。こればっかりは……」

 やたら頷くケニック、苦笑気味のターニャ。

「え、ええ? な、なんのことだ?」

 意味が分からず、助けを求める様に、今度はヘルマに視線を動かすラドニー。その間にも、アイゼンは食堂の外へ消えて行こうとしている。

「ご馳走にいたしますね! あ、でも、お身体の事を考えたメニューにいたしますから、どうぞご安心ください!」

「あ、ありがとう? いや、何の話だ? 確かに、教えていただいたことがうまく出来た事は喜ばしいが……?」

「まあ! アイゼン様に教えていただいた!?」

「いや、そんな生々しいことを聞いちまっていいのかよ? さすがにそれは言わねえほうがいいんじゃねえか、お嬢?」

「な、生々しい? そうなのか? ま、まあ、確かにそうかも。誰にでも出来るようなことでもなさそうだし、あまり公言しない方がよさそうだな……」

「そ、そんな高等技術だったのですか?」

 食堂から出て行こうとしていたカタリナとゴームレットは、ラドニーの発言を聞いて動きを止めていた。

 そのまま、ぎこちない動きで引きずられている姿勢のアイゼンを見下ろす。

 特に焦っているわけでもないアイゼンの態度に、ますます怒りが増す。

初心(うぶ)な娘に何を教えたんだい……!?」

「こ、これは、私も我慢なりませんぞ……!」

「な、なんだ? いや、確かにわたしも遅れて悪かったが、朝食の時間だぞ? アイゼンを離せ、二人とも」

「そんなの後だよ! あんたを孕ませたこの男を問い詰める方が先さね!」

「……ん? はら……?」

 聞きなれない言葉に首を傾げるラドニー。

「出来ちまったんだろう!? 子供が!」

 そう、カタリナはラドニーの腹部を指差した。改めて口に出されたその事実に、ショックで崩れ落ちそうになるゴームレット。祝福ムードのヘルマ、ケニック、ターニャとは対照的である。

「ぼ、冒険者として強くなるための鍛錬の、成果の話だけど……?」

 言いながら、状況の把握と共に、混乱と羞恥が迫り上がってくる。肌全体がピンクから真っ赤に染まるのはすぐだった。

「そ、そんなわけない。アイゼン様とは、まだ」

「まだ?」

 ラドニーが思わず零した言葉にすかさず食いついたターニャ。その顔には隠しきれない、からかいが浮かんでいる。

「……! は、はうあああああぁぁぁぁぁ……?!」

 堪えきれず、ラドニーは顔を覆って駆け出した。アイゼンが連れて行かれようとしていた出口とは別の、食堂の出口へ。

「あ、お嬢、前に気をつけねえと」

 ケニックの注意は遅く、ラドニーは扉横の壁に激突した。

 それでも覆った顔はそのままに、食堂を飛び出した。

「ぁぁぁぁぁぁ……」

 と言う悲鳴と、複数回の壁の激突音が遠ざかっていく。

「ま、紛らわしいにも程がある」

「よろしゅうございました……」

 安堵の表情のカタリナとゴームレット。

「なんだ、祝いの宴はお預けかよ」

 残念そうなケニック、ターニャ、ヘルマ。

「なんだかよく分からんが、解決したのか? 離してもらってもいいか?」

 通常運転のアイゼン。

 それに気分を逆なでられたカタリナとゴームレット。

 頭でも打てばいい、とばかりに二人同時に手を離す。

 ほぼ倒れた状態から手を離されたにも関わらず、アイゼンはそこで姿勢を持ち堪えると、すました表情のまま、よいしょ、とばかりに直立まで姿勢を回復してみせた。

「すげえな旦那。どういう仕掛けだ?」

 ケニックの感嘆に、ターニャとヘルマの拍手が重なる。

「腹筋の使い方にコツがある。それで、朝食はどうするのだ?」

「マイペースにも程があるねえ……!」

 カタリナのその言葉には、アイゼン以外の全員が頷いたのだった。



「はうああああぁぁぁぁぁ……! は、恥ずかしすぎるうぅぅう……!」

 ベットの上で、枕を被りながらゴロンゴロンと転げ回っているラドニー。

「こ、子供とか。バカじゃないのか、そんなわけないだろ、まったくもう……!」

 右へ行ったり、左へ行ったり。

「わたしはまだ全然……!」

 まだ、と言う言葉に、ターニャのからかいの表情が思い出される。

 また頭が沸騰するように、熱を持つ。

「って言うか、まだってなんだ! ああもうっ、ああもうっ!」

 ごろごろごろごろ、の後に宙に浮く感覚。

「いだっ!?」

 ベッドから落下したラドニーはしこたま後頭部をぶつけた。苦痛に、今度は床の上を転げまわる。

「うう……! 最近、よく頭をぶつけている気がする……!」

 と、そこに響くノックの音。

 ラドニーは反射的に怒鳴った。

「なんだっ!? 今、とても取り込んでいるところだ!」

「すまん」

(アイゼン様!?)

 扉越しの声に、誰に向かって怒鳴ってしまったか気づいて、蒼白になってしまうラドニー。

「ごごごごごごごめんなさい! ち、違うんです! ええと、ええと……! と、とにかく、今開けます!」

「待て、取り込み中なのだろう? 落ち着いてからで構わん」

(あ、相変わらず気遣いの出来る方だ! や、優しいなあ、もう……!)

 ぎゅうっ、と胸が締め付けられるような感情に、再び顔中に血が集まりそうになる。

 ふと視線を横にやると、扉近くにある鏡が目に入った。

 そこには、部屋着のワンピースを皺だらけにして、髪を乱した自分が映っていた。

 次いで、鏡は引きつった表情を映し出す。

(というか……!)

 慌てて振り返ると、そこは惨憺たるありさまだった。

 ベッドのシーツは皺だらけで、そこから落ちた時の衝撃でだろうか、絨毯がずれている。

 朝食前に慌てて着替えたのでクローゼットは開け放たれたままで、替えの服類がはみ出して見える。

(……ダメな奴の部屋だ! ぜ、全部片づけるのは無理! お待たせするわけにはいかない……が! せめて身だしなみだけでもなんとかしないと、恥の上塗りになってしまう……!)

 内心で絶叫しながら、とにかく髪を手櫛で整えながら、固有スキルである熱操作で服の内側から熱を与えて、服の皺を伸ばすことを試みる。

 手櫛がすっと通る髪に整えてくれたターニャに感謝した。

(ありがとうターニャ! 今度からちゃんと手入れする!)

「も、もう少々お待ち願えますか……!」

 服の皺が伸びて行くのを確認しながらのラドニーに、扉越しのアイゼンの声が届く。

「気にするな。のんびりで構わん」

(はううっ……! こ、心づかいが……嬉しくて辛いいぃ……!)

 部屋を区切るための衝立を移動させ、扉からの視線を遮れる位置に調整する。

 最後にもう一度身だしなみを確認し、扉側から見た時に部屋の全貌が分からないことを確認すると、ラドニーは激しい動機を落ち着かせる暇もないままに扉を開いた。

「お、お待たせしました……!」

 部屋着の裾を翻しながらラドニーは自室を出ると、素晴らしい速さで扉を閉めた。衝立があるからと言っても何も安心できない。アイゼンにだけは、乱れた部屋を見られたくなかった。

(もしあんなのを見られたら、わたしは羞恥で死ぬ……!)

「お食事をお持ちいたしました、お嬢様」

「ん?」

 ラドニーに声をかけて来たのはアイゼンではなく、その隣に立っていた、トレイを持ったターニャであった。

 彼女は、トレイに載せられたヘルマ特製の料理に彩りを添えるように、にこにこと邪気のない笑顔を浮かべている。

 ラドニーの表情が引き攣る。ターニャが笑顔の下で何を考えているか分からなかったからだ。

 そこから逃げるように、アイゼンに視線を移すラドニー。

「あ、あのあの……?」

 何を言うか決めないままに口を開き、舌がもつれる。そんなことは自覚できるのに意味のある言葉を紡げず、先ほどの食堂でのやりとりを思い出して、羞恥がぶり返してくる。

「朝食を忘れていただろう? ターニャが持っていくので、それに付き添えとカタリナに言われた」

「はい。アイゼン様のおかげで、すんなりとお渡しできます」

(カ、カタリナっ……! 紛らわしいことを言って騒がせたからって、アイゼン様とターニャを寄こさなくても……! しかも、楽しみにしてた全員での食事にわたしだけいないとか、へこむお仕置だ……!)

 閉じこもろうとしてもアイゼンに呼びかけられれば答えないわけにはいかないだろう、というカタリナの読みに見事にはまってしまったラドニーだった。

 しかも、アイゼンの顔を見れば羞恥がぶり返すし、ターニャの眼差しはやけに暖かいし、ラドニーとしては身の置き場がない。

 ふんす、と鼻息荒く機嫌を傾かせるカタリナが目に浮かぶようだった。

「あ、ありがとうございます。頂きます……」

 今度からは、発言には重々気を付けようと心するラドニーだった。



「……なん、だと……!?」

「……うげ」

「おはよう、バトゥ」

 三者三様に口が動いた。

 バトゥは信じられないという思い半分の驚愕。

 ラドニーは気持ち悪い、と言わんばかりの苦い顔。

 アイゼンは普段と同じ挨拶。

「なんでお前がここに……!」

「まさか、アイゼンの奴が本当に……!」

 アイゼンとラドニーの二人と、バトゥが鉢合わせたのはフォーンゴーン邸の前だった。

 二人は冒険者ギルドへ出向こうと邸を出たところ、そこにバトゥが待ち構えていたのだった。

 バトゥを問い詰めるラドニー、衝撃の事実に頭を抱えるバトゥ。

 その会話は噛み合っているとは到底思えない。

「とりあえず移動しながら話すか?」

「……よく状況が呑み込めないですが、それがよいかと……!」

「ちっ、相変わらず、いけ好かねえやつだ……!」

 そのバトゥの物言いに、機嫌が氷点下まで下降するラドニー。

「言葉遣いに気をつけろ。さもないと通報する」

「わ、悪かったって……!」

 本気の視線に、バトゥは顔を引き攣らせた。官憲にしょっ引かれたことは記憶に新しい。その上、実際にこの地域に住んでいるラドニーの訴えである。その効果は覿面であろうし、今回は実刑もあり得るかもしれない。下手なことは言えなかった。

 言い争いがおさまった事を確認してアイゼンは歩き出す。それに釣られたようにバトゥから視線を外してアイゼンの横につくラドニー。

 そのラドニーの振る舞いに苦々しく口元を歪めるも、何も言えずに、せめてとばかりにラドニーの横に、バトゥは並んで歩き出そうとする。

「離れて歩け」

「うぐっ」

 が、視線も向けずのつれないラドニーの通告が突き刺さり、足を縫い止められる。

「……ラドニー。あまり離れると、話しも出来ないが」

 苦笑気味のアイゼンに、思わずラドニーは口をへの字に曲げてしまう。

 アイゼンの言いたい事は分かる。

 バトゥの思惑は不明だが、ずっと相手にしないと、このまま付き纏われる可能性がある。

 今朝方に羞恥の限界を突破するような事があった。まだまともにアイゼンの顔を見れずとも一緒のお出かけという、恥ずかしくも嬉しい事があったというのに、見たくもない男のお出迎えである。天国から地獄とはこの事だ。今後、このような事が再発しないようにしておく必要はある。

 まだ難しい表情をしつつも、仕方なし、と言う色を見てとったアイゼンは再び歩き出した。

 それについていくラドニーとバトゥ。

 その並びはアイゼンを挟んだもので、各人の妥協の産物だった。

「それで、何の用だ。というか、よくこの一帯に近づけたな?」

「あ、ああ。別に罪を犯したわけでもねぇからな」

 一応は対応してくれるラドニーに、虚を突かれたように、どもってしまうバトゥ。どうだか、というラドニーの口の動きは、アイゼンに隔たれて見えなかった。

「で、何度も言わせるな。何の用だ?」

「あ、ああ」

(……何の用だったっけ)

 バトゥは首を傾げてしまった。と、その視線はアイゼンへと動いた。

(……ああ。ラドニーをあんなにしちまったアイゼンの居所を突き止めたかったんだっけか。で、ラドニーに何をしたのか問い詰める気だった。で、まさかとは思ったが……!)

「アイゼンがラドニーの家に住んでるとはな……!」

「その言い方には語弊がある。世話になっているだけだ。正確には、カタリナに世話になっている」

 ラドニーの質問への回答というより、自分への追求だと感じたアイゼンは、事もなく答える。

「……カタリナ? 誰だ?」

「ギルドマスター。わたしの義理の母親だ」

 質問を無視された形となっていたラドニーだったが、いい加減面倒になって来たので、話しの流れに乗ることにした。

「はっ? ギルドマスターってカタリナって名前だったのか。というか、ラドニーの? んな素ぶり、これっぽっちも」

「お前に説明する必要はないだろうが」

「相変わらず雑だなっ!? い、いや、それよりも……!」

 思わず立ち止まって、わなわなと震え出すバトゥ。

 何事かと、少々心配になって同じく立ちどまるアイゼン。

 ラドニーはバトゥをそのまま置いていきたかったが、アイゼンが立ち止まったのでそれに付き合ってしまう。

(付き合いのいい方だな! そこもいい所なんだけど!)

 ラドニーの中でアイゼンの株が上がる中、バトゥの震えは大きくなっていた。

「ギルドマスターの世話にって事は、あそこはギルドマスターとラドニーの家で……! つうことは、アイゼンは、ラドニーの母親公認……! ば、バカな……!」

「……確かにカタリナ公認と言えばそうだが……?」

 バトゥの態度は訳が分からなかったが、言っていることに違いはないので、肯定するラドニー。

「ほ、本当にそういう事なのかよ!? あ、あの、冷酷無愛想鉄面皮のラドニーが……!?」

「喧嘩を売っているなら買うが?」

「い、いや、認めねえ……! 例え母親が認めようが、この俺が認めてたまるかよおぉぉっ!!」

「落ち着けバトゥ」

「諸悪の根源のくせして、よくもいけしゃあしゃあと……!」

(せっかくアイゼン様が肩に手を置いて下さったのに、振り払うだと? いらないようだな、その肩は)

 腰の双剣に手が伸びようとしているラドニーに対し、アイゼンは興奮しているバトゥを前に、ふむ、と思案した。

 そのアイゼンの視線がラドニーに転じられた。ラドニーは慌てて双剣から手を離して姿勢を正す。アイゼンは闘争は好むが、諍いは好まない。それを思い出して慌てた次第だ。

「ラドニー。顛末を話していいか? ギルドマスターに贔屓されていると思われたままでは、冒険者同士で不和を招きかねん」

(もう招いてるっつーの! ……つーか、何言ってんだ、こいつは?)

 今度はバトゥがアイゼンの物言いを不審に思う番だった。ラドニーとアイゼンが、親公認の恋仲として認められていると思っていたのに、この言い方では、まるで自分の認識が根本から間違っているようではないか。

「……確かに。わたしとしては恥を晒すような話しですが、贔屓されているという認識は、アイゼンにもカタリナにも失礼ですし」

 カタリナは公私混同をしない、自慢の義母にしてギルドマスターだ。

 アイゼンだって、不正や不実をよしとしない、高潔な人格だと思っている。

 なので、誤解されたままというのは、ましてやその相手がバトゥとなれば業腹だ。自分の恥よりなにより、優先すべきことである。

「……隠すことでもないが、あまり大っぴらにするんじゃないぞ。ギルド自体の不手際も含まれるからな」

 話しながら歩き出すラドニー。

 バトゥは、アイゼンがラドニーの家に世話になっている経緯をざっくりと説明された。

 とは言っても、ダンジョンで命を救われたこと、それを聞いたカタリナが謝礼代わりにアイゼンの世話を買って出たことくらいだ。

 結果的にギルドがダンジョンの危険度を見誤っていたことは不手際なので、下手に吹聴はしないように念を押すラドニー。

 聞くにつれ、バトゥのアイゼンに向ける視線が、苦々しいものに変わっていく。

「……予想はしてたが、ラドニーより強いってことか」

「その通りだ」

 なぜかアイゼンではなくラドニーが胸を張る。

(ちっ。分かっちゃいたが……どれだけ強いんだ、こいつ?)

 バトゥにはアイゼンの実力は計り知れない。なのに、強いとだけわかる。それはもはや本能が危機感を覚えるレベルだ。

 なのに、当のアイゼンは顎に手を当てて思案気だ。

「相手による。俺は殴ったり蹴ったりが本領だから、それが効かんような相手だと困る」

 ラドニーは、そのアイゼンの発言を聞いて、目から鱗が落ちる思いだった。

(……確かに。アイゼンは圧倒的な力を持っているが……その力をいなすような相手だと、果たしてどうだろうか? 力づくで何とかしてしまいそうだが……限界はあるだろう。それに、自分が出来ることと出来ないことを客観的に分析出来ている。その冷静さが生死を分ける場面もあったかも知れないな……)

 アイゼンへの尊敬の念をより高めつつ、ラドニーは会話に応じる。

「武器を持ったことはないのですか?」

「剣などを使ったことはあるが、手に馴染む前にすぐに壊れるのだ」

「どれだけの馬鹿力なんだよ?」

「馬鹿と言ったか? アイゼンの事を言ったのか?」

「ひょ、表現だろ!? いちいち突っかかってくんなよ!」

「それはお前の事だろう」

 突っ込まれつつ、バトゥは思う。

(いや、やっぱりなんかヤベェ。普通、「母親公認」なんて言葉が出たら、結論なんか一つだろ。なのにこいつら、贔屓がどうとか冒険者がどうとか、とぼけてやがるとかじゃねえ、マジでこいつら、そういう価値観に疎すぎるんだ。嘘かほんとか知らねえが、アイゼンは旅の武闘家って言ったか。そればっかり磨いてたからそうなのか? ラドニーもクエスト尽くしで……クールビューティって思ってたが、そういう事を知らねえだけだったんじゃねえか!? つう事はこの二人、まだお互いにそういう感情はねえ……のか……!?)

 バトゥが高速で思考を展開する中、アイゼンとラドニーの会話は弾んでいる。

 アイゼンは素直に頷いたり感心したり、ラドニーは食い入るように身を乗り出したり時折きらきらした瞳をアイゼンに向けたりしていた。

(そんなわけねえ! どっからどう見てもそういうこったろ!? いつのまにかラドニーはアイゼンから「様」が外れてるし! 距離が近づいているのは間違いねえ! このままほっとくと、自覚しちまう! なんとかしねえと、あのラドニーが……!)

 例え偶像と言われようがラドニー自身がその考え方を否定しようが、バトゥの中ではラドニーは孤高で神秘的なイメージで塗り固められている。

 そんなラドニーに追いつこうと駆け抜けてきたバトゥにとっては、ぽっと出の人物に塗り替えられるなど冗談ではなかった。

(やっぱり敵だぜ、アイゼンは……! なんとか、これ以上仲良くならねえようにしねえと……!)

「そ、そう言えばよ! なんでラドニーの家の前に居たかだったよなあ!?」

 焦りどもりながらの急な大声に、歩みが寄り添わんばかりになろうとしていたアイゼンとラドニーの視線がバトゥに向く。

 というより、アイゼンはただ素直にバトゥに視線を向けたのに対して、ラドニーは今まで自分に向けられていた瞳がそらされたきっかけを疎ましく思って視線を転じただけだった。

 ラドニーの視線は射殺さんばかりだった。

(せっかく、アイゼンと楽しく会話をしていたのに!)

 アイゼンとの会話が楽しくてたまらないところに、無粋な横槍が突っ込まれた形だ。機嫌が傾くのは当然だった。

 ラドニーの視線の意味が分かりつつも、バトゥとしては横槍を入れて二人の間を空けるのに必死なので、口を止めるわけにはいかなかった。

「ア、アイゼンに礼を言おうと思って探してたんだよ! もしかしたらラドニーのところかも知れねえって思ってな!」

 ラドニーは疑惑の視線を隠そうともしない。

「礼? 御礼参りか?」

「なんでそうなるんだよ! 怪我を治してもらった礼だっつーの!」

「ああ、あの時のことか」

 頷くアイゼンに、バトゥは舌打ち交じりだ。

「あんがとよ。おかげで助かった」

「どういたしまして」

 雑な謝礼にラドニーの方こそ舌打ちをしそうになったが、当のアイゼンが素直に受け取っているので何も言えない。

 その代わりに、疑惑の視線にさらに力を籠める。

「で? どうしてわたしの家を知っていた?」

「…………」

 途端、バトゥの饒舌さは鳴りを潜めた。いやな汗が額に浮かぶ。

 その様に、これ以上追及すると気持ち悪い答えが返って来そうだと思ったラドニーは、返事を待たなかった。

「今度、家の近くで見かけたら切り捨てる」

「……おう」

 追及が止んだことに安堵しつつも、本気の視線に冷や汗が止まらないバトゥ。

 そんなやり取りをしているうちに、アイゼンとラドニーの目的地である冒険者ギルドにたどり着いていた。

「バトゥも冒険者ギルドに用があったのか?」

「……まあな」

 本当は目的地などなかったが、そう言う事にしておいたバトゥ。アイゼンは納得した様子である。ラドニーは胡散臭げな表情を隠していなかったが、アイゼンが何も言わないので同じく何も言わないようである。

(なるほどな……忌々しいが、アイゼンのこの素直さはありがたい。今後も、こいつのこれにのっかるとしよう)

 ラドニーが知れば「素直なアイゼンを利用するとは何事か!」と激怒されそうな事をバトゥは思っていた。

 ラドニーは気分を切り替えたようで、そんなバトゥには構わず、アイゼンに明るい声をかける。

「よし、では行ってきます。わたしの鍛錬の成果をご覧ください!」

「うむ、力み過ぎないようにな」

「はい!」

 意気揚々と、ラドニーは自分の手荷物から、目元を覆うタイプのマスクを取り出して装着すると、冒険者ギルドの扉をくぐっていった。

「は? なんだ、いきなり?」

 ラドニーの奇行に戸惑うばかりのバトゥだったが、アイゼンはそれを知っていたかのようにいつも通りの表情でラドニーに遅れて付いて行った。

「お、おい!」

 バトゥも訳が分からないままに、それを追いかける。

 バトゥが冒険者ギルドに入ると、ざわり、といった雰囲気が身を包んだ。その中心はバトゥではない。今しがた入ってきたラドニーである。

 ラドニーはもちろんこのギルドの常連なので、顔見知りが多い。その場にいる職員たち、冒険者たち、その彼ら彼女らが、いつもとは違う雰囲気のラドニーに視線を投げかけつつも、声をかけられないでいる。

 そんな空気を切り裂くように、ラドニーは堂々たる足取りで受付へと向かった。

 そこにいるのはベテランのシズルではなく、受付歴一年ほどのカエデという十代後半の女性職員であった。

 カエデもラドニーがギルドに現れたことは気づいており、受付前に立った仮面付きラドニーに、何事か、と背筋を伸ばす。

「冒険者登録をしたい」

「ラ、ラドニーさん? ラドニーさんはもう登録されているのでは……」

 おもむろに切り出したラドニーに、カエデは戸惑う。当然の切り返しをしたカエデに、ラドニーはどこか胸を張る。

「わたしはそのような者ではない。わたしは……」

(……うん? そう言えば決めていなかったな。どうしようか……ええい、ままよ!)

「わたしは仮面の剣士アカゲ! まだ冒険者登録はしていない!」

 剣士の名乗りに応えたのは、引きつった顔のカエデと、ざわざわ、というギルドの喧騒であった。

「ラ、ラドニー? なに言ってんだ?」

 ギルドの入り口に佇んでいたバトゥも、呆然と呟くばかりだ。平然としているのは隣にいるアイゼンくらいであった。

「しょ、少々お待ちください……!」

 カエデが選んだのは逃走であった。そうして、受付の奥に消えていく。そこからやり取りが聞こえてくる。

「シ、シズルさん! 助けてください! ラドニーさんが変なんです!」

「カエデ? 何を言っているんです?」

「いいからお願いします!」

「あ、カエデ……!」

 引きずるように受付に連れてこられたシズルは、仮面をつけたラドニーの姿に一瞬、ぎょっとした。

「ラドニーさんが、仮面の剣士と名乗って、冒険者登録をしたいと……!」

「……は?」

「初めまして、仮面の剣士アカゲだ」

 耳打ちにしては大きいカエデとシズルのやり取りに、淡々と口をはさむラドニーこと仮面の剣士。

 今度は、視線の中心はシズルとなった。ギルド内の職員、クエスト探しを放り出した冒険者、すべてがシズルの対応を見守っていた。訳が分からないバトゥも同様である。アイゼンは除く。

「……それでは受付をどうぞ。カエデ、用意して差し上げて」

「えっ!? あっ、は、はい!?」

 シズルはベテランらしい対応をカエデに指示した。ギルド内のざわめきが大きくなる。

「さすがシズルさん」

「堂々としてんなあ……」

 そんな声はシズルの耳には入らない。とりあえず、模範的対応を行っただけなので。

(……どういうことなのか訳が分かりませんが、登録板に弾かれるでしょう)

 登録板とは、アイゼンが冒険者登録をした時にも使用した、名前などを書き連ねる水晶の板の事である。

 冒険者として登録済みの魔力波長を検知すると、赤く発光するのだ。

 そうしてラドニー(仮面付き)の前に置かれた登録板。

 受付業務を担当するカエデは未だに戸惑いの色が濃く、傍で見守るシズルも目を細めてはいるが、「どうせ失敗するでしょう」という面持ちである。

 対して、気合を入れるラドニー。

 昨晩、カタリナと話した後に色々と考えたのだ。

 故郷の血はともかく、アイゼンを尊敬もしくは崇拝の対象でしか見れない自分。

 それはもはや、どうしようもないものと思われた。

 自分の根源が、魂が、心がそう叫ぶ。この人に仕えたいと。

 跪き、頭を下げ、永遠の忠誠を誓いたいと。

 だが、それに応えるのはきっと、寂しそうな表情だろう。そうして、立ち去っていく未来が見えた。

 そうならないためにはどうするか。

 アイゼンは仲間を欲しているようだった。それに相反するような自分の姿勢をどうするか。

 深夜まで唸って、ふと思いついたことがあった。

 魔力を生み出す魔臓の存在が証明されて久しいが、その研究は遅々として進んでいない。

 魔臓は魂と結びついていて、魂は心と結びついている。故に、心で魔臓が生み出す魔力を操ることが出来る、という仮説を、ラドニーは聞いたことがあった。

 ならば、自分のこの魔力の色は、性質は、心を反映しているのではないか?

 それなら……自分の心を変えれば、魔力の色が、性質が変わるのではないだろうか。

 そうして、ラドニーは自分が立てた仮説を実行できないか、朝食間際まで繰り返してみせた。

 魔力が見え、執念に溢れたラドニーだからこそ出来たことだった。

 それを、ラドニーは名付けた。

(……行くぞ。「アイゼンと仲間モード」!)

 内心で呟き、自分の意識を切り替える。ラドニーの魔力波長が、僅かに塗り替えられる。

「ほう」

「……な、に?」

 その変化に気づいたのは、その場ではアイゼンとバトゥだけだった。

 アイゼンはその魔力波長の変化のスムーズさに、感嘆の声を漏らした。

 バトゥは、まるでラドニーが別人のように見えて、一瞬、眩暈のような感覚に陥った。

 ペンを手に取ったラドニーは、名前の「アカゲ」から始まり、すらすらと登録板に記述していく。

 記入欄が埋まっていくたびに、シズルの眼が驚愕に大きく開かれていく。カエデは、口をぽかんと開けたままだ。

(……なぜ。ペンが触れた時点で赤くなるはずなのに)

 シズルの驚愕をよそに、記入欄は埋まってしまった。自分の成果に、ラドニーは高揚で染まる頬を自覚した。

「さあ、確認を!」

「は、はい」

 カエデは、驚いた表情のシズルと登録板に視線を行き来させながら、書かれた内容を確認した。

「お、お名前はアカゲさん。十六歳、女、人間、剣士。得意分野は、双剣、炎……ラドニーさんそのまんまじゃないですかあ……」

「そんな名前は知らないな! さあ、タグをもらおうか!」

 高揚のため、語尾が上がるラドニー。

 カエデは涙目でシズルを見やった。返ってきたのは、諦めと頷きであった。

 手続きは正常に行われた。ここでラドニー(仮面)への冒険者タグの発行をためらう理由はなかった。シズルの諦めの表情は、それを思ったが故である。

 かくして、新米冒険者アカゲは誕生した。

 ラドニーはその手にした一等級の冒険者タグを、どんな高価なアクセサリーより丁重に首にかけた。

「よし!」

 拳を握りしめるラドニーを、カエデは死んだような目で見上げる。

「……えっと。こ、これで冒険者として登録されました。冒険者としての詳しい説明をお聞きになりますか?」

「必要ない!」

「そうですよね。十一等級ですもんね……」

「一等級になったばかりだ! それで、パーティー登録もお願いしたい!」

 要するに徹夜明けのテンションのラドニーがカエデに詰め寄る。

 これまた正規の手続き申請なので、カエデとしては断る術がない。書類を用意するカエデを尻目に、ラドニーは後ろを振り返る。

「アイゼン! これでパーティー登録できますよ!」

「分かった」

 ラドニーの声にアイゼンは静かに応じただけだが、そのやりとりに先ほどとは違う性質のざわめきがその場に広がっていく。

 ラドニーは十一等級で、ギルドのエースである。

 そのエースは、今まで誰とも特定のパーティーを組まずにクエストをやり遂げてきた孤高の存在である。その彼女が嬉々としてパーティを組みたがるとは。

 そう思った者の中には、アイゼンがつい先日に冒険者登録したばかりだという事を知っている者たちもいた。もちろんバトゥもその一人だったが、彼らがバトゥと違うのは、アイゼンの力量を知らないという事である。

 だから、ギルドに満ちる空気は相変わらず騒然としていたが、その中に明確な羨望や嫉妬と言った感情が生まれるのは必至だった。

 その中を、アイゼンは波を割るように歩いていって、混沌とした雰囲気の受付へとたどり着く。

「どうした、顔色が悪いぞ?」

 シズルとカエデを見て、素直に聞くアイゼン。

「……いえ、なんでも」

「……あははっ」

 嫌いなものを飲み込んだような表情で視線を逸らすシズルと、乾いた笑いで応えるカエデ。

「……少し疲れていますが、後で休憩を取りますので、ご心配なく。それより、……パーティ結成申請書のご記入を、どうぞ」

 担当はカエデだったが、つい応対してしまうシズル。彼女としては純粋に心配そうなアイゼンの視線は嬉しく思いつつも、少々痛かった。

「そうですね! パーティ名、なんにしましょうか……! 全然考えていませんでした!」

 わくわくしているラドニーに、頭痛のような錯覚に陥るシズル。

「俺に名づけのセンスはないな……聞きたいことがあるが、どちらに聞けばいい?」

「……こちらのカエデにお願いします」

「ふえっ!?」

 ぽん、と肩に手を置かれて、気絶から覚めたようにカエデが椅子の上で飛び跳ねる。

「それではお願いします。私は別件がありますので。それでは、失礼します」

 シズルとしては、この件を上司に報告しなければならない。決して、この混沌の状況から逃げ出したいわけではないのだ。シズルはそそくさと受付の奥へと立ち去った。

「……は、はい」

 カエデは諦めたように頷いた。

「カエデ。パーティー名を一時保留することは可能か?」

「は、はい。大丈夫です。ただし、一か月以内にはお決めください」

「そうしましょうか。で、リーダーなのですが」

「アカゲがいいと思う。教わることが多いと思うのでな」

「そ、そうですか。では、恐縮ですがわたしが務めさせていただきますので、よろしくお願いいたします」

「こちらこそ、よろしく。頼りにしている」

「は、はい……!」

 感激のあまり、意識が飛びそうになるアカゲことラドニー。思わず拳を握りしめてしまう。

(がんばるぞ、わたし!)

 意気込むラドニーの前で、パーティ結成は受理された。その時のカエデは、自らの死刑執行書類を受理しているようだったと、見ていた者は後に語る。

(なにか、盛大にやらかしてしまった気がします……!)

 カエデの内心はそんな泣き言で満たされていた。

「て、おいおいおいおいおい! なんだそりゃあ! お、俺も混ぜろおおおぉぉっ!」

 そんな受付に、バトゥが怒鳴り込んできた。

 先ほどから事態が進むのは見てはいたが、ラドニーの成した魔力波長操作に呆然としたままで、会話に介入するタイミングを逸してしまったのだった。

「…………」

 それに返って来たのは、ラドニーの冷淡な視線と無言だった。

「何者だ、名を名乗れ」

 それどころか、見知らぬ赤の他人宣言だった。

「業炎のバトゥ! お前と一つ違いの十等級の! 今更それはねえだろ!? さっきまで仲良く話してたじゃねえか、ラドニー!」

「他人の空似だ。わたしは仮面の剣士アカゲ。先ほど冒険者になった一等級だ」

「ぐががっ……!」

 一等級を前面に押し出され、バトゥは抗議をかみ殺すしかできない。バトゥもパーティ結成条件としての等級縛りは知っていたからだ。

「か、仮面か!? 仮面でなんとかなんのか!? ちくしょう、そういうことなら!」

 朝食にしようと買って来ていたパンの袋。その中身を手近なテーブルにぶちまけると、袋に二つ、目を出す穴を空けてそれをかぶって見せるバトゥ。

 そして、血走った眼を覗かせたバトゥは、そのままカエデに詰めよった。

「さあ! 俺も登録させろ! 名前はパントゥだああっ!」

「きゃああああっ!」

「何事ですかっ!」

 にじり寄る袋を頭に被ったバトゥ、心的疲労が限界に達して痴漢に襲われたような悲鳴を上げるカエデ、それを聞きつけて奥から駆けつけてきたシズル。

 冒険者ギルドは、さらなる混沌に陥った。

「初クエストですね! 何を選びましょうか!」

「最初は薬草採取がお勧めと聞いた」

 それを呼び起こした当事者たちは通常運転だった。

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