怪人いやらしい
ガッシャーンと民家のガラスが割れた。怪人が吹き飛ばされ。
「ナニ シテル!」
人影が空からブタ怪人を罵り、はばたいて粉塵を飛ばす。
だが、女はそれを焼き払った。
「!!!」
関西の住宅街。煌々とてらす都会の灯で昼間のように明るい。
変身ヒロインと対峙する三怪人の姿があった。
「炎ダ!! 気ヲツケロ!!」
食い下がるトリ怪人が、ヒロインに一撃を加える。
「くっ!」
「ガァアアアーー!!」
ブタのそばのサイ怪人も、天高く咆哮した。
(こんな近くに出現するなんて……)
しきりと周囲を見回しているエルレイヤー。だが戦車や装甲車しか見当たらない。それらはひっくり返っている。
「えさちゃん……」
その自宅にも近い。
「あぁっ!!」
余所見をしていたら、角で突き飛ばされた。
腹部に激痛。
「がはっ!!!」
さらに、突き上げられて身体が宙を舞った。
(あぐっ……!)
サイ怪人が突進してくる。
(いけない……)
「ぐはっ!!!」
(駄目、これ以上は)
「はぁあああっ!!」
何とか留まり、反転攻勢をかける。
「ギヒッィイッ!!!」
ケラチンの角を斬り飛ばした。
そのショックでかサイが踵を返そうとした。
「フヒィイイイン!!!」
「きゃぁあああーーーっ!!?」
サイ怪人は、近くで大爆発した。
爆風が通り過ぎてゆく。
「な、なに……!?」
ニーソやアーマーに穴があいていた。
『気をつけて。怪人は、自爆することがある』
「りょっ、了解……。自爆っ……」
サポートするUEDJからの通信。
「でもっ、あと2ツ!」
上から急襲するとトリ怪人は住宅街を右往左往と逃げまわった。そして、とうとう袋小路へ。
「クッ……」
「そこまでよっ!!」
ほぼ水平に振るった剣に斬られ、肉片と鮮血が宙を舞う。
「!!!」
「ナニ!?」
トリ怪人のまえに、触手が立ちはだかり彼を守った。
「!!」
そのメデューサの髪からは血が吹きだしている。
変身ヒロインはたじろいだ。気味の悪い怪人をみて。
「新手!? また三対一!」
やはり、どこかに湧いて出るポイントがありそうだ。次々と現れる怪人に、彼女の心が減退してゆく。肉体的にも損傷がある。
「グゲゲ……」
よつばは片膝をおとし玉の汗をかき、息を弾ませる。
「それでも、わたしがこの街を」
負けるわけにはいかない。多くの市民の命がある。
彼女は、意を決して攻勢にでた。
「やぁああーーっ!!」
タックルをかけ、蹴り上げる。
「ブベッ!!」
艶めかしい脚がキモめな触手をとらえた。
「オウフッ!!!」
さらに回転してのハイキックが決まった。
上段回し蹴りをモロに食らったイカを見て、仲間が思わず心配する。
「オイオイ……!!!」
彼女はミニスカートで脚を振りまわし、パンツは丸見えである。まぶしい太ももが風をきる。
「……」
そんなことはつゆ知らず、剣を高々とつきあげた。
「これでトドメよ」
「!?」
「痛みを感じず逝かせてあげる」
「愛の剣! キラキラエクスタシーーω!!!」
よつばも、妙な必殺技をくりだした。真面目な彼女で変な意味はなさそうだが。
「!!?」
しかし、そのピンクがあたる直前、相手にブーーッと何かを吐かれて逃れられた。
(ま、まてッ!)
暗闇を振り払い、保持するピンクを押し付ける。
「やぁああっ!」
「!!!」
手応えがあった。鮮血があがる。だが、本体がいない。
「あうっ!!」
たわわな胸が揺れた。激しい衝撃がそこへ。
吹き飛ばされて薄目を開けると、相手のもう一本の腕。
「くっ……、技が……いやらしい……」
目くらまし、手が伸びる。完全なキワモノ怪人。
相手を非難し、肩をおさえて起き上がる。
「いやらしい……」
「!?」
痛みによる生理現象か、よつばの胸はアレになっていた。
何か恥ずかしい。それを腕で隠す。
ラバーなのにどうしてこうなるの。
「エッチ」
「……」
『No44、引くんだ! まだ来ない、支援が!』
UEDJから撤退命令。
近くの病院にも怪人、とのこと。他はそこへ。
『次、自爆されたら』
「……了解」
『増やしておく。管区の人員を』
「待テ!!! エルレイヤー!!」
トリとブタ、ぼろぼろのイカは、逃げてゆく変身ヒロインの後を追った。
「はあっ、はあっ、はあっ」
新しい古民家へ帰ってきた人影は、メイドの顔をうかがう。
彼女は首を横に振った。
「そっ、そんな……」
両手を膝につき、前屈みで息を整えるえさこは、全身に汗をかいていた。
「お兄ちゃーーん!」
「学校は?」
「……」
空に向かって大声で叫ぶ妹に、浅木が訊ねた。
しかし、えさこはコンクリート塀からまた外へ出ていった。
「お兄ちゃーーん!! 怒らないからーー!!」
その姿は、弟を探す姉のようであった。
「うわぁああーーん!!」
しかし泣き出した。
何者かに侵略され、すでに半年が経過している地球。
アメリカや中国などは壊滅され、今、日本にも魔の手がのびている。
暗く、光のささない部屋に怪人が何人か、いるようだ。
「『女戦士』」
「ウム。『女戦士』ダ」
「コレガ 邪魔ヲ」
かすかな光の下、全身黒マント、犬のような鼻の青髪、小怪人がいる。
全身黒マントは三角形シルエットで眼だけ赤く光る。
「『ンギソ』ハ?」
「『ンギソ』ダ」
壁ぎわにも多数の大怪人が居並ぶ。
「消息ガ……。発信源ガ 消エテカラ」
「報告サセヨ。状況ヲ」
瀬戸内海の漁港にたたずむ灯台のたもと。波が打ちつける防波堤に、傷ついたイカ怪人を介抱するブタ怪人がいた。
「大丈夫? ンギソ」
「エ、エルレイヤー……♪」
イカの顔はでろんと垂れ、それは驚くべき相好を呈していた。
「シッカリ シテクダサイ」