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それが私の

「あっ、上がっても?」

 セミも鳴きつかれた夕暮時。

 古民家のまえに少女二人の姿があった。

「え?」

 戦闘を終えた変身ヒロインが、傍らの女に訊ねた。

 幼馴染だから、ごく自然な流れである。友人の家にたち寄りたい。しかし、えさこは考える。

(家には、アイツが……)

「?」

 異常者の顔が浮かんだ。

(この子は変身ヒロイン……、アイツは……)

(そうよ! よつばとお兄ちゃん、絶対……!)


「ご、ごめん。また今度!」

 手を合わせて謝った。

「!? え?」

 よつばの顔に、動揺がはしる。 

 手が少し震えている。

「あ……う……」

「違うの!! わたしは来て欲しいんだけど、今日は、引っ越しの用事が残ってて!!」

「そ……、そっか……。じゃあ、明日ね」

 よつばは、そう言いのこし門前からすぐに姿を消した。

(あの子……、せっかく勇気を出してウチへ来るって言ってくれたのに……)


 えさこが気落ちして、とぼとぼと門をくぐり、ふと右手に目をやると、そこに人影があった。

「うわぁあああーー!!」

 悲鳴を聞きつけ、よつばがびっくりして飛んできた。

「ど、どうしたの? 大丈夫?」

 とっさに壁の奥へそれを押しやった。

「だ、大丈夫、大丈夫。ヘビがいただけだから」

 足で、ゲシゲシとイカ怪人を踏みつけながら。



「変化しないでって言ったでしょ!」

 よつばを追い返し、兄を玄関へ押し込んでからえさこは肩を震わせた。手をきつく握り、今にも赤いものが出てきそう。

「何やってたの!」

「……」

 手に何かを持っている。

「人に見られたら、どうなってしまうか! 分からないの!?」

 その、スコップをとりあげ、腰に手をあて顔を近づける。

「お兄ちゃん! 人に見られたら――」

「コロス」

「!!?」

 突飛な返答に、妹はあっけに取られ、口は重力に逆らえず落ちていった。

「イタタタタ」

「せっかく再開できたのに!」

「アナタは、ブチ壊したいわけ!?」

 何かで視界がぼやける。何かで視界がぼやけるの。



 くらい、くらい闇のなか。目のまえに光があらわれた。

「イカよ……」

「ナンダイ。神様」

「実はのぉ、へっくし」

 ここ最近いつも見る――

「実はのぉ……」


「お兄ちゃん?」

「ンォッ?」

 しかし、30秒ほどで邪魔が入って飛び起きる。

「ド、ドシタ?」

「ご、は、ん」

 時計は十九時を示していた。

 頬をぷっくりと膨らませた女が立っている。



 リビングに入ると、金髪女がスマホゲーをしながら出迎えてくれた。住込みメイドのようだが家人に甘やかされていたらしく、その言動は酷いものである。

「あー。ごめん」

「?」


 用件をきいて部屋へもどるとケータイはふるえ、カバンからは手紙が二つ顔をだしている。

「……」

 それをゴミ箱へ。連絡先を教えるとすぐに広まった。知らない相手は手紙攻勢。

「!?」

 不意に、開いたドアから影がぬるっと入ってきた。

「ゴ飯ハ?」

「……。体調が悪くて。浅木さん」

 スマホをしていたのに。

「あっ! ちょっ! 何すんの!?」

「ス、キ……デ、ス? オ前ヲ?」

「知らないわよ……」

「……」

「食べるなー!!」



 その日の夜、近くのコンビニに男女の姿があった。

「オイ エサコ。何処ヘ ユク」

「浅木さんに頼まれて」

「……」

「来るなって言ったでしょ」

「イク」

 お兄ちゃんと出歩くとドキドキしちゃう。

 多分、別の意味で。



 小ぢんまりした店へ入った。マーレの建物のように小さい。

 メイドに買物をたのまれた妹は、オレンジのカゴに何かを放り込んでゆく。主に『麺』と書かれている円盤。

「……」

 兄も、それに倣って目に入った商品を手に取る。様々な食品。

 紙のパック。

 十個入りの楕円。

 黄色いふさ

 緑の植物。

 透明袋の茶色。

 ピンクのネバネバ液に細い透明な切り身の入った……パッケージには「イカの塩辛」

「…………。イカ ノ……」

 それを見ていたえさこが慌ててやってきた。

「食べないで! 駄目よ!」

 勘違いしている。



 レジで精算待ちをしていると、へんな男が数人こちらを見ていた。たむろしている柄の悪い連中が。

 うわ、最悪。

「お?」

「……」

 脚を隠した。ミニスカートの。

 よく絡まれる。同類だと思われるのか。

「ンォ」

「!!?」

 後ろの男をみた彼らの表情がかわった。

 振り返ると、その男はカゴの中身を口に運んでいた。

「すみません! すみません!! すみません!!!」

 ポカンとするレジの人に平謝り。

 ついでに不良にも平謝り。

「お、おう……」

 相手は完全に引いており、後ずさりして出ていった。



「やめてよね。食べるの」

「?」

 女が怖い顔をしてくる。店を出たところで。

「精算前に」

 言葉の意味が、わからない。セイサンマエ?

 万能ではないのだ自動翻訳器は。

「ニヘヘ」

「?」

 今度は笑みを浮かべて、手を組んできた。

 その手を払った。

「!!?」



 ながい夏の日がくれ、虫が狂騒をかなでる夜。

 街灯に照らされた影法師が二つあった。

「ねぇ。異世界転生しにきたの? 最強になって?」

「…………」

「負けてなかった?」

「……」

 両手に袋をさげた妹が、歩道をのそのそと歩いている。その前を、手ぶらの兄がふらふらと車道へ出てゆく。

 光に照らされた彼が口をひらいた。

「僕ハ 帰ルゾ」

「え?」

「返セタラ」

「何を?」

 向こうから車がやってきてハイビームを当てられ、クラクションを鳴らされる。兄はびっくりして歩道に飛びのいた。妹は買物袋で殴り掛かった。

「返セタラ」

「何を」

「オ前ニ、恩ヲ」

「……」

「そ、そんなの駄目よ。帰ってどうするの?」

「ブッ殺ス。エルレイヤー」

「!!? だ、駄目よぉおっ!!」

「No38、No38、No38、No38……」

「何言ってるの!?」

 兄は、恩を返せたら宇宙船へ戻るようだ。

「私に借りを返したいんだったら、ずっとここにいて!」

「エ?」

「ずっとここにいて!!」

 何かが溢れてくる。

「それが……私の――」


 ドドーンという、地鳴りが言葉をさえぎる。

「何? 地震?」

 数キロ先の街で何かが炸裂した。

 兄がイカ怪人に変身する。

「ちょっ! えぇええっ!?」

 彼は身体をくの字に曲げて、頭に生えた10本の足で地面に踏ん張った。

「ま、待ってぇえええーー!!」

 兄がどこかへ飛んでゆく。揃えた人間の足を前にして。





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