普通の友達
翌日の部活時間。台車を押してゆく影が図書室にあった。
書架のまえに脚立をおき、高所の隙間にそれを納める。
「ふぇっ!?」
「わぁああー!」
「よよっちーーッ!」
「ぎゃぁああーー!!」
バランスを崩して落ちそうになる女の下、ポニテとクラスメイトが駆けつけたが、皆そのお尻につぶされてしまった。
「いたたた、アンタ結構あるのね……」
辺りには書物が散乱している。
「およよは立派なもの持ってんぞ?」
クラスメイトが、落ちてきたよつばの胸や尻に目をやる。スカートが捲くれ上がり太ももが露になっていた。
「ほ、本だよぉ」
加害者は自分の脚をスカートで隠しながら、彼女らが受け止めきれなかったのは、自分が抱える五冊の本のせいだと力説した。
「……」
「図書委員なんだ?」
「ウチは仕事が多いから。部活扱い」
まだ明るい下校時間。住宅街に四人の女の姿があった。
街中には自衛隊車両がゆきかう。関西ですら物々しい世相。
「もう仲良くなったんだ? やっぱりえさちゃんだね」
腕を組まれる幼馴染をみてつぶやく。
「同じ部活なの」
えさこの隣の同級生が、その手をはなしてスパイクを披露した。そして、また、ぴったりとくっつく。
「……」
よつばは身長156センチ。えさこは164センチ。だが後者は実際よりも高くみえた。
「わたしなんて、まだ、ぱっとしない本の虫……」
よつばは体育会系に憧れがあるようだ。皆でキャッキャフフフしたいお年頃。
「そんなことない! 可愛いよ!」
「!!? えぇ!?」
クールなえさこに手を取られて見つめられ、黒縁メガネのしたの眼は右往左往とあたりを彷徨った。
「まーた、およよのおよよだよ」
「何なんだ、オメーは」
「どうして、こんな病み属性になっちまったんだろうねぇ。この子は」
そのとき爆発音がして大地が揺れた。
「きゃあっ!」
「な、何?」
四人のまえに、何かが塀を破壊してあらわれた。黒い物体。
それにより突き飛ばされた装甲車がひっくり返る。
「怪人!? 関西に!?」
関東のそれよりも、一回り小振りではあるが立派な怪人である。
地面に手をつき四本足になった。
「グルルルヒィイイイッ!!」
それが突然牙をむく。
障害物をなぎ倒し突進してきた。
「あぁっ!」
仲間の女が、とんできた木片ではじかれ虚空を舞った。
「離れてて! あぶない!!」
後ろを歩いていた少女は、みんなの前へ歩みでた。
「え?」
彼女は腕をぐるりと回して腰を捻り、ポーズをとる。
右腕を腰の横、左手は顔の右。
そして腕を振りあげジャンプする。空中で身体が回転しながら光に包まれた。
「地球の悪はゆるさない!
純愛戦士・エルレイヤー!!」
着地して、回転を止めるように腕を振り下ろした女は、関東でも聞いたような前口上を述べた。
白とピンク、オレンジのアクセントのある、ミニスカートの変身ヒロインに変身した。
「よつ……ば……!?」
右腕には細い逆扇の剣。腰には宝石の変身ベルト。
それが上空へ飛翔して地上の怪物との距離をつめる。
「やぁああっ!」
メガネは消え、髪はピンクのショートボブ。白いラバーのスーツは腰がフレアでたなびき、すらりと脚が伸びている。
「えぇええいっ!」
剣を振り下ろすが、避けられた。
「グヒィイイイッ!!」
黒ニーソの太ももと膝下は白ブーツ。高いヒールが着地する。
「よよっち!」
剣の根元の腕にはブーツと同様、白のアームウォーマー。胸には、たわわな白メロンが二つぼいんと生っている。
「きゃぁっ!」
怪物に突進されヒロインは弾かれた。
『No44! 聞こえるか!』
「はいっ!」
不意に通信が入り、胸を揺らしながら応える。
『相手は恐らくブタ怪人だ』
よつばは振り下ろした手に、剣を握りなおした。
(こんなところに怪人が。まさか……)
「ブヒィイイイーー!!」
敵の突進を避ける。
「やぁあああーーっ!!」
下からLLソードを斬り上げた。
真っ赤な鮮血が、宙を舞う。
「キヒィイイッ!!」
脱兎の如く逃げてゆくブタ。出てきたサイとぶつかった。三体の怪人が姿をくらましてゆく。
辺りには血痕が転々と残されていた。
(関西に怪人……。おそらく……)
「キャァーー!」
「素敵ィイイーー!!」
背後から三人の声が聞こえた。
「こちら44。目標は北東へ逃亡」
『よくやった、他に任せる』
「カッコイイーー!!」
夏のおそい夕暮れにより辺りがオレンジに染まり、剣をもって振りかえる火星よつばは少女らの眼に眩しくうつった。
「およよーー!」
「よよっちーー!」
三人は駆け寄るが、えさこは目を丸くしたまま呆然としていた。
「よつば……ちゃん……」
そこにはえへへと照れる、文学少女のイメージとは程遠い綺麗でグラマラスなLL44の姿があった。
「すっごいね! 実際に見ると!」
クラスメイトと別れたポニテは、少女と二人で住宅街まで帰ってきた。
「44って何?」
出し抜けに訊いた。通信の内容を。
「あ、44番目。強さが」
「え? これが?」
「まだ初心者だしね。えへへ」
ヒロインのナンバーは強さ順になっているようだ。
「変われるかな……? わたし……」
制服姿にもどったよつばは、ずっと胸に喋りかけられ、思わず狼狽した。
「もちろんよ。綺麗だし! おっきいし!」
「……」
えさこは「胸」にあこがれがある。
「でも、今のよよっちも好きだよ?」
「えぇっ!!? すっすす……!」
赤面する彼女が何かに気づくと、そこは、古い民家だった。
「あ、上がっても?」
「え?」
幼馴染だから、ごく自然な流れである。友人の家にたち寄りたい。しかし、えさこは考えた。
(家には、アイツが……)
「?」
異常者の顔が浮かんだ。
(この子は変身ヒロイン……、でもアイツは……)
(そうよ! よつばとお兄ちゃん、絶対に……!)
「ご、ごめん。また今度!」
手を合わせて謝った。