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三題噺もどき

祭りの帰り

作者: 狐彪

三題噺もどき―ひゃくごじゅうに。

 お題:わからない・叫ぶ・やさしいひと



 ざわざわと。

 人が蠢く。

 等間隔に並ぶ屋台。

 あちこちから聞こえる。

 楽しげな声。


「わっ!」

「っと、大丈夫?」

「うん、へーき。ありがとう」

 慣れない浴衣に、慣れない草履。

 人混みの中、人にぶつかってしまい、倒れそうになったが。彼が支えてくれた。

「あっちで休憩する?」

「うーん…」

 その彼は、かなりラフな格好をしている。

 白の半袖のTシャツを着て、ベージュっぽい色のハーフパンツ。それに、水色のビーチサンダル。なんだか、年齢を間違えているような格好だ。ただでさえ童顔なのに、実年齢より幼く見えてしまうだろうに。―実際、屋台のおじさんたちに揶揄われていたし。どうやら、そのおじさんたちは彼の知り合いのようだった。どいうつながりかは、知らないが。

 彼らは、私と一緒に居たのをみて、からかい半分冷やかし半分、楽しそうに会話をしていた。

「もう少しで花火もおわるし…」

「なら帰ろっか」

 ―うちでゆっくりすればいいね。ついでにコンビニ寄る?

 なんて、二人だけの会話を楽しみながら、私たちは帰路についている。

 周りの人々は、次々と打ちあがる花火に目を奪われている。正直、私は、今年に入って花火を何回かはみているので、彼らほどの感動がない。ので、人が込み始める前に帰ろうという算段だ。

 実のところ、もっと近距離で花火を見たこともあったせいで。これだけ離れていると、私にとっては迫力に欠ける。量を打てばいいってものじゃないというのを、教えられた。

「花火見なくてもよかったの?」

 しかし、彼は私とは違うから。

 少し、今更になって、不安になってしまって、聞いてみた。

 すると、優しく引いてくれていた手を、もう一度握りなおして。わざわざ、指を絡めるようにしてきて。

「――がいいなら、いっかな」

「……」

 なんて、言ってくれるものだから。

 あぁ、何ていい人と巡り合ったのだろうと、実感し、かみしめる。

 なんとお互い、初めての恋人で。だからこそ、初めの頃はぎこちなさがあったのだが。日々を過ごし、会話を重ね、彼のやさしさに触れるたび。

 この人に会うために、今まで誰にも合わなかったのだと。思うようになった。

「でも、すごい大きいね、ここの祭り」

「そうだね」

「毎年来てたんでしょ?」

「ここ何年かは開催自体してなかったけどね。久しぶりだから、皆の気合がすごいww」

 ―さっきの屋台のおじちゃん達もすごかったでしょ。

 そいう本人も、結構楽しんでいるから、言えたことではないと思うが。童心に帰るではないが、心の底から楽しんでるんだなぁと。金魚すくいも、ヨーヨー釣りもして。頭には昔好きだったという、ライダーのお面までつけてる。子供っぽさ倍増だ。

「……」

 それすら愛おしく思うのだから。

 恋は盲目とは、よく言ったものだ。

「あ、あそこのコンビニでい?」

「うん、いこうか」

 そうこうしているうちに、近くにあったコンビニを発見する。

 祭りの喧騒からは、少し離れ、遠くに花火の音がする。とはいえ、近場は近場。屋台の明かりも、花火の打ちあがるさまも、はっきりと見える。

 よく見れば、わざわざ路肩に車を停めている者もいる。

 ―そのうち、警備の人が来ると思うが…やめた方がいいのに。

「とりあえず、何か飲み物でも買おうかな…」

「そうだねぇ、さすがに渇いたし…」

 信号待ちをしながら、二人。そんな話をして。

 コンビニは、道路を挟んだ反対側。

 目の前の道路は、片側一車線になっている。

 私から見て右手側に走る車と、左手側に向かう車がある。

 目の前にあるのは、右手側に向かう車。

 反対側の車線には、横断歩道から少し離れたところに、迷惑な車が、一台停まっている。

「あれじゃまそー」

「まぁね…」

 ライトもつけず、完全に停車させているようだ。

 真っ黒な車体。

 木の陰にもなっているせいで、見えにくそうである。

 中に人は居ないようだが…。こんなところに停めなくてもいいと思うのは、私だけではないだろう。

「あ、青」

「いこっか、」

 その車から視線を外す。

 ちか―と、青く光った信号。

 一歩、足を踏み出す。


 ブ―――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


「―――ぇ」


 反対側の車線から、ひときわ強い光が飛び込む。

 きっと、あの路肩に停まっていた車に気づかず、急にハンドルを切ったという所だろう。それか、花火に目をとられたか。

 勢いそのまま、こちら側の車線に入り。

 私たちに、向かってきて。


 ドンっー-!!


「った―!!」


 何かに押され、私はよろける。

 それが、彼の手だったことには、あとから気づいた。

 痛みに耐え、目を開ける。


「―――ぇ?」


 何が起きたのかわからない。

 直前に聞こえた、大きな衝突音。

 それとほぼ同時に、何かに押され。

 目の前には、ぐしゃりとつぶれた車の顔と。

 その下にいる。

 あれは―?


「――???」


 遠くから悲鳴が聞こえる。

 ひかれた?

 誰が?

 私ではない。

 だって、動けている。

 車の下にいる―あの人は―?


「――――??」


 恐る恐る、痛む足を引きずり。

 四つん這いの状態で。

 その人に近づく。

 ―動かない、あの人のもとに。


「―ぁ」


 つい先ほどまで、笑っていた。

 あのひとだ。

 やさしい、あのひとだ。

 わたしのたいせつなあのひとだ。

 あいしてくれた、あのひとだ。

 わたしの、やさしい、ひと――


「――ぁあ゛、あ゛あ゛っ!!!」


 どうして動かないの?

 体中が赤く染まって?

 なにがあったの?

 どうして?

 どうして?どうして?

 どうして?どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして――――???????????????


「――ぁあ゛、あ゛あ゛ぁああああああああああ!!!!!!!!!」


 漏れる叫びは、彼にはもう。

 届かない。


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