開幕『Quintet Requiem』
『君のセカイは何色だい?』
あの頃と相も変わらぬ様子で、彼女は再びそう言った。
言葉と共に抜けた風が彼女の髪を撫で、フワリと春の香りが鼻をくすぐった。
顔と胸がほんのりと熱を持ち、『羞恥心』という単語が頭を過る。久しく抱いていなかった『恥ずかしい』という感情は、今さら彼女の質問への答えを出したからだろう。
彼女にとっての色とは、目に映る世界と、そこに生きる住人の感情を示す。
今までの俺ならば彼女の目だけを真っ直ぐと見て、『あの色』を答えていただろう。
……だけど今は違う。もう過去には縛られていない。視界を濁らせる余計なフィルターは捨て去った。
周囲にいる友人達の顔を見回し、俺は見つけ出した答えを告げる。
「俺の世界は、色んな色が混ざってる」
『色んな色、とは?』
「無意味に生き続けるだけだった、俺の灰色の世界を……この場にいるみんなが染めてくれたんだ……」
一人目は無関心な俺の興味を動かしてくれた、心優しい同級生。
「現実という名の地面に根を下ろしてくれた緑色」
二人目は俺の心の扉をこじ開けてくれた、影が薄めな友人。
「俺に感情豊かな表情を咲かせてくれた紫色」
三人目は俺の生き方を否定してくれた、少し気が強い先輩。
「発破をかけるように言葉を降らせてくれた水色」
四人目はあの日より以前と変わらずに接してくれた、マイペースな幼馴染。
「自由奔放に俺らのことを引っ掻き回した茶色」
そして――
「凍り付くほどに寒い冬を終わらせ、春を迎えてくれた桜色……」
彼女は俺の言葉に対し、相づちを打ちながら満足そうに聞いていた。
「俺の世界は、人生は、俺一人のものなんかじゃない。それぞれが主人公として生きる物語が、幾重にも重なった世界なんだ」
一人一人が個性という名の『色』を持って生きている。同じ道を歩み続ける人など誰もいない。
十人十色とはよく言ったものだ。
「それに――」
いつの日か忘れてしまった、俺自身と共に亡くしてしまった言葉を告げる。
彼女は俺らを一瞥し、被っていた帽子を外した。
『それが君の、君達の答えなんだね……』
栗色の髪がバサリと広がると、後ろ髪を括る桜の髪留めが露になる。
柔らかい微笑みは春の陽気のように胸を暖かくし、自然と俺の表情は弛んでいた。
『その結論に至った物語を、ボクに聞かせてくれないかい?』
「ああ。わかった」
そして俺は、『魔法使い』である彼女に語り始めた。
これは俺と彼女で始まり、俺達で終わった物語。
とても長くて、とても短い、桜のように儚く散った夢物語――