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ショートショート2月~2回目

知る覚悟

作者: たかさば

「ねえねえ!藤岡さんは休みの日、何してるの!」

「うーん、ぼんやりしてるかな?」


「嘘おっしゃい!この前イケメンと歩いてるの、みたわよぅ~!」


「ちょっと!知ってるぅ?!城之崎さんてばめっちゃカッコいい旦那さんがいてね!この前スーパーで手つないで買い物してたのよ!」

「ええー!マジで!!あーん、見たーい!」


「撮った撮った!見てみて、これ!」


「ねえ、内緒だけどね、和田さんのツイッターアカウント、見つけちゃった!そしたらさあ…ひそ、ひそ……」

「…なにそれ、うわぁ、ほんとだ…ヤダ……。」


「もう飲み会誘うのやめようね?あんな裏表のある人…ぼそ、ぼそ……」


 僕の職場には、知りたがりの覗きたがりの……ちょっとあまり近づきたくないような人がいる。

 仕事上でコミュニケーションをとるうちにとか、一緒に出かけてとか、そういう双方公認のことならいざ知らず、見られていた側が知らないところで目を光らせているから、性質タチが悪い。


 しかも、いろんなことに首を突っ込み、いろんなところで目を光らせ、いろんなものを細かくチェックし…面白おかしく吹聴するのだ。


 弁当を覗き込んで貧乏度を測るとか、操作中のスマホを覗き込んでアカウントを調べるとか、ゴミ箱に捨てたものを覗き込んで健康診断の結果を見るとか、町で見かけた時に尾行して家を突き止めるとか、電話で話している内容を盗み聞きしてデート先で待ち構えているとか、本人宛じゃない封筒を間違って開けてしまったふりをして中身を見るとか…、やり方が汚いし、気分が悪い。はっきり言って、近づきたくない人物だ。


 しかし、仕事自体はかなりできるので、出来のよろしくないパート連中の中ではずば抜けて評価が高い。発言力もあり、みんなを纏め上げる側の人間に属しているのでパート仲間からの信頼は厚く、正社員からも一目置かれている。皆、この人物に対して思うところはあるものの…文句が口に出せないような状態だ。仕事ができるという自負があるから堂々としているし、周りも気を使って持ち上げるのでどんどん冗長してしまって…正直手に負えない。


「桂さーん!ねえ、今度飲み会あるの!一回も参加してないでしょ?みんなも寂しがってるし、顔出してよ!コミュニケーションは積極的に取らないと、ね!!そんなヒョロヒョロした体で!もっと食べなきゃだめよぉ!おいしいもの、みんなで食べよ!」

「はは…すみません、ちょっと忙しくて。好き嫌いも、多いし……。」


「あらやだ!ダメよぉ、食べ物は何でもおいしく食べなきゃ!なあに、彼女とかいないの?作ってもらえばいいのに!!イイ人紹介しようか?えっとね…」


 ……この職場に異動してきて半年。デバガメさんの興味は、もっぱら僕にあるらしい。

 僕はほとんどしゃべらずに仕事を黙々とこなしているし、表情も乏しくて何を考えているのかよく分からないと評されている。謎の多い人を暴きたくて仕方がないのだろう。暇があれば探りを入れてくるし、人のスマホをのぞき込むし、社内メールもチェックしてくるし、はっきり言って…うっとおしいことこの上ない。だが、ぴしゃりと撥ね退けることもできず、地味にストレスをためる日々を送っているのだ。



「お疲れ様でーす!」

「…お疲れ様です。」


 金曜、仕事を終えてロッカールームを出ると、デバガメさんがちょうど退社するところだった。いつもならもうとっくに退社している時間帯なのだが、今日は少し残業をしていたらしい。軽く挨拶を交わして、会社を出た。


 駐車場に向かい、車に乗って走行していると、後ろにデバガメさんの車がいることに気が付いた。


 …同じ方向なのか?

 ……たまたまこっちに用事があるだけなのかも?


 ………もしかしてつけられている?


 不審に思いながらも、いつものように…僕は大きな公園の駐車場に車を停めた。

 車を降りると…デバガメさんの車はない。…なんだ、気のせいだったか。僕は車を降りて、公園内のウォーキングコースを歩き始めた。


 10分ほど歩いたころ、前方から…やってきたのは、僕と同じ背格好の、帽子をかぶり眼鏡をかけた…ジャージ姿の、青年。


「…よぉ。」

「……おっす。」


 街灯に照らされたツレと軽く挨拶を交わし、一緒に人気の少ない公園内を…歩く。


 僕は毎週金曜、ツレと共にこの公園でウォーキングを楽しむ。待ち合わせをしているわけではないが、ぐるぐると公園内のコースを回っていると必ず顔を合わせることになるのだ。


「…なあ。」

「……うん。」


 一言二言、顔を近づけながら話をしていて、気が付いた。


「…知り合い?」

「……職場の人だね。」


 デバガメさんが…いる。


 ご丁寧に、歩道から少し離れた位置から、木々に隠れてスマホを構えている。どうやら僕とツレが並んで歩いている写真を撮っているようだ。

 なんていうか…ドン引きするくらい、好奇心旺盛だな。帰宅時間が遅くなってもいいから、他人の秘密を暴きたい、ってか……。探偵にでもなった気でいるんだろうか。


「…どうする?」

「……いいよ、いつも通りで。」


 僕とツレは、遊歩道から少し離れた木々の立ち並ぶ雑木林ゾーンへと向かった。ツレと小声で…内緒話を、少し。…はは、はた目から見たら、そうだな、愛を囁き合っている恋人同士に、見えるかも?小太りの体が木の幹の後ろからはみ出していることにも気が付かず、一心不乱に動画を撮り続けている人がいる。


 街灯の光が薄暗くなったゾーン。

 人目はあるが、薄暗くてはっきりしていない。


 デバガメさんが近づいてきたので、声をかけた。


「……珍しいですね、こんな所で…会うなんて。」

「あ、あら!!気付いてたの?も~!早く言ってよ!」


 ザッザァザッザッ!!!


 重みのある…駆け寄ってくる音が聞こえる。

 その表情は……ずいぶん、ニコニコとしている。


「そうですね…さっき、気付きました。ツレに、言われて、ね。」


 僕がデバガメさんと話している隙に、ツレが小太りの体の後ろ側に、まわる。


「お邪魔だったかしら!!いえね、ちょっと見かけたもんだから!…お友達?かっこいいわねえ、私


 薄暗い、鬱蒼とした公園内の樹木の横で…ツレと、僕の体が…ブレた。


「…知りたがるのは結構だけどね。」

「……知る覚悟ぐらいしてもらわないとね。」


 僕とツレの間に挟まれて…デバガメさんの体が消滅していく。


 僕とツレの間がなくなって…本来の形に、戻った。


 180センチ、130キロ…大きく膨れた体の中で、肉が溶けていくのを感じる。


 重量:72.5…体脂肪率40.3…骨密度…内容物…知識解析スタート…記憶読み込み…時間の切り離し成功……

 ……物質消化、完了。引き続きデータを抽出……。


 よし、また分裂しよう。

 木陰で細身の体二つに分かれた、ツレと、僕。

 180センチ、65キロの人間が、二人。


「…まあまあの情報量だね、知識欲が豊かなのかな?」

「……どうでもいいうちの会社の裏情報が結構あるな…あまり役に立たないクズデータが多すぎる。」


 僕とツレは、もともと、ひとつの存在だ。

 日常、それを二つに分けて、人に紛れている。


 人というものを研究している僕は、人としてこの星で暮らしているのだ。


 ごく普通の人として暮らしながら、たまに出来の良い人間を捕獲し、吸収している。

 人の持つ感情や知識を取り込むことで解析し、己の糧としているのだ。

 人の生きた記憶や痕跡というものは、時間という拘束条件もあって宇宙ではかなりの人気を……。


「…うわ、わりとしょうもない人生だな。」

「……まあ、それくらいは、覚悟してたけど…うぇっぷ……。」


 たまにひどい人間を捕獲吸収してしまい、その薄気味悪さや底意地の悪さに…げっそりすることがある。

 偉業を成し遂げたり、歴史の一部となった人間ってのは大人気なんだけど、つまんない人ってのは売れ残っちゃう場合もあってめんどくさい。


 貴重なサンプルだし、そうそう無下にもできないんだよね。

 下手するとあっという間につぶれちゃったり消滅しちゃったりしかねないくらい…弱い存在なんだ。


 せっかく吸収するなら、よりいいものを取り込みたいけど……なかなかうまくいかなくってさ。

 すごくいい人に見えて実はたいしたことない人とか、極悪人に見えて何も残せない人とか、見所のない人とか最近多いんだよ。


 わりと僕は美食家で、美味しくない肉ってのは…興味がないし、なるべく食べたくないと、常々思っている。

 ここ最近、ずいぶん食傷気味で、どんどん体重が減っちゃって…ああ、今回も痩せるパターンだ、胸やけがすごい。


「…どうする、酒でも飲んでごまかす?」

「……そうだな、たまには、そういうのも、いいかも。」


 二人(一人)で居酒屋に行くと、そこには。


「あれ?!桂さんじゃん!!なに、双子だったの?!」

「ホントだ!!そっくり!!!」

「ねーねー、こっちで一緒に飲もうよ!!」

「珍しいね、お酒飲むんだ!」

「俺のとっておきの酒飲ませてやるよ!」

「なに、ここら辺に住んでるの?」

「ねーねー、出野さん繋がんないんだけどー!」

「そう言う事もあるっしょ!のものも!」


 まさかの、会社の従業員たちがいた。


 しまった…、そういえば、飲み会が何とか言っていたような気がする。



 僕は、逃げ出すことができず。



 酒をたんまり飲まされて。



 我を失った、挙句。



 貴重な、サンプルを。




 あー、失敗、した……。


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― 新着の感想 ―
[一言] デバガメさん(笑 まぁ、食べちゃえばいいんですよー。
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