第9話 【マレッタ】、そして【空気】の秘密
9.【マレッタ】、そして【空気】の秘密
こんなに、すごい力を持っているとは思わなかった。
ボクだって固有スキルは持っている。
でも、神獣の前に立った時は、足が震えた。
来てくれなかったら、きっとボクたちはやられてしまってたと思う。いや、国自体が滅ぼされてしまったかもしれない。
感謝。……いえ、そんな言葉じゃ足りない。
お父様の言われたように『救世主』という言葉がしっくりくる。
逆転移をするメンバーとしてお城に来た時は、わからなかった。
だって、もう十年近くも前の出来事じゃない。あの時のことはよく覚えているけど、姿かたちは、すっかり変わってしまっていたし。
気になって調べておいて本当に良かった。
転移先から戻ってきた後、パーティから追放されて一人でこちらに向かったと聞いた時は、天の思し召しかとさえ思えた。その後、反乱が起きることも知ってたから。
ただ、メリデン王国の人は性格が悪いと聞いていた。
彼のことを心配もしてた。変わってしまっていたらどうしようと。
連邦警備隊長から善なる心の持ち主だと聞いた時は、居ても立ってもいられなかった。
早く! 早く会いたいと。
たまたま視察に来ていたポリンピアで襲撃が起きた時。
声が聞こえた時は、ドキッとした。戦闘中だったのに、ドキドキしちゃった。
そして、やはり段違いに強い……。思っていた通りだけど、本当に強かった。
少し無理したのかも。
お医者さんの話では、ケガは大したことがない。大丈夫だって言ってたけど、とても心配……。
「うーん……」
あ、起きたみたい?
「こ、ここは?」
「スマト城よ。勇者様、よくぞお目覚めで」
「おにいちゃん、良かった!!」
ステラ姉さんとトリエッティが話しかけている。ボクもなにか言いたい。でも、ちょっと恥ずかしい。
「ゆ、勇者ですって? 僕はそんな力、ないです」
「いえ、先ほどの敵はアレクくんが倒したのですよ。……あ、アレクくんなんて言っては失礼ですね。アレクさま」
「ええっ?! 僕はとにかく無我夢中でだったんで。なんにも覚えてないです。それに、アレクさまなんてやめてください」
ステラ姉さんの話に、アーくん、すっかり驚いた顔をしているわ。
戦闘のことは、覚えていないのね。それで倒してしまったのだから、やはりさすがだわ。
「では、これまでのようにアレクくん、でいいかしら? 寝ている間に鑑定してもらったのだけど、あなたは今、新しいスキルを身につけているのよ」
「おにいちゃん、すごいんだよ!!」
ステラ姉さんの顔が少し赤い。トリエッティもすっかり、なついちゃってるみたい。
いやっ、アーくんはボクのだよ!
あ、……でももう、そんなことも言ってられないんだろうな。
アレクはこの世界の宝。誰かのものじゃない……。
「アレクくんのゲットした【空気】は、逆召喚から戻ると一時的に消えるの。でも、しばらくすると【全固有スキル】に変わるわ。つまり、パーティがゲットした固有スキルの全てが使えるようになるの」
固有スキルについては、お父さんが調べているんだけど、まだまだわからないことだらけ。消えてしまったという話を聞いた後、お父さんが必死に調べて、つい先日知ったばかり。
アーくんの行った世界は【イーサリアム】。
だから、【全固有スキル(イーサリアム)】になっているはず。
この【空気】が、全ての固有スキルの根本だという。
そしてこの固有スキルを得た人こそが、真の勇者であり選ばれしものであると。
お父さんの話では、そう本に書かれていたそうだ。
「固有スキルは全部で29あるらしいの。それを全部ゲットした時、ようやく魔王と戦うことができる。倒したらきっと、お父さんの呪いも解けるはずよ」
ただ、ゲットする方法は、まだわかっていない。
姉さんの【時計】は、大事な舞踏会に寝坊した時に覚えたって言ってた。トリエッティは習い事に行くのがイヤで、抜け出したいと思った時に、ゲットしたらしい。
……変なの。
普通は戦闘とかで覚えるようだけどね。
ボクは、そう。多分……ポケットに入ってる、この水色の石。
「そこでアレクくんっ。全ての固有スキルを、わたしたちと一緒にゲットしに行ってくれないかしら!」
「ええーっ!?」
今のところ、戻って来たのはメリデン王国のパーティだけ。他の三つの国は、戻っていない。やられてしまったのか、いまだに手間取っているのかもわからない。
それぞれの逆召喚先の世界ごとに、四つ存在するという固有スキル。それをボクたちで取りに行こうということになっている。
もちろん、アーくんがいるからこそ成り立つ作戦。
「心配はいらないわ。アレクくんの力があれば、きっとうまくいくと思う。さっきの、無詠唱でスキルが出せるのだって、普通の人にはできないことだし」
ボクもスキルの名前を唱えないと発動しない。そういうもんだと思ってたが、さっきアーくんは、なにも言わずに発動できた。どうやって出せるんだろう?
「なんかイメージが頭にバーッと湧いて来たんです。凄いんですか? あ、でも、ステラさんも無詠唱じゃないですか?」
「わたし? あ、そういえば今何時だろうって思うと、頭の中に文字で浮かんで出てくるのよね。なるほど……って、仕組みはそうかもしれないけど、わたしのは時間だけよ」
姉さんはそう言って、苦笑いした。
イメージを頭で思い浮かべる、か。そうなんだ。ボクも今度、試してみよう。
「それから、合体スキルって呼んでいいのかしら。威力が桁外れね。ね、マレッタ?」
うん、偶然だったとは思うけど、たしかに驚いた。あ、えっと、あ……。
「そっ、そうね。ボクも驚いたよ」
「マレッタっ! 姫が『ボク』なんて言っちゃだめよ。まったくこの子ったら、小さい頃は城から飛び出して野山を駆け回るわ、どこか行った先でも勝手に一人で遊びにいっちゃうわで、お転婆すぎるわ。服だって男の子みたいだったし。もうっ、今でもそう!」
怒られちゃった。
でも、あれはメリデン王国に父に連れられて行った時のこと。
あまりにも詰まらないんで、いつものように抜け出して丘でトンボを追いかけて遊んでた。
その時に、ある男の子と出会う。