第8話 【魔王】、【マヌケなワグナー国王】そして【貴族令嬢クレシア】
8.【魔王】、【マヌケなワグナー国王】そして【貴族令嬢クレシア】
まったく、この国の王はマヌケにもほどがある。
せっかく戻った勇者を勝手に追放するなど、使えないやつばかりだ。
ワグナーと言ったかな、あの王は。
叱り飛ばしたら、這いつくばって許しを請うてきたわ。
「しかし、あの者は固有スキルが消えてしまっており……」
そんな言い訳はいらん。
そろいもそろって、なぜにこうも昔から我が部下は無能な者ばかりなのか。我が出ていけたら、楽なのだが、そうもいかん。歯がゆい。
「くそお、あいつら。余に恥をかかせやがって」
そんなことを言いながらワグナーは出ていった。今頃は周りの者に当たり散らしているのではないか。実にくだらんヤツだ。
あまりにも心もとないので、新たに神獣を貸してやらんといけないかも知れぬ。
もっとも、だからこそ、こうしてつけ入るスキがあるというわけだがな。
「我が力と転移から戻った者たちの力があれば、スマト王国を倒せるぞ」と言ってやったら、能なしめ、ホイホイと言うことを聞きおった。
言うことは聞いたが、まだ待てと言った我の言葉をなぜに聞けぬ。
貸した神獣まで連れて行きおってからに。
まだ、早いのだ。次にやることは、他国を襲うことではない。
こんな世界に興味なぞあるものか。
倒したあとは好きにしろとだけ言っている。
だが、それまでは我の言う通りに従ってもらわねば困るのだ。
スマト王に仕掛けた呪いも十分功を奏し、ようやくここまで無事に進んでいるのに、まさか、こんなところで誤算が生じるとは。
実に予定外である。腹立たしい。
まぁ、しかしだ。
いろいろと誤算はあったが、固有スキル同士を組み合わせて、新たな技が出るとは、我も知らなかった。いずれなにかの形で使えるかもしれない。
神獣一体は犠牲になった。だが、まぁ、大したことではない。
すぐに、また召喚すればよいだけのこと。
この世界の固有スキルを、スマト王国の三人の姫が持っていたこと。
これを知ったのも、実に大きい。
まさか、このような身近にいたとは思いもよらなかった。
クックックッ。
次にやるべき手が、すぐに思いついたではないか。
「全員まとめて、葬り去れ」
うむ、実に楽しみだ。
◆◆◆◆◆
あの魔王とかいう、得体の知れぬ力を持つ者。
余をここまで侮辱しおってからに。
「我の言うことが聞けんのか?」
魔王め、世界の王たる余に向かって、なんという口のきき方だ。
だが、今はじっと我慢。
確かにヤツの言う通り、絶好の機会には間違いないだろう。
あの忌々しきスマト王国を倒せるなら、じっと耐えるもよかろう。
メリデン歴代の王の悲願は、真の王たる余こそが、達成するのだ。
この世を支配するのは、偉大なるにして誇り高き王、すなわち余であるべきなのだ。
もっとも、あの魔王という者が、世界を支配すると言い出さぬかとヒヤヒヤしておる。
もしそうなれば、スマト王国の言いなりになっておる今と、なにが変わりあろうか?
「この世界など眼中にない」
今のところ、ヤツはそう言いおる。
いまだに信じられぬ。
信じられぬが、あの力を前にしては、とうてい歯向かうことなどできぬだろう。
スマト連邦はもちろんだが、どこかでスキをついて、魔王を倒せる手段はないものか……。
言いなりになるのは、腹に据えかねる。
ああ、こうして思い出しても腹が立つ!
◆◆◆◆◆
どうしてこう、おバカちゃんばかりなのかしらね。
いや、男っていうのは、もともと頭の悪い生き物なのかも。
王まで、あんなにオツムが弱いとは思わなかったし。
感情のままに人を殴るなど、愚かだわ。
虫けらの次に嫌いなのは、能なし。
どうりでスマト王国程度にさえ勝てないわけよ。
今の王家を滅ぼして、わたくしたちレムール一族が王に返り咲く絶好の機会。
かなり昔、愚かな一族の一人がしくじったせいで、伯爵なんて身分になってしまったけど、元は王族に連なる家系。くだらない政略結婚なんかでのし上がるより、今のこの好機を逃さず、機会をうかがって女王になってやるわ。
王とドレッドを言いくるめて、ようやく勇者パーティのリーダーまでこぎつけたしね。
まぁ、あのバカはちょろい。
「ありがとう、あなたのおかげよ」
こんな風に少し優しい顔したら、なんの疑問もなく、ころっと引っかかる。
メディバは口数が少なすぎて、なにを考えているか分からないけど、まぁ、誰に聞いても、表舞台に出てくるようなキャラじゃないわ。放っておきましょう。
パオロは、私からお願いした。
ドレッドは頭が弱いし、盾役としても不安。
実力はあると聞いている。性格的にも取り込みやすそう。申し分ない。
この世は情報がすべて。
いろんなところにお金を掴ませて、どんなことも聞き逃さない。
王のマヌケさや、国の悪事なんかも全部、頭に入っているわ。
いずれ脅しに使えるはず。
それと今、王の後ろに魔王というのがいるのも知ってる。
さっきの神獣だって、きっとその魔王が出したものよね。
あのバカな王なんかじゃ、無理。
「とても人には出来ぬ力をお持ちのようです。しかも、頭もキレるそうで」
これも情報屋から聞いた話。
ただ、残念だけどなかなか実態がつかめない。
何とか取り入るためにも、パーティのリーダーになっておく必要があったのよ。
どこかで手を汚すことになるかもしれないけど、そんなのは承知の上だわ。まぁ、わたくしがやったと人々には思わせないよう、ワグナー王だのドレッドだのを用意しておくことも大事。表向きは、信頼関係を保っておかないと。
しかし、気になるのは、あの虫けら……。
王が取り乱してたのは、きっと魔王からなにか言われたせいなんだわ。
魔王様の評価を高めなきゃいけないけど、わたくしにとんだマイナスがついちゃったかもしれない。
「覚えてなさい!」
あら……これじゃまるで、負けた者の捨てゼリフじゃない。
二度と口にしないでおきましょう。
ただ、妙な技を使ったのよね。
それと、固有スキルが、転移先にいた時と比べて弱くなっている気もする。
わたくしのだけじゃなくて、ドレッドも、メディバも。
スマトの姫たちと一緒になって動いてたのも、変よ。
まぁ、全員やっつけろと言われたので、今度会ったら、ひねりつぶしてやるわ。
全員、虫けら以下ね。考えるのもイヤ。早く倒して、頭から消し去りたい。
とにかく魔王様に認められて、この世界をわたくしのものにしなければ。
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