第7話 【貴族ドレッド】、そしてリーダーを外される
7.貴族ドレッド、そしてリーダーを外される
「なにをやっておる! お前らみたいなバカはこうしてやるっ!」
思い切り殴られた。
父や兄貴からは「バカ」とよく言われるが、決してオレはバカなんかじゃない。
誇り高き貴族なんだ。
まして殴られるなんて、あってはならない。
それがたとえ王だとしても……。
って、なんでオレが王様に殴られなきゃいけなんだ!?
王様なんて大した力がないんで、痛くもかゆくもないけど、人前で殴られるのは、とっても心が痛い。
横に同じパーティのクレシアとメディバだっている。
恥ずかしい……。
「なんでアイツを追い出したっ! このバカがっ!」
また殴られた。
アイツとは、どうやら一緒に転移して戻って来たアレクのことだと気づくまで、しばらくの時間がかかった。
平民のくせに勇者なんぞに憧れて、のこのこやって来た能無しだ。
しかも戻ったら、固有スキルをなくしてやがる。
その固有スキルだって、全く使えないものだったじゃないか。
はははは。しょせん、平民は平民よ。われら貴族と同じ舞台に立とうとするのが間違っている。
クレシアとメディバだって、同じように考えているはずだ。
いや、王様だってそうだったじゃないか?!
いったいどういうことだ?
……ったく、意味は分からないが、怒られてるのはオレだけじゃないはずだよな。クレシアは真面目な顔でこっちを見てるけど、よくよく見れば、わずかに口の端がニヤけているじゃないか。
「ワグナー王。今回のことは、わたくしたちの失態でございます。一番の責任は、リーダーのドレッドに間違いございませんが、わたくしたちも責任を感じております。そこで、どうかわたくしにリーダーをお任せいただき、名誉挽回のチャンスをいただけませんでしょうか?」
ク……クレシア? オレをリーダーから追い出すって言うのか?
ひどいやつだ。今までのオレの功績まで無駄にするつもりか!
「好きにするがよい」
「仰せのままに」
くそっ。勝手に決めやがって。オレこそ生まれついてのリーダーなんだ。貴族の格だって、クレシアより上だぞ。ここにいるメンバーの中で一番、高いんだ。とうてい許せないっ!
オレが文句を言おうとしたその時、慌てたように広間の扉を開けて兵士が入って来た。
「王さま! ご報告がございますっ!」
「なんじゃ、騒々しい」
「ポリンピアに派兵したゴブリン軍が全滅いたしました!」
「なんじゃと?」と王の顔が一気に青くなった青ざめた。
「お主、まさかあの神獣を解き放ち損ねたか?」
オレに向かって言う。王から預かったカエルの神獣は、たしかにポリンピアに残してきた。
「間違いなく、仰せの通りにいたしました」
「仰せの通りなはずがあるものか。くっ、このっ!」
王は横にいた兵士の棍棒を掴み、オレを打ち始めた。
さすがに武器で殴られると痛い。
「このっ! このっ!」
何度も叩かれる。
でぶでぶした脂肪だらけの王で、力も弱い。だが、口の中が切れたようで、苦いものを感じた。
「ええい、もうよいわ。実に不愉快」
「王様。まさか、あの虫けらを再度、連れ戻せと仰るのでしょうか? あの者、なぜかスマト王国の姫三姉妹と行動をともにしておりましたが」
クレシアの質問に、ワグナー王は苦々しい顔をしながら「次に会ったら殺せ」と言った。
「それでは早速向かいます」
「待てっ。次の作戦の指示があるまで待機じゃ」
「では、予定通りブラシアに攻め入るのでしょうか?」
「聞こえんかったか? 待てと言っとるのだ。作戦は全て白紙に戻す。黙って待機しとれ」
「ははっ」
王はそう言い残して去っていった。
オレたちは、宮廷の中に用意された一室に向かう。
「ドレッド、さっきはごめんね。でも、ああでも言わないと、王様、きっとお怒りが解けなかったと。表向きのリーダーはわたくしに変わりますが、これまで通り、ドレッドがメインでやりましょう」
僕の唇を濡れたハンカチでクレシアが拭いてくれる。
クレシア……。そうだったのか。オレのことをそんなにも気遣ってくれたのか!
さっきは、疑ってしまい申し訳ないっ。なんて情けないんだ、オレはっ!
みんなが言うように、バカなのかもしれない。
このこのッ! 愚か者めが!
「でも、ゴブリンたちはともかく、神獣までいたのに、どうして助かったのかしら。しかも、王様も、あんな虫けらのことを、突然気にしはじめたし……」
そうなんだよ。まあ、神獣なんて流星技剣が使えるオレの敵ですらないけどもな。でも、まさかあんな平民どもが倒せるとは思えない。平民といえば、あの場にアレクがいたことも気になるし、クレシアの言う通り、王が態度をいきなり変えたのも、おかしい。
「あの時の技も気になるわ。どう思う、ドレッド?」
あの時の技? なんのことだ?
クレシアはオレのことを、一瞬バカにしたような顔で見た。……あ、いや、どうもオレの気のせいだな、いかんいかん。いつも通り、オレのことを尊敬している顔だ。
「虫けらが使った技よ。私の固有スキルに似てたような気がするのよね」
「バカな! あの平民が使ってたのは、別のなにかだろう! ダメージだって低そうじゃないか!」
また一瞬、クレシアの目がオレをバカにしたように思えた。……いやいや、違う。これまで通りの、オレのことを崇拝している目だ。きっとオレはさっき王に罵倒され、落ち込んでしまっているから錯覚してしまうんだな。
「さっき使ってたあなたの【流星技剣】だけど、弱くなってる気がしない?」
なにを言ってる。バッタバッタと倒せたじゃないか。
「失礼します!」
扉が開く。
天井まで頭がつきそうなほどの大男が立っていた。
「ノックくらいするものよ」とクレシアは冷たい口調で言う。
「しっ、失礼いたしました!」
その大男は、グインという音が聞こえてくるかのように頭を下げた。
「王の命令で皆様とご一緒することになりました、パオロでございます。以後、なにとぞよろしくお願いいたします」
「パオロね。聞いてるわ。よろしく」
オレは聞いてないぞ? クレシアはなんで知ってるんだ?
「ドレッド、この人、盾やってくれるそうよ」
おおっ! これでようやく攻撃だけに専念できるのか! いやでも、お前、貴族なのか? 見たことはないが。
「はっ、マルセル男爵家でございます」
なんだ、ただの男爵か。
メリデン王国は、一番上が公爵。これは王家の直系だ。
その下が、オレがいる侯爵。さらにその下が、クレシアやメディバの伯爵家。もう一つ下に子爵があって、一番下が男爵だ。もともと平民だったものを、実績をあげたので貴族にしてやった、という身分にすぎない。
せいぜい、本物の貴族のために命をかけて働いてくれるが良い。
しかし、どうにも許せんのは、あの平民だ。だんだん腹が立ってきた。
この屈辱、すべてあいつのせいだ。
せっかく王に褒められるチャンスを台無しにしおってからに。
決して、許してやるものか!!
世界の果てまで追い詰めて、ぎったんぎったんにしてやらねば気が済まぬ。
しばらくして、オレたちに王の命令が伝えられた。
それは、オレが全く予想していないものだった。
【恐れ入りますが、下記をどうかよろしくお願いいたします】
「面白かった!」
「今後どうなるの?」
「続きが気になる!」
もしそう思っていただけましたら、
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ。
もちろん、正直な気持ちで付けていただければと。
ブックマークも登録くださいましたら、大変嬉しいです。
皆さんの応援が執筆の原動力となります。何卒よろしくお願いいたします!