第5話 メリデン王国の反乱、そして神獣
5.メリデン王国の反乱、そして神獣
スマト王国に入ってからは、立派な馬車に乗り換えて進んでいる。
馬車の中は、僕と老紳士、そして三人の兵士が座っている。
「あ、あの……これは一体?」
「ほっほっほ。心配せんでもよろしい。説明は姫さまからあるじゃろうて」
老紳士はそれだけ言い、なにも話してくれない。
すぐに城が見えて来た。
転移する前に、一度だけ入ったことがある。変わった様子はない。
「あなたがアレクくんね、ようこそスマト城へ」
城に入り、老紳士と一緒に広間へ通された。
大勢の人がいる奥に、濃い青色の服、額には宝石のついたティアラをつけた女性がいる。
歳は僕よりは少し上なのかな。落ち着いた雰囲気だ。
……と思ったのだが、こちらに歩いてくるときに、スカートの裾を踏んづけて転んだ。
「ひっ、姫様! 大丈夫ですか?!」
周りの者が慌てて駆け寄る。
「だ、大丈夫です。ご心配かけました。と、ところで……」
転がったティアラを受け取りながら、姫が言う。
「問題なしと報告を受けましたが、間違いはありませんね」
「ステラ姫。左様でございます」
老紳士は、姫に向かって頭を下げる。
「では、少しばかり秘密のお話をしましょうか」
姫はそう言って、足元をちらちらと気にしながら、部屋を出て行った。
僕は周りの人に連れられて、別の部屋に連れていかれる。
中には、ステラ姫だけがいた。
「はぁー、この格好はくたびれるわね。さっきは、恥ずかしいとこ見せちゃったっ。なかなか慣れないわぁ。もっとも、マレッタほどじゃないけどね」
さきほどとは全く違う口調で、僕に話しかけてきた。
「改めまして、ステラです。アレクくんね。どうぞ、よろしく」
僕はなんと言って良いかわからず、体が固まったまま「は、はい……」としか言えなかった。
そんな僕の頭を、いきなりポンポンと叩かれる。
「そこに座って」
言われるがままに、椅子に腰かける。
「驚いたでしょ? でも、無事、来ていただけて良かったわ」
ステラ姫はそう言うと、老紳士が僕の護衛として、ここまで付き添っていたことを明かしてくれた。
「いや、それだけじゃないの」
単に護衛役としてだけではなく、僕のことを見定めていたとも言った。
固有スキルを持った者が、もし邪悪な心を持っていたのであれば、即座に暗殺することになっていたとも。
あ、暗殺って……。恐いことをサラリと言うな。
「現に今、反乱を起こそうとしているようだわ」
メリデン王国の国王ワグナーは、帰還したパーティの強力な力を使って、このスマト連合を乗っ取る計画を進めている。老紳士の調査結果だという。
実際、勇者パーティが戻ってから、なんの報告もないらしい。
「それもこれも、私の父が……」
ステラ姫は真剣な表情になる。
魔王の呪いにかかっているというのは、事実だった。姫の父親であるレムセル王は、日の出前に気を失い、夜を過ぎると目を覚ます。日中は一切活動が出来ない。体も衰弱しているそうだ。
そのため仕事も行えず、人々の前にも出られなくなった。
王は起きている間の時間をずっと、城にある文献を読み漁り、魔王に対抗する手段を探したという。そこで、今回の勇者に関する知識を得たそうだ。
数年前に王妃も謎の死を遂げており、ステラ姫が王の代わりに公務をこなしているらしい。
「あ、12時1分5秒ね。そろそろお腹空いた頃じゃない?」
お腹は確かに空いてきたけど。
今、どこも見ずに時間を言った……? しかも秒まで?!
「あ、驚かせちゃったかしら。私の固有スキル、【時計】よ。ただ正確な時刻がわかるだけなんだけどね」
ステラ姫はそう言って笑った。
姫が固有スキルを持っているのか!
「わたしの妹も持ってるわ。そのうち紹介するわね」
あ、えと。
質問したいことが多すぎる。どこから、なにを聞いたらいいんだ?
いやいや、僕が固有スキルを失ったことも伝えないと。あ、でも、知ってるんじゃないんだったけか……。
扉を激しくたたく音が聞こえた。
「姫、一大事です! ポリンピアに、モンスターの襲撃です!」
「なんですって?! このタイミング……。もしかしてメリデン王国?」
姫はそう言うと、慌てて扉を出て行った。
一見落ち着いた感じがするんだけど、なんだかバタバタする女性だな。
そんなことを思っていたら、再びステラ姫が戻って来た。
「ついてきてるのかと思ったわ。なにしてるの、一緒に来てよ!」
手を引っ張られ、部屋の外に連れていかれる。
「おねえちゃん、どこ行くのよ、まったく!」
連れられて廊下を歩いていると、背中から声が聞こえた。
振り向く。
黄色いリボンをつけた、ちっちゃな女の子がいた。
先に丸い輪がついた棍棒を背負っているが、背が小さいため、棍棒がとても大きく見える。
「あ、これが一番下の妹、トリエッティ。ついこの間、十一歳になったのよ。誕生会ではね、歌をうたってくれたんだけど、それがもう……」
「おねえちゃん、もうっ。わたしの紹介してる場合じゃないでしょ!」
「あっ、そうだった! トリエッティお願い!」
「じゃ、手を繋いでね。お兄ちゃんも!」
僕はトリエッティに手を掴まれた。
なにかつぶやく声が聞こえた瞬間、目の前の景色が変わる。
「とーちゃーっく!」
トリエッティが叫ぶ。
僕はなにが起きたのか理解できず、辺りを見回す。
すぐ先に、ゴブリンの大群が見える。大勢の兵士たちが応戦している姿も見えた。
「ここは?」
僕が二人に聞こうとする間もなく、ステラはゴブリンの大群に突っ込んでいた。
手には大きな槍を抱えている。
あの槍は、どこかで見た気がする。先が三つに分かれた淡い水色の槍……。
「幻槍ボルギアスっていうのよ。本当はお父さんのなんだけどね」
トリエッティがにっこり笑いながら、僕に話しかけてくる。
ボルギアスだって?! 子供のころ、絵本の中で見たことを思い出した。
神器と呼ばれる、世界最強の武器だ。
ステラは大きな槍を振り回しながら、ゴブリンの大群を薙ぎ払っていく。
「で、一体ここはどこなの?」
「おにいちゃん、聞いてなかったの? ポリンピアよ」
あ、えっと。確かに襲撃があったのは聞いた。
でも、さっきまでお城にいた気がするんだけど。
「えへん。あたしの固有スキル【時現移動】で、ぴゅーって飛んできたの!」
そういえば、ステラは、妹も固有スキルを持っているって言ってたな。
瞬間移動できるスキルなのか。
しかし、ステラ姫は強いなぁ。逃げ遅れた市民の誘導までしながら、倒している。
剣と槍では違うけど、元の勇者パーティのドレッド並みじゃないかな。
でも、次から次へとゴブリンが湧いてくる。
大丈夫なのか?