第12話 猫ちゃん、そしてまた猫ちゃん
12.猫ちゃん、そしてまた猫ちゃん
宿泊する宿屋も決めた。
お金に余裕はないので、申し訳ないけど一つの部屋だ。
さすがにかなり狭いし「姫さまたち」なので、かなり心配していたのだが、誰一人文句を言わない。
前のパーティの時はそれぞれ個室を取っていた。僕はお金の心配ばかり気にしていたが、大違いだ。
たまにちょっと、目のやり場に困ることもあるんだけど……。
「ステラ『さん』っていうの、もうやめてくれないかしら」
そう言われてしまった。敬語も使わないでくれと言う。
同じパーティになったのだから、呼び捨てで構わないと。年上の人だし、なかなか困ったなと思う。それに比べて、マレッタはガンガン、僕のことを呼び捨てにしてくる。アーくんとも呼ぶ。小さい子供みたいで少し恥ずかしい。
ステラさんは僕のことを「アレクさま」っていう。
あ、そうか。だったら交換条件だ。
「だったら、僕のこともアレクって呼んでよ」
「えっ? ア……アレク………………さま?」
「だめーっ、ステラ、やり直しっ!」
そんな感じで、僕たちは仲良くなっていった。
役割分担してくれるのも、前にはなかったこと。
姫さまなので誰も料理をしたことがなかったが、僕が教えたら、ステラは一気に腕が上がった。もともと凝り性だし、煮込む時間など、時計で正確に測れるため僕が作るよりもウマいくらいだ。周りに住んでいる人たちとも仲良くなって、新しいレパートリーも増えている。
「おいしいっ!」
みんなに言われるたび、嬉しそうにする。
ただ、たまに砂糖と塩を間違えることがあるのは困ったことだが。
マレッタは情報収集をしてくれる。サバサバした性格なので、すぐにこの街の人たちとも顔なじみになったようだ。とはいえ恐いもの知らずみたいで、やばそうな人たちのところにもズンズン進んで行っちゃうので僕が付き添うことも多い。
トリエッティには、薬草のクエストをお願いしている。【時現移動】があるので、薬草が多く生えている場所へすぐに飛ぶことができる。ただ、戦闘能力は高くないので、たまに討伐を請け負った時などは、僕と一緒に出掛けている。
そういう時は、固有スキルは使わず、剣だけで倒す。トリエッティは通常魔法の【回復魔法】が使えるので、剣の練習にいい。
毎日が楽しい。
今日の出来事や、今までに読んできた本の話。みんなで歌をうたったりもした。
ベッドは二つしかないので、くっつけて姫三人が寝ている。僕は床に毛布を敷いて寝っ転がる。
トリエッティが枕をぶつけてくると、戦闘の合図だ。四人で枕投げが始まる。
あまりにも楽しいので、ここに来た目的を忘れてしまいそうになる。
それじゃダメだと思いつつも、特に目新しい情報もなく、二カ月が過ぎようとしていた。
トリエッティのおかげで、資金にも少し余裕が出来た。みんなのランクもEに上がっている。
新米の冒険者にしては異例のスピードだとのこと。
受けられるクエストも増え、情報も少しずつ入るようになってはいるが、まだ、固有スキルに関する情報は聞こえてこない。
毎日食事を作ってくれるステラのために、今日はちょっと豪華に、レストランで食事しようということになった。まぁ、とはいえ、街中にある普通の小さな店なんだけども。
「にゃあ」
猫がいた。
この街には野良猫が多く、いたるところで姿を見かける。レストランに入ろうとする猫は、お客の料理をかっぱらいに来ている。ほとんどの猫は、店員に追い出されることになる。
「こいつはいいんだよ」
店員さんが言った。
白く短い毛で、顔の真ん中と耳、しっぽの先、そして脚先だけが黒い。華奢な体をくゆらせながら、優雅に店の中を歩いている。ツンとすました顔は、なんとなく前のパーティの黒魔導士を重なるように思えたが、あれと一緒にしたら猫が可哀そうだと思った。
やはり野良猫だということだが、この猫だけは、決してお客さんの食事を盗まないのだそうだ。お店の看板猫で、わざわざこの猫に会いに来る客も多いとのこと。お客さんからは絶対に料理をもらわず、あとで店員さんがあげているらしい。なでると、可愛らしい声で「にゃぁ」と鳴く。
「どうです、撫でてみます?」
店員さんに言われて、僕たちはぐるっと輪になって、この猫と遊ぶ。
トリエッティが特になつかれたようだ。顔を何度も足元にこすりつけてる。頭の所をなでると、「ごろごろ」と喉を鳴らした。
「へぇ。初めての人には、めったにここまで、触らせないんですけどね」
店員さんが驚いていた。
僕も、ちょっと触ってみよう。
「!!!!!!!」
その時だった。頭の中でパンっと弾けるような音が聞こえた。
「アーくん、これ!?」
マレッタが僕の足元を指さす。
そこには、真ん丸な毛の塊があった。
「なにこれ?」
あらためて良く見てみる。
茶色の毛。ん、これ、耳かな? 長い毛で覆われている。あ、このふさふさしているのは、尻尾だ。
「猫ちゃん?!」
トリエッティが叫んだ。
かがんでみる。確かに猫だ。ずんぐりとして大きい。
とろっと垂れた目は、白い猫を見ていた。白猫も、突然現れたこれに驚いているよう。じっと見ている。
「なぁ~ごぉ」
鳴いた! でも、にゃあでもなく、「なぁ~ごぉ」って……。
視線の先の白い猫は、ふんっいう感じで首をひねる。くるっと背を向けて、また優雅に歩き、向こうの方に去っていった。
「なぁ~ごぉ……」
また鳴いた。
「だ、ダメですよ。これ、お客さんの猫です? ちゃんとカゴに入れておいてくれないと! それに飼い猫なら首輪をちゃんとつけてくださいね。野良猫狩りにやられちゃいますよ」
店員さんが慌ててやって来た。
あ、えと。……うん、これ、なんだろ?
さっきまでは、間違いなくいなかった。頭の中で弾ける音が聞こえたのも気になる。
「アレクくん、ちょっとこの箱、持ってみてくれない?」
ステラが僕に、灰色の箱を渡す。
持った瞬間に、わずかに光った。
「これ、新しい固有スキルよ!」
箱の上に、いくつか文字が書かれていた。
『【全固有スキル(イーサリアム)】、【示統召喚】』
この箱は、簡易的なスキル鑑定装置だという。
今まで僕は【全固有スキル(イーサリアム)】を持っていたが、一つ増えている。
あ、それより先に、この猫どうにかしなきゃ。
うーんと……。
猫は僕に尻尾を伸ばした。どうやら掴めということらしい。
尻尾をつかむと、猫はブルっと体を震わせる。
ポンっと小さな音がして、そこにいたはずの猫の姿が消えた。
「固有スキルゲットよ~~~~っ!」
ステラが僕の顔を向いて叫んだ。
ノベルピアでリニューアル連載中です。
ここまで、初回投稿のまま残し、以降は削除いたしました。
https://novelpia.jp/novel/129
こちらでお読みいただければ幸いです。