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第10話 【マレッタ】、そして幼少時代の思い出

 10.【マレッタ】、そして幼年時代の思い出




 みんなにはお転婆って言われてるけど、さすがに初対面では緊張したんだ。

 でもその子はボクの手を取って一緒に走ったり、川に入って遊んだり。ボクは歌を教えてあげたかな。なんの歌だったか忘れたけど。


 とっても楽しかった。時間忘れて遊んじゃって、気づいたら日も暮れかけて。


「もう帰らなきゃ」


 そう言ったら、男の子は、宝物をあげると、この水色の石をくれた。

 友達のしるし、なんて言ってたようにも思う。


 お父さんの方では大騒動になっていたらしい。

 探しに来てくれた人に見つけられて戻ったんだけど、お父さんからとっても怒られたのを覚えている。いつもいろんなことをしでかして怒られてたけど、あれが一番だったかも。

 そうよね、夕方過ぎてまで帰ってこないなんて、相当心配したんだと思う。


 で、その帰り道のこと。

 よく覚えてる。忘れやしない。

 あっ……今こうして改めて考えてみたら、メリデン王国が仕組んだのかもしれない。


 突然モンスターの集団に襲われたんだ。


 護衛の兵士が何人も倒されて、お父さんまでも危ない状況だった。

 槍の名手と言われた父でさえ歯が立たないほど。


「これで終わりか」


 あの強いお父さんから、そんな弱気な言葉が出るほど追い詰められてた。

 体の震えが止まらなかったのを今でも覚えている。とっても恐かった。

 そんな時、この水色の石をギュって握りしめたの。


 その時、【水滅奔流(ストリームン)】のスキルが発動。あっという間にモンスターが壊滅して、なんとか生き残った。

 命拾いって、こういうことなのかって思ったほど。

 奇跡が起きたと思った。


 そう。この水色の石が、お父さん、そしてボクにとっての命の恩人なんだ。


 スキルの名前もわからなかったし、石を握って発動したのはその一回限り。

 後でスキル鑑定して、今では自由に出せる。おかげで、モンスターが襲ってきても、それまでとは違って、かなり楽に撃退できるようになった。

 この国の多くの人を助けられるようにもなったんだ。


 男の子が誰かもわからなかったし、もちろん二度と会うこともなかった。

 ボクが知り合う人たちは、姫だからって寄ってくるばかりで、ぜんぜん詰まらない。監視も厳しくなっちゃって、なかなか一人でお城を抜け出すのも出来なくなっちゃった。

 毎日、あの時の男の子にずっと、ずっと、また会いたいなって思ってたら、どんどん気持ちが(ふく)らんでいった。


「会いたい、また遊びたい」って。


 きっと恋とかとは、違ったんだと思う。……少なくとも、その当時は。


 でも、お城に来て、一瞬見かけただけで、なぜか体の奥が熱くなるのを感じた。

 誰かもわからない人なのに、なんでだろう、なんでだろうって。

 調べてみたら、あの時の男の子だったって。……息が止まるかというほど驚いた。


「まぁ、とはいえ、マレッタも年相応には、()()()()()()()ようだけどね」


 ステラ姉さんが笑った。


「ちょ、ねえさん! なに言ってるのよっ!」


 体が火照るのがわかる。

 興味津々な顔をしながら、トリエッティが覗き込むようにしてボクを見ていた。


「もー、そんなんじゃないってば! 知らないっ!」


 あ……。


 え、っと。

 なんか、変な雰囲気になっちゃった。そうだ。きちんとお礼は言わないと。


「アレク、ありがとう。助けてもらって……」


 小さな声でボソボソ言ったボクの言葉をスルーして、ステラ姉さんが続ける。


「それはそうと、気がかりなことが二つあるの」


 すぐにアーくんの家に使いを出して、ご両親を隠すようにも手配している。放っておいたらメリデンの王は両親を使って脅迫してくるでしょう。そんなことはさせやしない。

 きっと、大丈夫なはず。今頃はもう安全な場所まで移動していると思う。


 気になりそうなことは、すぐにつぶしておくのがステラ姉さんのやり方だ。

 テンパると、おっちょこちょいなこともするけど、普段は冷静で、とても頼もしい。


 それとは別に、確かに二つ、心配ごとがある。


「一つは、固有スキルのこと。誰一人持っていないからこその、固有スキルなの。アレクくんが持ってるのは、【空気(アトモ)】を除いて、メリデンの勇者パーティと同じもの。つまり二人、使えるってことよね。唯一でなければ、威力が弱くなってしまうのよ」


 お父さんが調べたところでは、半分から、もしかしたら千分の一にまで弱くなるらしい。ただ、さっき見た限りでは、もともと固有スキル自体が強すぎるので、そんなに問題はなさそうね。

 ステラ姉さんも、同じように考えているようだわ。


 あと、もう一つの心配ごと。

 それは、ボクたちがこの世界から転移している間に、メリデン王国の勇者パーティが襲ってこないかということ。

 せっかく固有スキルが集まっても、国が滅ぼされていたらなんにもならない。


 だがそれも、たった今入って来た情報で、消え去った。


「メリデン王国の勇者たちが、ノバリスクへ逆転移する準備を始めた」


 忍び込ませている諜報(ちょうほう)部隊からの情報。

 ノバリスクは逆召喚で行ける世界のひとつ。

 メリデン王国も、ボクたちと全く同じことを考えているようだ。

 だとしたら、なんとしても彼らより先に固有スキルをゲットしてなければならない。


 ボクたちは、アーくんのケガが治るのを待ちながら、ノバリスクという世界へ向かう準備を進めた。


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