恋人つなぎしました
「これと、これと、これもっ!」
由美の後ろにカゴを持ちながら歩く。
来たのは近所のスーパーだ。
少しご機嫌な由美は、次から次に食材を俺の持つカゴに放り込んでいく。
だんだんと重くなるカゴ。
少し買いすぎじゃないか?
「由美、こんなに必要なのか? うちの冷蔵庫にも少しは食材あるぞ?」
「んー、明日の朝とお弁当分もまとめて作っちゃおうかと思ってさ。晴君、お弁当の中は何がいいかな?」
おっと、予想外の答え。
そして、制服を着た由美は大根を抱きしめながら、上目で俺に問いかけてくる。
別になんでもいいんですよね。
「別になんで──」
「なんでもいいとか言ったら、彼氏失格。そこは、練習なんだからもっとちゃんと答えてよ」
持っていた大根で俺の頬をぐりぐりする。
痛いじゃないか。
「あー、卵焼きにウィンナー、それにベーコン巻きとかがいいなぁ」
好きなものを羅列してみた。
が、由美は頬を少しだけ赤くし、笑顔になる。
「そうそう。素直に答えないと。将来彼女ができたときの為にさっ」
「そっか、女の子と付き合うって思ったよりも難しいのかもな」
「そんなことないよ。晴君だっていいところいっぱいあるじゃん、きっとわかってくれる子が現れるよ」
本音で言っているのか、からかっているのか。
でも、由美は昔からうそをつかないし、いつでも一生懸命になんでも取り組んでいる。
委員会だって、部活だって。きっと、俺よりも由美の方がまじめでいいやつなんだよな。
それに見た目だってそれなりなんだけど、彼氏がいない。
きっと、由美の本性がオーラとしてにじみ出ているんだろう。
妖怪食っちゃ寝ゴロゴロ。
由美の本性は……。
「何考えてるの?」
「なんでもないっす。で、まだ買うのか? そろそろカゴいっぱいだぞ」
「じゃ、この辺にしておこうかな」
「会計はどうする? 俺が出すか?」
「半分だけ出して。私の練習に付き合ってもらうんだし、私も食べるんだしさ」
「そっか。じゃぁ、半額な」
会計が終わり、大袋二つ。
俺は二つの袋を持ち、由美の隣を歩く。
「なんか違うなー」
由美が何か考えている。
「何が違うんだ?」
「あっ、わかった。きっと、本物の恋人はこうっ」
由美は俺から袋を一つ奪い取り、自分で持ってしまった。
それなりに重いのに。
「重いぞ? なんで持つんだ?」
「ふふーん。ほら、こうして空いた方の手で、手をつなげられるじゃん」
「つ、つなぐのか?」
「つながないの?」
「だって、お前と最後に手をつないだのって、随分──」
まごまごしていると、由美は俺の手をしっかりと握り始めた。
「何恥ずかしがってるの?」
「なってない!」
こいつ、こんなに柔らかかったっけ?
それに、なんだか温かいし、なんだこの気持ちは……。
いつも見ているじゃないか、何をいまさら!
「そう? 顔、赤いよ?」
「赤くねーよ! 別にドキドキしてねーし! ほら、夕日が顔に当たっているから、そう見えるんだよ!」
たぶんそうだ。
夕日のせいに違いない。
「私は? 少し赤くなってる?」
由美の顔をジーっとのぞき込む。
うーん、心なしか赤い? よくわからないので、少し近づく。
「あ、ちょっと。そんな側に……」
由美の頬が赤くなる。
うん、これはいつもよりも赤いな。
「なんだ、お前だって赤くなってるじゃないか」
「──いよ。なってない!」
「うそつけー」
「嘘じゃない! 晴君の方が赤い!」
そんな会話をしながら、数年ぶりに手をつないで家に帰る。
昔は何でもできたし、考えたこともなかった。
日が暮れるまでこいつと遊んで、帰ったら二人でめっちゃ怒られて。
でも、翌日もまた遊んで。その時は、何も考えずに手をつなげたのに……。
ちょっと握った由美の手を、少しだけ強く握る。
こんな、手だったかな……。
「どうしたの?」
「なんでもない」
「あ、わかった! 恋人つなぎの練習したいんでしょ! 私知っているよ、こうするの!」
指を絡ませた手つなぎ。
「ちょ、おまっ」
「こ、これは握りにくいね! なんで恋人はこうするんだろ?」
「しらねーよ!」
「私もわからない!」
この日、俺は初めて女子と恋人つなぎを経験しました。
スキルアーーーーップ! したのか?