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由美の袴姿を見ました


 放課後、部活も無事に終わり帰路に就く。

さて、由美は終わったのか?


 体育館で着替えを終え正門に向かう。

正門のところでしばらく待ったが由美が来る気配はない。

おかしいな、そろそろ来てもいいんだけど……。


 あまりにも遅いので、由美の所属している弓道部の方に歩いて行ってみる。

お、なんだまだ終わっていなかったのか。


 遠目から由美の姿が見えた。

弦を引く袴姿の由美は、くやしいけどちょっとかっこいい。


──ヒュッ


 一本の矢が的に当たる。

だが、惜しくも真ん中から少しずれている。

惜しぃ! あと少しでど真ん中だったのに!


「先輩! 惜しいですね! あと少しですよ!」


 由美の隣で騒いでいる女の子がいる。

おそらく由美の後輩だろう。


「黙って」


 由美の低い声。

初めて聞いたかもしれない。

その声を聞いた後輩と思われる女の子は少し委縮してしまっている。


「ご、ごめんなさい……」


 再び矢を射る由美。

あいつ、こんな真剣な顔つきするんだ。

今まで部活をしているところなんて見たことなかった。

俺は新しい面を知る。


──ヒュッ


 今度はほぼ的の中央に刺さった。

おぉぉ、うまい!


「ふぅ……。今日はここまでにしようかな」

「先輩、お疲れ様です! これ、どうぞっ」


 後輩が由美にタオルを渡している。

なんだ、結構人気があるんだな。


 額の汗を拭く由美。

その姿はほんの少しだが、俺の心に刺さった気がした。


 いや、あいつは待ち合わせに遅れたんだ!

ここはバシッと言ってならないと!

由美の視界に入るよう、窓を覗き由美に声をかける。


「おい、いつまで部活しているんだよ」


 びっくりした顔つきで俺を見てくる。


「晴斗っ」


 由美は首にタオルをかけ、俺の近くまで走り寄ってきた。


「どうしたの?」

「どうしたじゃないよ、今日一緒にどこか行くんじゃなかったのか?」


 あっ、と忘れていたかのような表情になる由美。


「い、今行く!」


 目の前から消えていった由美。

なんだ、やっぱり忘れていたのか。


 少しだけ弓道場の隣にある椅子に座り、由美が来るのを待つ。

早く来ないかな、帰るのが遅くなるじゃないか。


 スマホをいじりながら由美が来るのを待つ。

しばらくすると隣に誰かが座った。


「遅い、いったい──」


 と、由美だと思ったが違った。


「一ノ瀬、先輩ですよね?」


 さっきまで由美の隣にいた子だ。


「そうだけど?」

「由美先輩、大会近いんです。練習の邪魔しないでもらえますか?」


 そういえば大会の事を聞いた気がする。


「邪魔? 邪魔してないだろ?」

「いいえ、一ノ瀬先輩は邪魔しています。今日、由美先輩の様子が変だったんです」

「変?」

「全然集中していないんです。それに、ずっと一ノ瀬先輩の事ばっかり話すようになったし。一ノ瀬先輩、由美先輩に何かしました?」


 ……心当たりはある。

きっと練習の事だろう。


「ま、まぁ、ちょっとは……」

「やめてもらえますか? 由美先輩にもっと頑張ってほしいんです」

「やめてって言われてもな……」


 少し険悪な雰囲気。

この場をどう乗り切ろうか……。


「お待たせー! ごめんごめん、ちょっとだけ遅くなっちゃった」


 由美は俺の腕を取り、立ち上がらせる。


「ちょ、おまっ」

「じゃ、また明日の朝ね! 鍵、よろしく!」


 後輩に部室のカギと思われるものを放り投げ、由美は俺の腕を取り正門に向かって走り出した。


「お、おいっ! いいのか、後輩はー」

「いいの、いつも私の事応援してくれるいい子なんだからっ。ほら、今日は一緒に出かけるんでしょ?」

「出かける? 詳しいこと何も聞いていないんだが?」


 正門をくぐり、自宅の方に向かって歩き出す。

結局由美はどこに、何をしに行くのかを教えてくれなかった。


「ついたわ!」


 目の前には大型スーパー。

俺たちの住むアパートの最寄りのスーパー。

子供のころから通っている普通のスーパーだ。


「何でここに?」

「今夜、夕飯を作ってあげる!」

「いいよ、別に」

「遠慮しないで! 晴君の胃袋を満たせてあげる!」


 学校から出たときから俺の事を『晴君』と呼ぶ。

由美はきっとまじめに練習しているんだろうな。

俺も由美と同じくらい頑張らないと、きっと彼女できないんだろうな。


「よし、付き合ってやる! 俺の胃袋を満たしてみよ!」


 微笑みで返事をする由美。

今夜、由美は何を作ってくれるのだろうか。

少し楽しみになってきた。


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