屋上でお昼食べました
午前の授業も無事に終わり、数学の課題も提出できた。
由美のやつも課題を提出をしたようで、自分の席に戻るとき俺に笑みを見せてきた。
──キーンコーンカーンコーン
昼のチャイムが校内に響き渡る。
おまちかねのランチタイムだ。
バッグから弁当箱を取り出し、ジュースを買いに自販機に向かおうとする。
「晴斗! 行くわよっ」
由美が俺に声をかけてくる。
「なんだ? 今日は友達と食べないのか?」
「今日は晴斗と食べるって伝えてきた」
いつもはクラスの女子と一緒に食べている。
が、今日は弁当の包みを片手に俺を迎えに来た。
俺はゆっくりと由美に近づき耳打ちする。
「おい、練習はしないんじゃないのか?」
「練習? しないわよ。ただ一緒に食べようと思っただけ。ほら、行くわよっ」
由美に手を引かれ、屋上への階段を上がっていく。
由美と二人で昼を食べるなんて、高校に入ってからは初めてじゃないか?
二人のいなくなった教室の中は、その後姿を眺める生徒が数名。
そのうちの一人、大森楓も二人が教室から出ていくのを見ていた。
「一ノ瀬君……」
※ ※ ※
屋上への扉が開かれ、心地よい風が俺たちを迎え入れてくれた。
「んー、いい天気っ」
風が由美の髪をなびかせる。
そして、半ば無理やり連行された屋上は人が少ない。
「晴斗、こっち空いてる」
由美の向かった先は少し日陰になった、屋上の隅。
隣には給水タンクがあり、フェンスを背中に地面へ腰を下ろした。
「で、何で急に呼び出したんだ?」
「んー、ちょっと話そうと思ってさ」
早速弁当箱を広げ、食べ始める由美のお弁当は、小さくも可愛い弁当だ。
「何見てるの? タコサンほしいの?」
「いらんわ。それ、親が作っているのか?」
「これ? お弁当くらい自分で作るわよ」
由美は何気に料理ができるらしい。
ちょっと意外だった。
「ははーん、わかった。俺にも作ってくれないのかってことでしょ?」
「いや、ちが──」
「いいわよ。今度作ってきてあげる」
「……どういう風の吹き回しだ?」
「どういうって、練習よ。ほら、いつかかっこいい彼ができたときに、お弁当作ってあげたいじゃない。晴斗はその実験台になって」
「学校でこういうことするのまずくないか?」
「まずい? どういうこと?」
「ほら、いままで別々に食べていたのに、突然一緒に食べるとかさ」
「そう? クラスのみんなも結構いろいろな人と食べてるし、大丈夫でしょ」
「ならいいんだけど……」
自分も弁当を広げ、食べ始める。
由美は一体何の話をしたくて、俺を呼んだのだろうか。
食べていた弁当を床に置き、由美は俺の方に視線を移す。
「ねぇ、今朝さ学校では練習の事は内緒ていったけどさ、少しはできないかな?」
「少し?」
「そう。ほら、きっと私たち同じ学校内で恋人ができるかもしれないじゃない? その時の為に学校でもある程度練習しておいた方がいいと思うの」
一理ある!
「由美もいろいろと考えているんだな」
「ふふん、まぁね。それで、どう?」
「うーん、クラスのみんなには俺たちは幼馴染だと知られている。問題ないんじゃないか?」
「決まりねっ! でも、みんなの前ではベタベタしないでよねっ」
「誰がするか! お前も俺にくっついたりしないでくれよな!」
「私がいつ晴斗にくっついたっていうのよ!」
「今朝登校するとき、いつもより近かっただろ!」
「き、気のせいよ!」
残った弁当を腹に入れ、屋上を後にする。
学校の中でも練習って、何をどうすればいいんだ?
それに、昨日から由美にいろいろと言われ始めている。
もしかしたら、由美のスキルが上がってきているのかもしれない。
急がなければ……。
由美に先を越されてしまう。もし、あいつに彼氏ができたら、俺は……。
負けられない! 俺が先に彼女を作る!
そう考えながら、隣を歩く由美に視線を向け、自分を奮い立たせた。
「何見てるのよ」
「見てねーよ」
「見たわよ」
「気のせいだろ?」
由美には、絶対に負けないっっ!