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恋人練習始めました


「なぁ、俺たちこのままでいいと思うか?」


 目の前では、ベッドの上で転がりながら漫画を読んでいるこいつ。


「あはっ、あはははっ」


 ……。


「おい、聞いているのか? 俺たちもう高校二年だぜ?」


 読んでいた漫画を閉じ、むくりと起き上がる。

そして、ベッドに胡坐をかき俺の方を見る。


「そうだね、もう高校二年生だね……。で、このままって何が?」

「俺、このままずっと彼女ができないかもしれない……」

「あっそ。で?」

「でって。お前だって彼氏いないだろ? 俺たちこのままずっと……」

「ちなみに、晴斗はるとは何年彼女いないの?」


 そんなこと聞く?


「あのなぁ、何でいまさらそんなこと聞くんだよ。彼女なんていたことなんて一度も……」


 自分で言っていてなんとなくさみしくなる。


「だよね。あんたと長年幼馴染しているけど、一回も彼女見たことないしね」


 すごい言われよう。なんだかすごくイラっとするな。


「だったらお前はどうなんだよ? 彼氏いたことあるのか?」


 由美ゆみは幼稚園の頃からの付き合いだ。

小学校も中学校も高校も全部同じ。

しかも同じアパートに住んでいるので、家族含めて相当長い時間を過ごしている。

そんな由美には多分彼氏がいたことはない、はず……。


 由美は俺の方に視線を移し、真剣なまなざしで俺を見てくる。

そして、微笑んでいる。


 な、なんだと……。こいつ、まさか俺の知らないところで!


「いるはずないじゃん。こんなに性格もいいし、かわいいのに……」


 自分で自分のことをそういいますか。

自己評価高すぎだろ。確かに、多少は可愛いと思うけど……。

この性格じゃ無理だな!


「何とかしないと、俺たちの高校生活が終わってしまうぞ」

「だね。一度しかない高校生活、ちょっとくらい恋愛してもいいかもね」


 笑顔で答える由美は、ちょっとだけかわいいと思う。


「どうしたらいいと思う?」

「それを私に聞くの? 私だってどうしたらいいか知りたいわよ。何かいい案ないの?」

「俺に聞くのか? 俺だって恋愛の経験ないし……」


 目を閉じ迷走、いや瞑想する。

どうしたら高校生活を彼女と楽しく過ごせるのか。

どうしたら彼女ができるのか。


「あはっ、ふふふ」


 うっすらと目を開けてみる。

また俺のベッドに寝ころび、さっき読んでいた漫画を読み始めている。


「おい、なんで俺ばっかり考えているんだよ。お前も考えろよな!」

「私? 晴斗の方が頭いいし、なんか思いつくでしょ?」

「他人任せだな……。昔っからお前はっ」


 ベッドでうつ伏せで寝ころんでいる由美の背中に座る。


「うぐ、重いよ」

「当たり前だ。重くしているんだからな。ほら、何かいい案出ないか?」

「晴斗は顔はそれなりだし成績もいい方。でも、この性格じゃ彼女できないわー」

「お前が言うか! だ、だったらどうすればいいんだよ!」


 少しの挑発にイラっとしてしまう自分の心は水たまりくらいの広さなんだろう。

由美の背中から降り、座っていた椅子に戻る。


「うーん、たぶんさ晴斗は女の子と接するの苦手じゃない?」


 確かに。いまだにクラスの女子と話すとちょっとドキドキする。


「ま、まぁちょっとな……」

「それにさ、デートとかもしたことないし、女の子と遊びに行ったこともないでしょ? 多分」

「ねーよ、一回もないとですよ! 別にいいだろ!」

「そこ! だからそこなんですよ!」

「そこ?」


 首を傾けちょっと考える。


「多分、女の子と普通に話したり、出かけられたら彼女もできるんじゃない?」

「彼女ができないのに、そんなことできるか!」



 と、由美はどや顔で俺の方にゆっくりと歩み寄る。

な、なんですか? 顔が近いですよ……。

そして、鼻と鼻がくっつく直前。


「練習しよう」

「れ、練習?」


 由美が俺の両肩に手を乗せ、さらに声を上げる。


「自慢じゃないけど、私も男子とデートしたことない。どうしたらいいか、私もわからない。そこで、提案!」

「提案?」

「私たちさ、付き合い長いでしょ? だからさ、お互いを恋人として練習してみない?」

「恋人の練習?」

「そ。話し方、接し方はもちろん、デートの練習したりするの。お互いに彼氏、彼女ができたときに絶対に役に立つと思うの!」

「た、確かに! ここで失敗しても全く痛くないし、問題ない。むしろいい経験になる気がする!」

「でしょ! じゃぁ、早速今日から練習よ!」

「おう! これで俺たちもリア充高校生になれるぜ!」


 由美の熱いまなざしを受け、恋人の練習が始まる。


「いいこと、今日から幼馴染は終わりよ! きちんとお互いを想い合う恋人のようにふるまって、練習するわよ!」

「おー! 任せろ! 絶対に彼女作って見せるぜ!」

「私だってかっこいい彼氏作って見せるんだから!」


「「ふぁいふぁい、おーーー!」」


 お互い、ハイタッチをして士気を高める。

高校二年の春。俺たちの関係はただの幼馴染から恋人練習相手へと変わった瞬間だった。


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