ゴンドリア帝国へ 王都到着
上空から、獣の群れを発見したエンデ。
「思ったより多いね」
独り言のように呟いた後、ダバンに合図を送る。
ダバンは、その合図に従い、群れの横を並行に走る。
獣の群れも、その足音に気付き、後を追い始めた。
獣はオオカミ。
統率が取れていて、ダバンを取り囲むように動き出す。
しかし、上空から、その様子を見ていたエンデは、最後尾のオオカミの軍勢に向かい。
光の矢を放った。
『キャン!』
思いもしなかった攻撃に、オオカミたちは情けない声を上げ、体を貫かれる。
最後尾にいたオオカミの数は10頭。
一度の攻撃で全滅させると、エンデは次の群れに向かった。
ダバンもエンデの攻撃が始まると、足を止め、オオカミたちを迎え撃つ。
牙を剥き、ダバンに襲い掛かるオオカミの群れ。
襲い掛かって来る順に、確実に頭部に蹴りを入れて倒す。
同時に、上空からのエンデの攻撃も開始され、
村から離れた場所に集められたオオカミたちは、成す統べなく屠られた。
50頭近くいたオオカミの群れを、あっという間に倒すと、
2人は村に向かう。
エンデの姿を見つけた村人たちは、食事をしていた手を止め
全員が跪き、頭を下げてエンデを迎えた。
何も知らないエンデ。
エブリンの横に降り立つ。
「お姉ちゃん、何かしたの?」
村人の態度を不思議に思い、エブリンに聞いてみるが、視線はエンデを捕えたまま動かない。
「・・・・・お姉ちゃん?」
「あんたの翼を見て、『神の使い』だとか騒ぎだして・・・・・
後は、見てのとおりよ」
未だに、頭を下げたままの村人たち。
なんとなく理解したエンデ。
「僕は、どうしたらいいの?」
「取り敢えず、声を掛けてあげたら」
「うん」
「リグルさん、頭を上げさせてください。
オオカミの群れは、退治したよ。
でも、数が多いから放置したままなんだ。
この村にあげるから、後の事は、任せていい?」
「えっ!?
頂けるのですか?」
「うん、あげるよ。
食料になるのだったら、当分は困らないでしょ」
「はい、それはそうですが・・・・・・」
「遠慮は要らないよ、でも、さっきも言ったけど、後の事は任せるよ」
リグルは、笑顔で『勿論です』と答えると
集まっている村民たちに、この事を伝えた。
すると、男連中は、急いで食事を済ませ、エンデに一礼をした後、
オオカミの群れの所に向かった。
村人たちは、久しぶりの食事と、思わぬ収穫という吉報に、
お祭りのような騒ぎになっている。
そんな中、ひと段落し、食事を終えたエンデたちは、借りている家に戻った。
「賑やかね」
「うん、これで当分は、食べる物に困らないよね」
窓から、キャンプファイヤーのように燃え盛った火を見ながら
会話をするエンデとエブリン。
ダバンは、家の入り口で横になり、寛いでいる。
捕らえられているフラウドにも、食事は与えられたが、今は拘束されている。
━━━ここは、我らの領地。
なんとかして、ここから逃げて報告を・・・・・
フラウドは、チャンスを待っていた。
食事の前に、傷は、エンデに治して貰っている。
今は、縛られて拘束されているだけだ。
じっと、その時を待つ。
そして・・・・
エンデたちが、寝静まった事を確認すると、
食事の時に盗んでおいたナイフで、縄を切りにかかる。
静かに・・・・焦らず・・・・・ゆっくりと・・・・・
神経を集中し、額に薄っすらと汗を滲ませながらも、縄を切り終えた。
━━━よし・・・・・・
使われていなかった家、足の踏み場を間違えると『ギシギシ』と音が鳴る。
慎重に歩き、やっとの思いで脱出に成功する。
━━━馬だ、馬を探さねば・・・・・
そう思ったが、ここに来るまでの事を思い出し、
『また言う事を聞かないのでは?』と疑問が浮かぶ。
「いや、止めておこう」
仕方なく諦めて、村の外まで歩く。
村から抜け出すと、フラウドは全力で駆け出した。
ここは、砦に向かう為に、通った道。
迷う事はない。
脇目も振らず、次の村を目指す。
夜が明け始めた頃、フラウドの目に村が見えた。
後ろを振り返るが、誰も追って来ていない。
「上手くいったようだな」
少し落ち着きを取り戻す。
鎧を着ていたおかげで、怪しまれることなく村に入ると、
近くの村人に、村長を呼んでくるように伝えた。
兵士が来たと聞き、慌てて姿を見せる村長。
「兵士様、この村に、何かご用でしょうか?」
「うむ、私はフラウドという。
訳あって、道中を急いでいる。
馬を準備してもらいたい」
「畏まりました。
ですが、この村にいる馬は老馬で、荷を引くのが精一杯で、御座います。
あまり無理をされると・・・・・・」
村長の話を遮り、フラウドは言い放った。
「構わん、一刻を争うのだ!
一番元気な馬を連れて来い!」
「は、はい!」
急いで馬を準備させると、フラウドは、礼も言わずに村を後にした。
━━━老馬でもいい、自分で走るよりマシだ・・・・・
フラウドは、王都を目指す。
急いでいるとはいえ、老馬に無理をさせると、再び走る事になり兼ねない。
その為、多めに休憩を取りながら王都に向かう事になったので、2日近くの時を要した。
目の前に、王都を取り囲む壁が見えてくる。
「もう少しだ、頑張ってくれ」
馬に声を掛け、首を撫でた。
生き延びた事への思いと、仲間を失った思いが入り交じり、
何とも言えない気持ちになりながら、城門に辿り着く。
その姿を発見した門兵が、フラウドに近づく。
「フラウド様?」
疲れ果てた表情のフラウド。
無事、王都の門を潜ったところで、意識を失った。
「フラウド様!!!!!」
どれくらい寝ていたのだろう。
フラウドは、目を覚ました。
「ここは・・・・・俺は王都に・・・・!!!」
フラウドは、ベッドから飛び起きると、横に置いてあった鎧を装着する。
「急いで報告をせねば」
そう思い、部屋から出たのだが、なにやら騒がしい。
窓から外を見ると、多くの兵士たちが、武装して慌ただしく動いている。
「敵襲!敵襲!」
聞こえてきた声に、背筋が凍る。
「まさか・・・・・」
近くを通り掛かった兵士を止め、話しかける。
「何が、あったんだ?」
「何者かが、門を破壊し、城に向かっているとの知らせが入りまして」
その言葉を聞き、どうしても確かめたいことがあった。
「敵の数は?
どんな奴らだ?」
「それが、アンデットが多数と子供らしき・・・・」
その言葉で確信する。
「ここまで、どうやって・・・・・
それに、アンデットだと・・・・・」
疑問に思うフラウドだが、
王都まで案内をしたのは、フラウド本人なのだ。
後ろを振り返り、追手が無い事を確認していたが、空までは見ていない。
その為、空を飛ぶエンデに気付かなかった。
フラウドが抜け出した事に、ダバンもエンデも気付いていた。
だが、道案内の為に、放置したのだ。
そして、エンデは、エブリンを背に乗せ、ダバンを抱きかかえて後を追った。
辛い飛行だったが、フラウドが、多く休憩を取ってくれたおかげで、
負担も少なく、ゆっくりと後を追うことが出来た。
フラウドが王都に着いた時、エンデたちも王都の近くまで来ていた。
そして、フラウドが意識を失った後、エンデたちは、地上に降りて王都を目指した。
だが、子供2人と馬1頭。
当然のごとく、門の前で止められた。
「お前たちは、何処から来た?」
「アンドリウス王国だよ」
馬鹿正直に答えるエンデ。
門兵たちは、エンデたちに武器を向ける。
「それが事実なら、聞きたいことが山ほどある。
大人しく我らに従え!」
エンデたちを取り囲み、捕えようとしたが、
ダバンが、馬の姿のまま門兵を吹き飛ばした。
この行動で、目の前の子供より先に、ダバンを捕えにかかる。
「馬を抑えろ!」
しかし、ダバンの相手になる筈も無く、悉く吹き飛ばされる。
「何をしておる!
構わん、殺せ!殺してしまえ!」
その言葉に、反応するエンデ。
「殺すんだ・・・・・なら、殺される覚悟、出来ているよね」
エンデは、エブリンを後ろ手に庇うと、左手を前に差し出す。
「遠慮は、しないよ」
目の前に現れる禍々しい門。
「さぁ、出番だよ」
エンデの声に従い、不気味な音を立てながら門が開くと
そこから無数のアンデットのオオカミが飛び出し、門兵を襲い始めた。
このアンデットこそ、村を襲おうとしたオオカミたちだ。
オオカミの群れを屠った時、エンデは、体に流れ込む何かに気付いた。
流れ込んで来たものの正体は、オオカミの魂。
エンデは、その魂を掌握し、召喚獣として、この場にを呼び寄せたのだ。
突然現れたアンデットの集団に、成す統べなく、貪り食われる門兵たち。
叫び声を上げ、形振り構わず、王都の中に逃げようとする者もいる。
しかし、王都の中に攻め込まれたら不味いと思った
他の門兵たちにより、門が閉まり始めた。
「待ってくれ!」
「助けてくれ!」
叫ぶ仲間の声を無視し、王都の門は、完全に閉じられた。
アンデットに襲われる門兵たちを見ながら、エンデは呟く。
「見捨てられたね」
エンデたちもまだ王都の外にいた。
人型に変化したダバンが聞いてくる。
「主、この後どうするのですか?」
「それは、大丈夫だよ」
今度は、右手を前に差し出した。
「吹き飛ばせ」
呪文とは思えない言葉だったが、その言葉に従い
小さな光の玉が現れて、門に向かって飛んで行く。
そして、門に衝突すると、大爆発を起こし、木っ端微塵に破壊した。
「さぁ、行こうか」
エンデたちは、アンデットのオオカミたちを引き連れ、王都に入った。
不定期投稿ですが、宜しくお願い致します。




