貴族の失態と末路
屋敷の上空に浮かぶ少年に、門兵が気が付く。
「おい、あれなんだ?」
「ん?」
門兵の1人と目があった。
その瞬間、光の矢が門兵の眉間を貫く。
「お、おい・・・・・」
男が肩を叩くと、眉間を貫かれた男は
崩れ落ちる様に、地面に倒れた。
「ヒィィィィィ!」
叫び声を聞いて、駆けつける仲間の兵士達。
そこには、腰を抜かしている兵士と、
地面に横たわり、動かなくなった兵士。
「何があったんだ?」
後から、駆けて来た兵長【ワーナー】が尋ねるが、
腰を抜かしている兵士は、何を言っているのかわからない。
しかし、上空の一点に向かって、指を差していた。
その方角に振り返る。
そこには、エンデの姿が・・・・・。
「敵襲、敵襲だ!」
ワーナーの声で、動き出す兵士達。
その時、屋敷が光に包まれる。
「な、なんだ!」
1人の兵士が、その光に触れる。
光は、壁の役割を果たしており、そこから先へは進めなかった。
「なんだこれは!」
兵士達の動きが止まる。
そこに降り注ぐ、光の矢。
「うぎゃぁぁぁ!」
「あ、足がぁぁぁ!」
体を撃ち抜かれ、そのまま動かなくなる者。
まだ、息をしている者。
泣き叫ぶ者達。
その光景を、屋敷の中から覗き見たランデルは、理解が追いつかない。
「どういう事だ!
何が起こっている?」
近くにいた護衛の男達に聞くが、首を横に振るだけ。
その時、扉が叩かれ、1人の兵士が飛び込んで来た。
「し、失礼致します。
何者かの襲撃を受けております」
「襲撃だと!
それで、領主には連絡をしたのか?」
「いえ、それが・・・・・」
兵は、光の壁が屋敷を囲い、外部と連絡が取れなくなっている事を告げる。
「それも、この屋敷を襲っている者の仕業か?」
「はい、おそらく・・・・・」
屋敷内で、そんな会話を行っている頃、屋敷の外では、戦闘が続いていた。
魔法や矢を放ち、攻撃を続ける兵士達。
しかし、全ての攻撃が、エンデの前で弾かれる。
エンデは、自身の周りにも、光の壁を張っていたのだ。
反撃とばかりに、両腕を左右に伸ばす。
すると、右手から光の矢、
左手から、漆黒の矢が放たれ、兵士達を襲う。
反撃の意図も見つからず、阿鼻叫喚の中、
貫かれ、その場に倒れ込む大勢の兵士達。
暫くすると、先程までの戦闘が、嘘のような静けさに包まれた。
地上に降り立つエンデ。
その表情からは、感情が読み取れない。
屋敷に向かって歩き出す。
地上には、多くの兵の屍。
少しながら、生きている者もいた。
しかし、エンデの姿を見ると、這いずりながら、逃亡を謀る。
そんな者達を無視し、入り口の扉を破壊し、屋敷内に侵入する。
「うりゃぁぁぁ!」
気合を入れ、1人の兵士が大声を上げ、先頭を切って襲い掛かった。
しかし、あっさりと躱され、大きく空振りをすると、その男の首が飛ぶ。
「えっ!?」
理解不能。
何が起こったのか、わからない。
エンデは、兵士を躱した瞬間、
左手に風の刃を発生させ、そのまま振り抜いていた。
ただ、それだけ。
しかし、その速さに、兵士達の目は追いつけず、何もしていないように見えたのだ。
屋敷内で待ち構えていた兵士達は、6枚の羽を生やした少年に、恐怖を抱く。
「一体、何と戦っているんだ・・・・・・」
「あの、隊長が・・・・」
武器を構える兵士達の手が、震えている。
ゆっくりと歩き、距離を詰める。
後退る兵士達。
「く、来るなぁ!」
武器を捨て、その場からの逃走を試みるが、
またしても、見えない壁に阻まれ、この兵士達も逃げ場を失った。
武器も捨てている為に、攻撃の手段もない。
「わ、悪かった・・・・・俺達は、関係ないんだ。
お金を貰って、ここで働いているだけだから、見逃してくれ」
わけのわからない謝罪を、口々にする兵士達。
それは、それぞれに、思い当たる節があったからに他ならない。
ランデルが連れて来て、必要の無くなった女性達の行く末。
兵士達の慰み者。
兵士達は、『おこぼれ』を貰っていた。
嫌がる事など関係ない、彼らにとっては、ただの『ご褒美』。
飽きれば、殺すなり、捨てればいいだけ。
罪にも咎められない。
そのツケを払う時が来たのだ。
確かに、エンデがここに来たのは、エドラの仇を取る為だ。
しかし、その事は、誰にも話していない。
兵士達が自らの過ちを口にし、助けてもらう為に、謝罪をして来たのだ。
━━もしかしたら、エドラも・・・・・
そう思うと、許せない。
許される筈がない。
エンデが、口を開く。
「助けてくれ・・・・・
その言葉を口にした者達を、お前たちは助けたのか?」
子供が発したとは、思えぬほど、低く、脳裏に響く声。
この世の者とは思えぬ威圧感。
「そ、それは・・・・・」
口籠り、下を向く兵士達。
「ならば、致し方あるまい・・・・・」
周囲に巻き起こる風、兵士達を次々と刻む。
悲痛な叫びをあげながら、兵士達は、息絶えた。
階段を上り始めるエンデ。
その先には、ランデルと、その家族以外は誰もいない。
2階に上がり、居場所がわかっているかのように、迷いなく進む。
そして、ある部屋の前で止まった。
ゆっくりと扉を開き、歩を進めるエンデの前に、
ランデルと、その家族の姿が目に映る。
ランデルは、間近で少年の姿を見た。
顔を知っていた。
━━たしか、エドラの息子・・・・・
娼館に通っていただけあって、エンデを知っていた。
しかし、羽など無かった。
「貴様は、エドラの息子か!」
エンデの目が、一瞬、大きく開く。
だが、直ぐに、元の無感情な表情と、虚ろな目に戻る。
「悔い改めよ・・・・・」
子供とは思えぬ声、そして、脳内に直接響く。
「貴様!
何者だ!」
武器を手に取り、身構えるランデル。
敵対行為。
風が吹き、刃がランデルの両腕を切り裂き飛ばす。
「うぎゃぁぁぁぁぁ!」
悲痛な夫の叫びに、同室していた妻が気を失った。
前子爵家当主であるランデルの両親も、言葉を失っている。
床に倒れ込み、蹲るランデルの側に、エンデが近づく。
エンデは、ランデルが落とした剣を拾った。
「死して、償え」
ランデルの剣で、ランデルの胸を刺し、息の根を止めると、
窓から、屋敷を抜け出した。
この街の領主の軍が、ランデルの屋敷まで来ているが、
見えない壁に阻まれ、突入出来ず、辺りを取り囲んでいた。
その者達の前で起こる『大崩壊』。
地響きと共に、地の中に吸い込まれていくように
崩れ去るランデルの屋敷。
全てが塵と化す。
生き残っていた者達、建物、例外は無い。
領主の兵たちの前で行われる、人ならざる者の力の行使。
これも、エンデの力の一端に過ぎない。
見えない壁の向こうは地獄。
対して、領主の兵達のいる場所は、無傷。
見えない壁が取り払われていない為に、周囲には、何の被害もない。
『化け物』、『悪魔』。
それが、領主の寄越した兵達の感想。
崩壊を見届けた後、見えない壁が消えると、エンデもその場から飛び去る。
後を追う者はいない。
空を飛び、6枚の羽を持つ『化け物』。
領主への報告では、そう伝えられた。
不定期投稿ですが、宜しくお願い致します。
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