王都 来客
チェスターの屋敷から戻って来たエブリン。
エンデ達が起きている事を確認すると、食堂に向かった。
食堂に入ると、いつもの光景+1。
キングホースは、前からそこにいたかのように食事をしていた。
「あっ、おはよう!」
エブリンに気が付いたエンデが声を掛ける。
「おはよう」
エブリンは、挨拶を返すと、いつもの席に座る。
正面の席には、エンデ。
右隣には、ヘンリエッタとジャスティーン。
静かな食卓。
だが、暫くして、エブリンが口を開く。
「・・・・・・本当に、何もなかったわ・・・・・・」
「え?」
「先程、チェスターの屋敷を見に行って来たの・・・・・
あそこに、公園でもできるのかしら・・・・・」
食事をする手を止め、エンデの方に顔を向ける。
頭の痛くなる現状に、皮肉った言い方をしたエブリン。
それを華麗にスルーしたエンデ。
「だから、きちんと伝えたよ。
何も残っていないって」
「確かにそうね、そうだったわね。
でも、まさか、一つの死体も残っていないなんて、思わないわよ」
全てが灰となり、跡形もなくこの世から消えた。
宰相である叔父に、この事をどう話そうか考える。
素直に、エンデの力の事を話すべきか?
それとも・・・・・
知らないふりを通し切るのか?
しかし、この国から侯爵一家が消えたことは、大事件である。
その為、有耶無耶にすることは難しい。
本心を語るなら、そうしたい気持ちではあるエブリン。
この日の午後、エブリンは、グラウニーに会うために、馬車を走らせていた。
同乗者は、メイドのアラーナだけ。
「先に、市場に寄って頂けるかしら、
叔父様に、手土産でも買っていくわ」
御者の男は、エブリンに従い、一路、市場に方向を変えた。
市場に到着し、骨董屋に向かって歩いていると、とある話が耳に届く。
「おい、お前は、見たかよ」
「ん?
もしかして、例の天災の事か?」
「ああ、でもよ、あれは、神様が天罰でも与えたんじゃねえかって事よ」
「まぁ、確かに、俺らにとっちゃ、碌でもねえ奴だったからな」
「そうだな、死んでいなきゃ、こんな話出来ないもんな」
あちらこちらで、似たような話をしている。
━━天災ねぇ・・・・・・
エヴリンは、思いつく。
このまま天災が、起きたことにしてしまおうと・・・・・・
そう決めてからの行動は、早い。
「屋敷に戻るわよ」
お付きのメイド、アラーナに告げ、再び馬車に乗り込み、来た道を引き返す。
「お嬢様?
もしかして・・・・・・」
「ええ、あれは天災だったのよ。
急いで帰って、あの2人に、口裏を合わせるように伝えるのよ」
エブリンは、昨日から悩んでいたことが、馬鹿らしく思える程、
気が楽になった。
だが、そう思えたのも束の間。
屋敷に戻ると、来客の馬車が止まっていた。
エヴリン達が、馬車から降りると、留守だと知り、
屋敷から出て来た客人と、鉢合わせになった。
「叔父様!」
「おお!
エブリン。
儂の屋敷に向かったと聞いてな、今から戻るところだったのじゃ」
最悪のタイミング。
それに、屋敷に向かった事も知られていた。
エブリンは、平静を装い、カーテシーで挨拶をした後、
叔父であるグラウニーを、屋敷に招き入れた。
エンデやキングホースを連れてくれば、ややこしい事になりそうだから、
まずは、1人で会う事にした。
「叔父様、ご無沙汰しております」
挨拶を軽く交わした後、向き合うようにソファーに座る。
テーブルに用意された紅茶に口をつけるグラウニー。
「儂が、ここに来た理由だが・・・・・」
そう話し始めたグラウニーの表情は硬い。
「叔父様、なにか面倒な事でも?」
「わからん・・・・・
ただ、色々と調べさせているうちに、この屋敷の周辺でも
多くの死者が、出ている事を知ったのだ」
「あっ・・・・・・」
思わず漏らした一言。
犯人に心当たりがあり過ぎる。
エンデとキングホース。
特に、キングホース。
あの馬の仕業だった。
この屋敷を監視し、悪意を持つ者達を、次々に屠った。
その後、死体を放置した為に、屋敷の周辺には、多くの死体が転がっていた。
━━あの駄馬、最後まできちんと片付けていなかったわね・・・・・・
そう思いながらも、表情に出さないように努めるエブリンだが、
その前に『あっ・・・・・』と声を漏らしてしまった為に、
グラウニーから、怪しい眼差しを向けられている。
再び、ティーカップを手に持つグラウニー。
残っていた紅茶を一息に飲み干した。
「さて、詳しい話を聞こうではないか・・・・・」
親戚としてではなく、『宰相』としての顔をして迫る。
「叔父様、お顔が・・・・・」
若干、引き気味のエブリン。
だが、話さずに迷惑をかける訳にもいかない。
背筋を伸ばし、グラウニーと向き合うエブリン。
「叔父様、これからお話しすることは他言無用です」
そうグラウニーに告げた時、部屋の扉が叩かれる。
入って来たのは、エリアル。
「お話の途中、失礼致します」
普段、扉を叩いただけで許可を得ず、
部屋に押し入るなど、失礼な事だが、エブリンは、エリアルの後ろにいる者の姿を見て気が付く。
「構わないわよ。
貴方達も、いてくれた方が話が早いわ」
当初は、1人で話すつもりだったが、こうなれば仕方がない。
エンデとキングホースに同席するように促す。
グラウニーに挨拶をするエンデ。
「ご無沙汰しております叔父様」
「エンデか、元気そうで何よりだ。
それより、その隣の男は誰だ?」
「はい、彼は【ダバン】。
亜人です」
「『ダバン』?」
「うん、名前があった方がいいと思って、僕が付けた」
「もしかして、『駄馬』だから、『ダバン』なの?」
「覚えやすいでしょ」
そう言って、笑顔を見せるエンデ。
エブリンは、ダバンの表情を窺うが、本人も満更ではない様子。
「ダバンで、いいの?」
「ああ、主から初めて頂戴した名だ。
大切にする」
満足そうなダバン。
エブリンは、憐れみの表情でダバンをみた。
━━『駄馬』だから『ダバン』なんて、
もう少し、考えてあげればいいのに・・・・・・
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