貴族の失態と・・・・・
この日のランデルは、完全に酔っていた。
その為、いつも以上に、我儘に振舞う。
「おい、ランデル様が、来てやったぞ!」
ランデルと、護衛の2人は、入り口で待つ。
後ろに控えている護衛も、酒が入っているようだ。
慌てて駆け寄るイビル。
「ランデル様、いらっしゃいませ」
娼館の主人、イビルは、いつものように出迎える。
しかし・・・・・
「貴様、俺様を待たせるとは、良い身分だなぁ」
ランデルは、イビルを蹴り飛ばした。
「うぐっ・・・・・」
「旦那様!」
床に倒れ込むイビルに近づき、起き上がらせる使用人達。
ランデルは、イビルを睨みつけている。
「謝罪も無しか・・・・・いい度胸だな」
使用人達に、支えられているイビルのもとに、ランデルの護衛が近づく。
横から両脇を抱え、ランデルの前に連れて行き、跪かせる。
「おい、謝罪代わりに、靴を舐めろ」
「えっ!?」
「謝罪するんだろ、だったら靴を舐めろ」
そう告げるランデル。
護衛の男たちも、その言葉に従い、
イビルの頭を押さえつけ、ランデルの靴に近づける。
子爵であるランデルに逆らえず、使用人達も立ち尽くしたままだ。
そこに、現れたエドラ。
「騒がしいわね、何なの!」
薄いガウンを羽織るエドラの登場に、ランデルが笑みを浮かべた。
「いい所に来たな。
この男が気に入らぬから、お仕置きをしている最中だ。
お前も、俺様に逆らうと、同じ目に合わせるぞ。
わかったら、俺様の屋敷に来い」
「嫌よ」
即答すると、ランデルの顔が歪む。
「貴様は、何時まで待っても、変わらぬのだな」
「もちろんよ」
「ほう・・・・」
この騒ぎを聞きつけ、店の前には、やじ馬達が集まり始めていた。
ランデルは外に向き直り、大声で告げた。
「『黄金郷』は閉店だ!
この俺様に逆らえば、こうなるのだ!」
イビルの横にいた護衛達は、店の中で暴れ始める。
「いいぞ、こんな店、潰してしまえ!
ワハハハ・・・・・」
店を破壊する護衛の男達は、使用人達にも手をあげる。
イビルは、慌てて止めた。
「お止め下さい。
この者達は、関係ありません。
お願い致します」
ランデルに、頭を下げる。
しかし、ランデルの目は、エドラだけを見ていて
イビルのお願いなど、聞くつもりもない。
「どうするエドラ。
貴様が屋敷に来るなら、許してやらんでもないぞ」
下卑た笑みを見せつける。
だが、エドラが返事をする前に、イビルが止めた。
「この者達は、関係御座いません。
ですので、お断り致します」
エドラよりも先に、断りを入れた。
ランデルは、イビルを睨みつけると腰の剣を抜いた。
そして・・・・・
「不敬罪だ」
そう言うと同時に、剣を振り下ろした。
鈍い音と共に、床に倒れ込むイビル。
「だ、旦那様・・・・・」
「嘘だろ・・・・」
やじ馬達も驚いている。
ランデルの剣には、事実を物語るように、血がついている。
倒れ込み、ピクリとも動かないイビル。
「エドラ、よく見ろ!
これは、お前のせいだ。
お前が、俺様に従っていれば、このような事には、ならなかったのだ。
どうする?
早く返事をしないと、次の犠牲者が出るぞ」
護衛の男たちも、剣を抜いた。
「・・・・・わかったわ。
だから、もうやめて・・・・・」
エドラの言葉に、ランデルは、笑みを浮かべた。
そして・・・・・
「それが、俺様に頼む態度か!
お前は、礼儀を知らないのか!?」
完全に見下し、ふざけている。
だが、エドラが従わなければ、犠牲者が出てしまう。
エドラは覚悟を決め、ランデルの前で跪いた。
「ランデル様、私は、お屋敷にお伺いさせて頂きます」
そう伝え、深々と頭を下げた。
「そうか、私のところに、来たいのだな」
「・・・・・はい」
「では、参ろうか」
ランデルは、エドラを連れて店から出て行った。
護衛の男たちも、手を止め、ランドルに続く。
ランデルが去ると、使用人達は、急いでイビルに駆け寄る。
しかし、既に息絶えていた。
「旦那さまぁぁぁぁ!」
悲しみに暮れる使用人達。
何も知らないエンデは、母であるエドラの言いつけを守り、
娼婦達の休憩室で、エドラの帰りを待っていた。
だが、その日、エドラは、帰って来なかった。
次の日も、その翌日も・・・・・
そして・・・・・
7日後、エドラは、死体となって、川に捨てられていたところを発見された。
娼婦の館『黄金郷』。
あの日から、店は閉まっている。
イビルが死に、今度は、エドラが死んだ。
いや、殺された。
店は悲しみに包まれ、今までの華やかさが、嘘のように思える。
母の亡骸を前に、泣きじゃくっているエンデ。
「母様、母様、母様ぁぁぁぁぁ!!!」
エドラの体には、無数の深い傷跡があった。
屋敷で、何をされたのかがわかる程に・・・・・
「なんで、なんでこうなったの!」
周りにいる大人達に尋ねるエンデ。
誰かが、ポツリと呟く。
「あの男だ、ランドル エンデバだよ。
あいつの仕業なんだ・・・・・」
顔を上げるエンデ。
「それは、誰?
何処に住んでいるの?」
その顔に、涙はもうない。
「ねぇ、教えてよ。
アイシャ、お願いだから、教えてよ」
「ごめん・・・・・」
スクッと立ち上がると、エンデは歩き始めた。
「ちょっと、何処に行くんだい?」
「・・・・・トイレ」
そう言い残し、エンデは、部屋を出て行った。
そのまま娼館を出ると、エンデは歩く。
ランドル エンデバの屋敷に向かう為に・・・・・
街を彷徨い、通り過ぎる人に、ランドルの屋敷を訪ねる。
それを繰り返し、エンデは、ランデルの屋敷の近くまで辿り着いた。
「もうすぐだから、母様。
仇は、絶対に取るから・・・・・」
再び歩き出すエンデ。
自然と両肩の包帯が解け、天使と悪魔の翼が晒された。
その瞬間、エンデの体に変化が起きる。
背中に6枚の羽が生えた。
白い羽が2枚。
黒い羽が4枚。
6枚の羽を羽ばたかせ、屋敷の上空まで飛ぶと、止まった。
「母様、見ていて・・・・」
不定期投稿ですが、宜しくお願い致します。