王都 いざ、本拠地へ
チェスターの屋敷に到着したエンデとキングホース。
屋敷の門には、深夜ながら、2人の警備兵の姿があった。
「行こうか」
キングホースは、エンデを乗せたまま、門に向かう。
「待て、そこで止まれ!」
エンデ達に気が付いた警備兵が声を掛ける。
だが、エンデ達は、止まるつもりはない。
そのまま突き進むと、警備兵たちは仲間を呼び、敷地内への入り口を塞ぐ。
最後尾にいた兵団長が、エンデ達に向かって叫ぶ。
「ここから先は、通さん!
大人しく引き返せ!」
その声に習って、警備兵たちも、毅然とした態度を見せつける。
しかし、キングホースは勢いをつけ、
入り口を塞いでいる兵士の集団に向かって駆け出した。
「突っ込めぇぇぇぇぇ!」
エンデの掛け声に従い、速度を上げる。
「か、構え!」
兵団長は、急いで号令をかける。
だが、その号令は間に合わず、
兵士たちは、キングホースの体当たりを受け、吹き飛ばされた。
塀や、壁に衝突し、地面に倒れ、唸り声を上げている兵士たち。
キングホースは、そんな兵士たちを見下し、何事も無かったかのように、
敷地内に入ったところで立ち止まっていた。
被害を被らなかった兵士たちは、キングホースに攻撃を仕掛ける為、
体制を整える。
そこにキングホースから降りたエンデが立ち塞がる。
「今度は、僕の番だね」
そう告げたのだが、キングホースはエンデを咥え、
屋敷の入り口に向かって放り投げた。
「え!?」
上手く着地したエンデ。
キングホースを睨む。
すると『早く行け!』と言わんばかりに嘶く。
「わかったよ、じゃぁ、こっちは任せるからな!」
そう言って、エンデは、屋敷の中に入って行った。
突然の出来事に、思わず見ているだけだった兵士たち。
我に返り、慌ててエンデを追おうとする。
しかし、キングホースが、屋敷の入り口の前に立ち塞がった。
被害を受けなかった兵団長。
キングホースに、いいようにあしらわれて、怒りがこみ上げる。
「あまり、人間を舐めるなよ・・・・・」
一呼吸置いたのち、告げる。
「我が名は、【ラドルフ ブロア】。
陛下より、準男爵の爵位を賜った一族の者だ。
人族が獣に遅れを取ることなど、あり得ぬ」
捲し立てるように、口上を述べた後、倒れこんでいる兵士たちに檄を飛ばす。
「兵士諸君!
立ち上がれ!
我らの誇りと忠誠をかけて、この化け物を倒すのだ!」
その声に、倒れこんでいた兵士たちが、ゆっくりと立ち上がり始めた。
「戦闘態勢、第3の陣」
ラドルフの言葉に従い、陣形を組み始める。
キングホースは、空気を読んで、黙って見ている。
陣形が整うと、前衛の兵士たちは、ポケットから何かを取り出して飲んだ。
すると、兵士たちの目が赤くなり、獣のような顔つきに変わる。
「前衛隊、突撃!」
『うがぁぁぁぁぁ!!!』
兵士たちは、各々に剣を持ち、バーサーカー状態になり、キングホースに襲い掛かる。
その戦いぶりは、『死』を恐れていない。
兵士たちが飲んだ液体は、力が増す代わりに、
理性を奪い、痛みを感じる事が無くなると同時に、服従させる効力を持つ薬だった。
その為、『突撃』の命令を受けた彼らに、恐怖心など微塵も無い。
腕が引き千切れようが、命が尽きるまで、攻撃を止めない。
空気を読んで、立ち止まっていたキングホースは、苦戦を強いられている。
━━空気なんて読むんじゃなかった・・・・・・
そう思い、少し後悔している。
そんなキングホースに向けて、第二部隊の攻撃が開始された。
「奴の動きを止めろ!」
少数ながらも、魔法を使う者たちで、構成されている第二部隊は、
前衛部隊が巻き込まれることなど恐れず、次々と魔法を繰り出した。
完全に足止めをされているキングホースは、
放たれた攻撃魔法を、躱す事などできる筈も無く、敵の兵士達と共に、直撃を食らった。
大怪我を負わないながらも、この状況に、苛立ちを覚えるキングホース。
兵士たちを睨みつけると、キングホースは向きを変え、
襲い掛かる兵士たちを、後ろ足で蹴り飛ばす。
飛ばされた先にあるのは、隊列を組んだラドルフたち。
理性を失い、単調な攻撃しかできない兵士たちを、次々にラドルフのもとに飛ばす。
的当てのように、部隊に向かって飛ばされる兵士たち。
直撃を食らい、倒れる魔法士たち。
キングホースの攻撃は、『弾』となる兵士がいなくなるまで続いた。
全ての弾(兵士)を打ち終わった時、その場に立っているのは、
キングホースだけだった。
格好良く、口上を述べたラドルフは、戦いの途中で弾(兵士)を受け、
早々と、倒れていた。
しかし、ラドルフは生きていた。
「こんなはずでは・・・・・・」
意識を朦朧とさせながらも、立ち上がろうとする。
そこに、向かって歩くキングホース。
先程迄なら、ゆっくりと歩き、立ち上がるまで空気を読んで待つのだが、
先程の一件で、空気を読むことを止めたキングホースは、
速度を上げ、立ち上がろうとするラドルフを突き飛ばした。
勢い任せに突き飛ばした為、ラドルフは、変な角度で壁に衝突し、そのまま帰らぬ人となった。
屋敷の外で、キングホースが暴れている頃、屋敷へと侵入したエンデは、迷子になっていた。
「何処に向かえばいいのかなぁ?」
呑気に、そんなセリフを吐きながら、屋敷内を探索している。
暫く、あてもなく進んでいると、いい匂いがエンデの鼻を突く。
匂いにつられるエンデ。
辿り着いたは、調理場。
そこでは、3人の男が忙しく働いていた。
「早くしろ!
そんなにモタモタしていたら、間に合わねえぞ!」
一番太った男が、檄を飛ばす。
同時に、エンデに気付く。
「坊主、何処から入って来た?」
「入口だよ」
エンデは、調理場の入り口を指で差した。
「・・・・・そうじゃねぇ、この屋敷には、何処から入って来たか聞いたんだ」
エンデは答える。
「入口だよ」
太った男は、怪訝そうな顔をする。
「いいか?
今、表は、なんでかわからねぇが、騒ぎが起きているんだ。
そんな中を、坊主が通って来れる訳ねぇだろ」
太った男が、きっぱりと言い切ると、エンデは、不思議そうな顔をした。
「事実だから、それに『駄馬』が、道を作ってくれたから大丈夫だったよ」
「???」
太った男が、聞き返す。
「その『ダバ』っていうのは、坊主の仲間で、そいつが屋敷に連れて来てくれたのか?」
「うん、まぁ、そんな感じ」
「なら、今騒がれている『襲撃者』っていうのは、坊主と、その『ダバ』って人の事なのか?」
「人?」
「ん?
坊主の仲間なんだろ?」
「うん、そうだよ。
それより、おじさん、お腹すいたんだけど・・・・・」
エンデは、湯気の上がる鍋を見つめる。
太った男も、エンデの視線に気が付いた。
「・・・・・少し、だけだぞ」
「ありがとう」
エンデは、調理場の隅に出してもらった椅子に座り、食事を始めた。
評価、有難う御座います。
不定期投稿ですが、宜しくお願い致します。




