王都 登校日
とある朝、エヴリンとエンデは、学校に行く準備をしている。
「いつものように食堂に集まり、朝食を食べる。
だが、今日から学校が始めるので、いつもよりは慌ただしい。
「あんた、そんなにゆっくりしていたら、遅刻するわよ。
初日から遅刻とか、絶対だめだからね」
「う、うん。
わかっているよ」
『今日は、入学の挨拶だけだから、焦ることはない』
そう思いながらも、エヴリンに従い、急いで準備をする。
屋敷から出ると、目の前には、馬車が止まっていた。
「早く乗って!」
エヴリンは、すでに乗り込んでいた。
エンデが乗り込むと、馬車は、学校に向かって走り出す。
『グルーワルド学院』
この国の魔法学の第一人者、【ビグル グルーワルド】が建てた学園。
貴族を中心に、魔法学や貴族としての嗜みを学ぶ為に建てられた。
その為、この学院に通うのは、殆どが貴族の地位を持つ者だ。
後は、魔法の才を見出された者達。
エヴリンとエンデもこの学園に通う。
学園の門の前に馬車が止まり、2人が降りる。
「では、馬車を回しておきます」
御者の男は、そう言い残し、再び馬車を走らせる。
エヴリンとエンデは、校舎に向かって歩き出した。
校舎は3階建て。
だが、横に広い。
また、それ以外に、研究棟が建っている。
2人が入った校舎は、ロの字ような形をしており、中庭を囲むように建っていた。
学園長室は、丁度、中庭を挟んだ向かいにある。
学園長室に向かう2人。
通り過ぎる教室には、人の姿が見えた。
━━みんな、新入生かな?・・・・・
エンデは、そんなことを考えながら、学園長室に向かっていると
正面から、歩いてくる男女の集団と鉢合う。
「あんた達、新入生?」
集団の中心にいる女性が、声をかけて来た。
彼女の名は、【シャーロット アボット】。
子爵家の長女。
シャーロットは、エブリンとエンデを、つま先から顔に向かって、視線を動かし、
品定めをするように見る。
「私達に、何か用でも、あるのかしら?」
エヴリンが、シャーロットに問う。
「何でもないわ。
それより、私達は上級生よ、道を開けなさい」
「えっ!?」
シャーロットは、『ズイッ』と肩を入れ、強引にエヴリンとエンデの間を通り過ぎた。
「なによ、あれ?」
睨みつけるよう目をしながら、去ってゆくシャーロットたちの後ろ姿を見送った。
その後、エブリン達は、再び、学院長室に向かい歩き出す。
学園長室の近くまで来ると、部屋の扉が開いている事に気が付く。
部屋の前まで行くと、中の様子が見える。
一番奥に座って仕事をしている老人。
「失礼します」
開いた扉を叩き、声を掛ける。
机に向かっていた老人は、顔を上げる。
「ん?
誰じゃ?」
「初めまして、私はエヴリン ヴァイス。
この子は、エンデ ヴァイス。
今日から、この学園のお世話になるわ」
「おお、そうか。お前達がヴァイス家の子供達か」
老人は席を立ち、エヴリン達に近寄る。
「ほう・・・・・お前は、マリオンによく似ておる・・・・・」
「えっ!
お父様をご存じなんですか?」
老人は、笑みを零す。
「知ってるもなにも、儂の教え子の一人じゃ」
「!!」
「儂は、【ルードル グルーワルド】。
今は、学園長だが、元々は、教壇に立つ教師じゃ」
「それで、お父様を、ご存じなんですね」
「勿論じゃ、彼は元気か?」
「お父様は元気よ。
今日は、私達だけだけど、そのうち顔を出すと思うわ」
「そうか、久しぶりに会ってみたいもんじゃ」
「きっと、お父様もお会いしたいと思うわ」
「ほほほ・・・・・そうか、そうか」
ルードルは、笑みを浮かべていた。
エブリンは、学園長と話をした後、父に伝える事を約束し、部屋から出た。
ずっと空気のようになっていたエンデは、部屋から出ると、エヴリンに声を掛ける。
「これで、終わりなの?」
「ええ、今日は挨拶だけだから、もう帰れるわよ」
「そうなんだ」
エンデは、エヴリンと共に、校舎の出入口に向かう。
しかし、その出入口を塞ぐように、屯している者達がいた。
この学校の3年生で、普段から行儀の悪い奴らだ。
リーダーの【ブライアン エイベル】。
この学園唯一の侯爵家の息子。
その為、ブライアンに逆らう者は殆どいない。
その男が、エヴリンに目を付けた。
無言で突き進むエヴリン達。
人が一人、やっと通れる程の隙間しかないところを、強引に通り過ぎる。
やはり、肩がぶつかりそうになる。
「おい・・・・・」
ブライアンが声を掛けて来たが、無視して通り過ぎる。
「おい!
待てって言っているだろ!」
エヴリンの肩を掴もうとしたブライアン。
しかし、エンデに阻まれた。
「何の用ですか?」
間に割り込み、ブライアンの正面に立つ。
「なんだ?
貴様に用はない。
そこをどけっ!」
エンデを振り払う為、肩を掴もうとしたが、あっさりと躱され、体制を崩した。
勢い余って、ふらついたことで、エヴリンが『ぷっ』と噴き出す。
顔を赤くして、エンデを睨みつけるブライアン。
「貴様、この俺に恥をかかせやがって!
おい!」
ブライアンの合図で、エンデに襲い掛かる者達。
その攻撃を、のらりくらりと躱すエンデ。
空を切るブライアン達の攻撃。
何度やっても同じことの繰り返し、エンデに、かすりもしない。
次第に息を切らし、フラフラとよろめくブライアン達。
「き、貴様・・・・・・逃げるな・・・・・正々堂々と・・・・・」
そこまで、言ったところで、地面に倒れた。
「あ・・・・・」
思わず声を漏らしたエンデ。
ブライアン達を見つめている。
疲れ切ったブライアン達。
歯向かう気力も残っていない。
「そこまでよ、もういいでしょ」
そう言って、割り込んで来たのは、
先程、廊下ですれ違った女性、シャーロット アボット。
先程と同じ様に、大勢の取り巻きを連れている。
現状を見て、大きく溜息を吐く。
「上級生の・・・・・それも、ブライアン相手に・・・・・
貴方達、これからが大変よ」
シャーロットの言葉を聞いても、エヴリン達に、怯えた様子もない。
「だから、どうだと言うの?
また同じ目に合わせるだけだわ」
「そうかもしれないけど、これでもブライアンは、侯爵家の息子。
しかも長男なのよ」
「侯爵の・・・・・」
流石に、上位貴族だと知ると、エヴリンも考え込む。
━━どうしようかしら・・・・・・
エヴリンは、怯えたわけではない。
また、手を出して来たら、どうやって懲らしめようか考えている。
しかし、傍から見たら、相手の立場を知り、悩んでいるように見えた。
「ねぇ、もし困っているなら、手を貸してあげてもいいわよ」
胸を張り、笑みを零すシャーロット。
新しいおもちゃを与えられ、喜んでいるように見える。
だが、エヴリンは、あっさりと断る。
「気持ちだけ受け取っておくわ」
そう言い残し、エヴリンは、エンデの手を引き、門の所で待っている馬車に乗り込んだ。
不定期投稿ですが、宜しくお願い致します。




