王都 謁見の間にて
エヴリン達が、証言することを決めると
その翌日には、ロナウ オーディンは王城に呼ばれる運びとなった。
本来なら、ロナウの父親である【リドガー オーディン】も王城に出向くはずだったが、
半年前より、病に伏している為、この場に姿は無い。
その為、謁見の間に姿を見せたのは、ロナウただ1人。
取り巻き達は、この場に呼ばれていない。
玉座に座る国王【ゴーレン アンドリウス】。
隣にいるのは、宰相のグラウニー。
「さて、ロナウ オーディン。
何故、この場に呼ばれたのか、わかるか?」
思い当たる節が多い故に、言葉に詰まる。
「・・・・・い、いえ」
「そうか・・・・・
自らの口で、語って欲しかったのだが・・・・」
アンドリウスは、グラウニーに合図を送る。
グラウニーは、控えていた場所から、一歩、前に出た。
「では、問おう。
ロナウ オーディンよ、
最近、街中で貴族の悪い噂が流れている事をご存じか?」
質問に、俯いたまま答える。
「はい、私の耳にも届いております」
「そうか、知っておるか」
「・・・・・はい」
「ならば話が早い。
先日、私の姪が、あらぬ疑いをかけられてな。
それで、とある貴族と兵士がグルになって地下の牢獄に放り込んだそうだ。
お主に、心当たりはあるか?」
ロナウには、誰の事か察しがついた。
横目で、エヴリンを見る。
━━あの女、宰相の姪だったのか・・・・・・
後悔をするが、それは仕出かした事に対してではなく、
絡んだ相手が悪かったという、運の悪さに対してだった。
動揺するロナウに、畳み掛けるように話を続ける。
「それから、国民達を虐げていた兵士どもは、既に捕えた。
そ奴らからも、とある貴族の名を聞いたのだが・・・・・」
グラウニーの視線が、ロナウを貫く。
ここまで来て、言い逃れの出来ない状態に、戸惑うしかないロナウ。
「申し開きが、あるのなら聞いてやるぞ」
「く・・・・・」
ロナウに、判決が下ると思われたその時、謁見の間の扉が開く。
「失礼致します」
声を上げたのは、初老の男の肩を、担いだ執事。
「失礼を承知で参りました。
こちらは、オーディン家、現当主【リドガー オーディン】様でございます」
リドガーは顔色も悪く、先程の執事とメイドに肩を借り、
息も絶え絶えで、この場にやって来たのである。
リドガーは、息子のロナウの隣で膝をつく。
「陛下、この度の件、誠に申し訳御座いません」
床に頭をつけて、謝罪の言葉を口にする。
「リドガー、そなたは、大病を患っておったのではないか?」
「はっ、その通りでございます。
しかし、息子の仕出かした不始末を聞き、
居ても立っても居られず、不躾ながら、この場にやって参りました」
「うむ・・・・・」
ゴーレンは、リドガーの言葉を聞き、視線をロナウへと向ける。
「ロナウよ、お前の横で、頭をさげる父を見て、お前は、どう思う?」
「・・・・・申し訳なく思います」
「そうか・・・・」
言葉とは、裏腹にロナウの顔には、捕まった事に対する後悔と
この場に引きずり出した張本人、エヴリン達への怒りで染まっている。
その事に、誰よりも早く気が付いたリドガーが、国王に慈悲を乞う。
「陛下、言葉を挟む無礼、お許しください。
この度の一件、我が子、ロナウの仕出かした事。
その責任の一端は、私に御座います。
よって、爵位と領地をお返し致します」
爵位を返す。
これは、貴族で無くなる事。
リドガーは、平民に戻る決意であることを伝えたのだ。
この言葉に、『はっ!?』となり、驚愕の表情のロナウ。
「父上・・・・・・何を言っているのですか?」
「言葉の通りだ」
ロナウは、我を忘れると同時に
国王の御前だという事も忘れ、立ち上がった。
「何を寝ぼけたことを言っているのですか!?
爵位を返す?
今更、平民に戻れと?
・・・・・貴方は、どうやら病で、呆けてしまったようだ。
早く、爵位をこの私に譲り、隠居でも、何でもしてください!」
「そうか、それがお前の本心か・・・・・
病を押して迄、この場に現れた父の事よりも、
貴族という位にしがみ付きたいようだな」
ゴーレンから発せられた言葉に、我に返り、陛下の御前だったことを思い出す。
「あ・・・・・こ、これは・・・・・・」
縋りつくように、リドガーを見る。
しかし、リドガーは、頭を床に付けたまま微動だにしない。
顔を青くし、その場にへたり込む。
普段から、好き勝手に振舞い、我慢することを知らなかったロナウ。
我慢や辛抱が、出来る筈が無い。
その結果、病を押して迄、この場に姿を見せ、
息子の減刑を願った父までも、裏切る形となった。
「リドガー、何か言う事は、あるか?」
「・・・・・いえ、何も御座いません」
「では、裁きを言い渡す」
貴族という地位に溺れた男の末路。
「ロナウ オーディン。
牢獄に30日の収監後、鉱山にて5年の労働に処す」
父であるリドガーに対する国王ゴーレン アンドリウスの最大の譲歩だった。
死罪を覚悟していただけに、
ゴーレンの下した判決に、一度、顔を上げた後、再び頭を下げるリドガー。
心の中で呟く。
━━感謝致します・・・・・・
だが、納得していない者がいる。
ロナウだ。
張本人でありながら、未だに反省の色も謝罪の言葉もない。
これ以上の無様な姿は、陛下に毒でしかないと判断するグラウニー。
「連れて行け」
兵士によって両腕を掴まれ、連行されてゆく。
その間も何か叫んでいるが、誰も聞く耳を持たなかった。
ロナウの退場で、静けさを取り戻した謁見の間。
「さて、リドガーよ・・・・・良いのだな?」
「はい、お願い致します。
それと、寛大なお心遣いに感謝申し上げます」
「うむ。
では、この場にて宣言する。
リドガー オーディン。
子爵の地位の返還と財産の没収。
この街からの退去を命ずる」
リドガーは、無言で深く頭を下げた。
━━私達、必要だったのかしら・・・・・・
そんな事を考えている、謁見の間に呼ばれていたエヴリンだった。
後日、グラウニーにその事を聞くと、『証人が、その場にいることで
嘘を吐けないようにする事が重要なのだ』と教えられた。
3日後、リドガー オーディンは、『リドガー』となり、家族と共に街を去った。
また、共犯の兵士や貴族の息子、商人の息子には、それぞれの厳罰が与えられた。
ブックマーク登録、有難う御座います。
不定期投稿ですが、宜しくお願い致します。




