王都 冒険者ギルド3 結末
ヴィネーゼは、エンデ達と共に、職員の帰りを待った。
━━また、要らぬことをしてくれたもんだ・・・・・
先程、折り合いをつけ、やっと騒ぎが収まり、安堵していたところに、この騒ぎ。
完全に、ギルドが約束を破ったと思われても仕方がない状況。
扉が開き、息を切らせながら職員が戻って来た。
「ただいま、戻りました・・・・・」
後に続くように、他の職員達も戻ってきたが、一様に顔色が悪い。
ただ、走って来ただけにしては、様子もおかしい。
ヴィネーゼは、一番に戻って来たギルド職員の【トマソン】に状況を尋ねようとしたが、
後から入って来た職員たちの持つ、血の付いた冒険者プレートに気付く。
「まさか・・・・・」
職員達が持つプレートは、全部で9枚。
どのプレートにも、べったりと血が付いていた。
「これを・・・・・」
代表して仲間から集めたトマソンが、ヴィネーゼに、プレートを差し出す。
「これは、どういう事だ!」
仲間が殺されたことに、怒りを露わにして、エンデに詰め寄る。
しかし・・・・・
「さっきも言ったけど、襲って来たのは、こいつらだよ」
エンデの差し示す方向には、スコールの姿。
「きちんと話が聞きたいから、生かして連れて来たけど・・・・・
不満?
それとも、生きていると都合が悪い?」
エンデが、そう伝えると、ヴィネーゼが睨む。
「まるで、ギルドが仕掛けたような言い草だな」
「うん、半分は、そう思っているよ」
「貴様・・・・・」
身に覚えのない罪を着せられかけるヴィネーゼ。
「私は、そんな命令は出していない。
それに、もし、貴様を殺すのなら、私の手で殺す」
その言葉に、エンデの表情が変わった。
「ふ~ん、人の身で、僕に勝てるんだ・・・・・・」
思わず、口走った一言。
小声だったが、エルフであるヴィネーゼの耳には届いた。
「人の身・・・・・だと?」
ヴィネーゼの呟きに『不味い』と感じたエブリンが、
エンデを抑え、間に割って入る。
「それより、貴方達の仕業では無いのね」
「勿論だ」
「そうなの・・・・・わかったわ。
この件は、保留にしておいてあげる。
でも、私達が『ギルドの命令か?』って聞いたら、
顔を背けて、何も喋らなかったのよ。
これでは、疑われても、仕方ないでしょ」
『だから、ここに連れて来た』とエヴリンが伝えると、
ヴィネーゼは、ギルドで屯している冒険者達に視線を移す。
「お前達、この一件、何か知っているのか!?」
冒険者達の視線は、ヴィネーゼと、血に塗られたプレートの間を行ったり来たりしている。
先程まで、一緒に酒を飲んでいた仲間。
質は悪いが、上位ランカーであるスコールの仲間が
たった一人の子供に殺されたことで、冒険者達の酒を飲む手が止まっている。
そんな中、2人の男が顔を青くして、下を向いていた。
ヴィネーゼも、その二人の様子が、明らかにおかしい事に気が付く。
「【デント】、【イーゴ】、どうした?
顔色が悪いぞ・・・・・
もしかして、お前達、何か知っているのか?」
名指しで、声をかけられた2人は、お互いの顔を見合わせた後、
床に、座らされているスコールを見た。
スコールが顔を上げ、2人と目を合わせる。
━━お前ら、黙っていろよ・・・・・・
目で訴えかけるスコール。
その意図に気付き、口を塞ぐデントとイーゴ。
だが・・・・・
「お前達が、ここで黙秘するのも、構わん。
しかし、そうなると、今回の一件は、ギルドだけでなく、
ここにいるお前達全員が、共犯になり兼ねんぞ」
ヴィネーゼの言葉に、ざわめきが起きる。
そして、無関係の冒険者達から、2人に非難の声が集まる。
「イーゴ、お前達が何を企んだかは知らんが、俺達まで巻き込むな!」
「貴様ら、行儀の悪い者達の考えなど知らん。
さっさと、話してしまえ!」
周囲からの言葉に、デントとイーゴは、下を向く。
その途端、痺れを切らした冒険者に背中を蹴られ、床に転げおちた。
「さっさと白状しろ!」
無関係の冒険者達からの非難の声に負け、デントが口を開いた。
「俺達は、ランバーさんと仲が良かったんだ・・・・・
でも、そこの小僧のせいで・・・・
だから、その・・・・・し、仕返しを・・・・・」
ランバーとスコールは、仲が良かった。
いや、正確には、ランバーの手下的な存在だったのが、スコール。
スコールは、今回の処分が不満だった。
ランバーだけに、『降格』と『罰金』。
エンデには、お咎めなし。
その事が、どうしても納得できない。
今までだって、新人いじめについて、
ギルドは、沈黙を貫いてきたとスコールは思っている。
だから、今回だけ処分が下るのは、おかしい。
そう思っていても、ギルドを責める訳には、いかない。
最悪、追放されるからだ。
その為、その恨みの矛先が、エンデに向いた。
元々、原因となったのはエンデ。
完全な逆恨みだが、スコールは、エンデを痛めつける事で、
不満を解消し、ランバーの仇を討とうとしたのだ。
勿論、ランバーに迷惑が掛かっては、意味が無いので、
ランバーを慕っている者達だけの秘密にした。
だからこそ、スコールは、口を割らなかった。
しかし、デントが口を割った事で、事情を把握したヴィネーゼ。
呆れた顔で、言い放つ。
「それは、完全な逆恨みじゃないか!
そんな事で、9人が命を落としたというのか・・・・・」
逆恨みも甚だしい、それに、不満を解消する為だけに、
エンデを襲った。
結果、9人が命を失った。
この事実に、返す言葉もない。
彼らにとっては、大切な事だったのかも知れない。
だが、ヴィネーゼからしたら、たったそれだけの事。
馬鹿げた行為にしか思えない。
そんな事で、ヴィネーゼは責められ、戦闘にもなりかけた。
それに、彼らの行動は、冒険者ギルドの名を汚す行為。
この国の冒険者ギルドの中心でもある王都冒険者ギルド。
その名を貶める行為を、許せる筈がない。
「デントとイーゴ、それにスコール。
3人を捕える。
貴様らの行為は、冒険者ギルドの名を貶める行いだ。
覚悟しろ!」
3人は、ギルドの職員達の手によって、地下にある牢獄に収監された。
騒ぎが収まり、静まり返るギルドフロア。
ヴィネーゼとエンデの前に、ランバーが立つ。
「今回の事、全て俺の責任だ」
「そうだ、日頃から、私は注意していたはずだ・・・・・」
「ああ、わかっている」
ヴィネーゼは、人知れず、ランバーだけの時に、再三にわたり注意をしてきた。
しかし、ランバーは効く耳を持たず、聞き流していた。
だが、今回の出来事で、自分の過ちを痛感している。
「9人が、命を落とした。
あれも、俺のせいだ・・・・・」
「そうだ」
ランバーは、エンデと向き合う。
「今回の責任は、全て俺にある。
ギルドは無関係だ。
俺の事は、好きにして構わない。
だから、あいつ等を、許して貰えないだろうか?」
ランバーは、床に膝をつき、エンデに頭を下げる。
エンデは、どうしていいのかわからず、エヴリンを見た。
『はぁ~』と溜息を吐きながら、エンデの代わりに声をかけた。
「貴方達は、子爵家に敵意を向けたのです。
そう簡単に、許せることでは、ありません」
「わかっている・・・・・」
「それに、ギルドの信用問題もあります」
「・・・・・ああ」
「なので、それ相応の対価を払って頂きます」
ランバーが、顔を上げる。
「対価?」
「ええ、対価です。
貴方達には、冒険者を辞めて頂きます。
そして、ギルドの信用が戻るまで、ここで働きなさい。
それが、私からの条件です」
『後は、貴方にお任せするわ』
そう言って、ヴィネーゼに、バトンを渡す。
ヴィネーゼも、この提案に驚いた顔をしていたが、納得したようで
ランバー達を、雇用することに決めた。
「自分達の失態を、その身で返せ。
給料は、安いぞ。
今までのように、毎日酒場にも行けなくなる。
それでもいいか?」
「構わない。
感謝する」
ランバーは、この提案を、あっさりと受け入れた。
不定期投稿ですが、宜しくお願い致します。
ブックマーク、有難う御座います。




