王都 冒険者ギルド2
彼女は、ギルドマスターの【ヴィネーゼ】。
エルフの女性。
「貴方達、少年相手に、何をしているの?」
「いや、この子が・・・・・」
ナウールが、咄嗟に何か言おうとしたが、エンデが遮る。
「最初に、仕掛けて来たのは、このおじさんだよね」
エンデが指を差したのは、床で蹲っているランバーだ。
腕を折られた為、額から脂汗を流しながら、ヴィネーゼに何か訴えようとする。
「こいつらが・・・・・」
あくまでも、自分達は悪くないと、アピールしようとしているようだが、
あまりの痛みに、上手く言葉に出来ない。
その姿に、溜息を吐くヴィネーゼ。
「もういいわ。
詳しい話は向こうで聞くから、貴方達もついて来てくれるかしら?」
そう伝えた後、ヴィネーゼは、ギルドの職員に、ランバーの治療をするように伝えた。
ヴィネーゼに誘われ、エンデとエヴリンが、ギルドの奥に向かって歩き出したところに
ジョエル達が、ギルドに入って来た。
「遅くなり、申し訳御座いません」
目が合ったエヴリンに向かって謝罪を口にする。
「遅かったけど、何かあったの?」
「いえ、馬車を止めるところで、少々、手間取りまして・・・・・」
「そう・・・・それで、もういいの?」
「はい、問題ありません。
ところで、その・・・・・こちらでは、何か、あったのでしょうか?」
ジョエルは、辺りを見渡す。
転がった机、治療されている男性、ソワソワしている男性、
それに、ギルドマスターの姿。
どう見ても、何かあったとしか思えない状況。
そこで、面識のあるギルドマスターのヴィネーゼに、声をかけてみる。
「ヴィネーゼ様、お久しぶりで御座います」
ジョエルの顔を見たヴィネーゼ。
「確か・・・・ジョエル商会の・・・・」
「はい、覚えていて下さって有難う御座います。
会長のジョエルで御座います」
「何故、貴殿が冒険者ギルドに?
依頼があるのなら、そちらの受付に・・・・」
勘違いをし、受付へと促すヴィネーゼに、ジョエルが伝える。
「いえ、依頼では御座いません。
私は、この方達と一緒に、王都に参りましたので」
そう伝えると、ヴィネーゼが、エンデ達の顔を見る。
「二人は、ジョエル殿の知り合いなのか?」
その質問に答えたのは、エヴリン。
「知り合いというか、ジョエルは、お父様の所に、出入りしている商人よ」
「え・・・・・」
『出入りしている商人』
その言葉だけで、ヴィネーゼの顔色が悪くなる。
━━まさか・・・・・
エヴリンが名乗る。
「私の名は、エヴリン ヴァイス。
こっちは、弟のエンデ ヴァイスよ」
ヴィネーゼがジョエルの顔を見た。
ジョエルは、その意を察して答える。
「この方達は、マリオン ヴァイス子爵様のご息女とご子息です」
「は?・・・・・」
仲裁に入り、仲間を守ろうとしたナウールから、声が漏れた。
まさか、子爵家の子供達が相手だと、思っても見なかったのだ。
━━俺は、まだ、何もしていない・・・・・
自分に言い聞かせ、静かにその場から、立ち去ろうとする。
しかし・・・・・
「何処に、行こうとしているのだ!?」
ヴィネーゼに、呼び止められた。
「いや、その・・・・・」
相変わらず、歯切れの悪い言葉しか話さないナウールに、
ヴィネーゼが、叱咤する様に言い放つ。
「貴様は、そこから動くな!
しっかりと事情を聞くからな!」
「・・・・・はい」
逃げる事が許されず、その場で立ち尽くすナウール。
「ところで、一体何があったのですか?」
再び問いかけるジョエル。
大体の察しは、ついている。
「私も、このお二方をお預かりしている以上、
報告する義務が御座いますので、お教えいただけますかな」
先程までと違い、ジョエルの顔つきが変わった。
ヴィネーゼは、正直に話す。
「私も、騒ぎに気付いて、駆け付けたところなのだ。
だから、事情は知らぬ」
「そうですか・・・・それで、この後は?」
「もちろん、事情を聞くつもりだ。
良ければ、貴殿も同席するか?」
「有難い申し出です。
喜んで、同席させて頂きます」
話が纏まったところで、ヴィネーゼは、エンデとエヴリンとジョエル達。
それに、ギルドの受付をしていた職員。
首謀者であり、治療を終えたランバーとナウールを引き連れて、奥の応接室に向かった。
応接室に入ると、それぞれがソファーに腰を掛ける。
しかし、席が足りない。
長いソファーの片側には、エンデとエヴリン、その後ろに、メイドが2人。
また、反対側には、ジョエル、ヘンリエッタ、ジャスティーン、
そして後ろに、こちらもメイドが2人。
ヴィネーゼは、1人掛けのソファーに座っている。
座ろうと思えば、エンデ達の2人しか掛けていないソファーに座れる。
だが、貴族の横に座る訳にはいかない。
したがって、ランバーとナウールは、部屋の隅に立ったままだ。
落ち着いたところで、ヴィネーゼが口を開いた。
「では、話を始めようか?」
ヴィネーゼに続いたのは、ジョエルだった。
「先にお伝えしておきますが、ここでの会話は、
ヴァイス子爵家に、そのままお伝え致しますので、
良くお考えになってから、お話しください」
これは、冒険者達に対するジョエルの牽制。
『いらぬ暴言を吐けば、そのまま伝えるので、お前達は覚悟して話せ』
ジョエルは、そのように言っているのだ。
勿論、ヴィネーゼも、ナウールもランバーも、その意味を理解している。
その為、迂闊に喋る事が出来なくなった。
貴族を相手に嘘を吐けば、『不敬罪』で、罰せられる可能性もある。
既に酒が抜け、自身の行動を反省するしかないランバー。
ランバーは、エンデ達の事を、新人の冒険者程度にしか思っていなかった。
日頃から、新人冒険者を甚振っていたランバーからしてみれば
冒険者ギルドに立ち寄ったエンデ達は、格好のおもちゃ。
だから、いつものように、因縁をつけた。
後は、適当に甚振って、放り出せば済む。
そう思っていた。
しかし、現実は違った。
ランバーは、因縁をつけたエンデに、腕を折られ、殺されかけた。
それを見て、焦って飛び出して来たのが、ナウール。
だが、ナウールもエンデに敵と認定されてしまい、身動きが取れなくなり
困り果てていたのだ。
その時に、現れたのが、ヴィネーゼだった。
一連の話を聞き、頭を抱えるヴィネーゼ。
完全に、喧嘩を吹っかけた冒険者が悪い。
━━新人いじめも、問題だが・・・・・
それよりも・・・・どうすればいいのだ・・・・・・
ヤジを飛ばした者達も、処分の対象にすれば、
ギルドとしての活動が止まる。
しかし、このままというわけにもいかない。
酒が抜けたランバーとナウールも顔色が悪い。
自身のやった事の重大さに、気付いているのだ。
「ジョエル殿、貴方に問うのは、お門違いだとわかっている。
しかし、このままでは、冒険者ギルドの活動まで止まってしまうのだ。
何か、いい案は無いだろうか?」
ヴィネーゼは、ジョエルに助言を求める。
「そうですね・・・・・」
考え込むジョエル。
そこに、エンデが口を挟んだ。
「2人に、死んでもらったら?
何なら、僕が殺そうか?」
『ゴンッ!』
表情を変えず、言い放ったエンデの頭に、ゲンコツが落ちる。
落としたのは、エヴリン。
「そういう考え方は、ダメって教えたでしょ」
「でも、話が纏まらないみたいだから・・・・・」
「それでも、ダメ!
いい?
わかった?」
「うん、わかった」
素直に、エヴリンのいう事を聞くエンデ。
その一方、ヴィネーゼ達は、早く話を纏めることを決心した。
━━エンデ、恐ろしい子・・・・・
不定期投稿ですが、宜しくお願い致します。




