アンドリウス王国の決断 1
セリーヌがエルマと再会を果たしている頃、
アンドリウス王国にも、エンデヴァイス討伐の話が
噂という形で流れて来ていた。
噂を聞きつけた、国王ゴーレン アンドリウスは、真相を探らせる為、
密偵を送り込んだ。
それから数日後・・・・・
ゴーレン アンドリウスは、エンデを招く。
「此度の噂、残念な事じゃが、事実と判明した。
エンデよ。
お前はどうするつもりなのだ?」
多国籍軍VSアンドリウス王国。
どう考えても、アンドリウス王国軍に、勝てる見込みなど無い。
ゴーレンアンドリウスは、そう考えている。
一番良い方法は、エンデを差し出すこと。
天使率いる多国籍軍の狙いは、エンデ1人なのだから
この国が巻き添えを喰らう可能性は下がる。
だが、エンデを差し出すことに、
ゴーレンアンドリウスにとって、良い事とは言い難い。
今迄、多くの功績を上げたエンデを手放せば、
戦力の低下にも繋がり兼ねない。
それに、エンデに借りがある。
その借りを無視して、エンデを差し出したとなれば、
民や忠臣からの信頼は地へと落ちるだろう。
それだけは、避けねばならない。
その為、本心では、『出て行ってほしい』と願っているのだが
その言葉を、口にする事が出来ないのだ。
だからこそ、ゴーレンアンドリウスは、エンデに答えを求めた。
「出て行った方がいいの?」
『ボソッ』と呟くエンデ。
同行していたエブリンが驚いた顔をする。
「あんた、本気で言っているの!」
「・・・・・うん。
そうすれば、この国の人たちを巻き込まなくて済むし、
それに、これは、天使と僕の問題だから・・・」
確かにその通りだが、エブリンは納得できない。
「あんた1人で何が出来るのよ!
相手は、大勢で攻めてくるのよ」
「わかってる」
「なら・・・・・」
何かを言いかけたエブリンを遮り、エンデが話を続ける。
「無謀なことをしようとは思っていないよ。
きちんと作戦は、考えているから」
「作戦?」
「うん。
僕は、この国を出て、サラーバの街に行こうと思うんだ」
「サラーバの街・・・・・」
エブリンは、エンデの考えていることを理解する。
魔王アガサの蛮行により、死体一つ残さず、廃墟と化したあの街へ赴く理由。
それは・・・・・
━━魔界から、悪魔を呼び寄せるつもりなのね・・・・・
魔界から、ベーゼの配下だった悪魔たちを呼び寄せれば、
エンデは、1人ではない。
それに、戦力としても、申し分ない。
周りの人々が、未だ、理解に苦しむ中、
1人納得したエブリンに笑顔が戻る。
「あんたのやろうとしている事は、わかったわ。
だけど、1人では行かせないから」
「え・・・・・」
「私も、この国を出る」
「「ええっ!」」
エンデとグラウニーの声がかぶる。
慌てて問いかけるグラウニー。
「エブリンよ、そんなこと勝手に決めてよいのか?
マリオンやルーシアに、相談した方が良いとは思わぬか?」
「勿論、報告はするわ。
でも、お父様なら、きっと反対なんてしない」
息子を1人で放って置くようなことを
マリオン ヴァイスがする筈が無い。
最悪、同行すると言い出す可能性がある。
グラウニーは頭を抱えた。
万が一、そんな事になれば、国の威信に関わる。
『子爵』が国を捨てるなど、あってはならぬこと。
まして、忠臣と思われているヴァイス家だと知れれば、
要らぬ詮索や、噂が広がるだろう。
そうなれば、他の貴族たちにも動揺が走り、
王家の信頼も損なわれる事は、間違いがない。
ゴーレンアンドリウスは、慌てて2人の会話を止めた。
「ちょっと待て・・・・・早急に答えを出さずともよい」
王家としては、最悪の状況。
その為、一旦、休憩を挟み、落ち着いてから、再び話し合おうと提案しかけた時、
サーシャがダバンを伴って、謁見の間へと入って来た。
ゴーレン アンドリウスは、謁見の最中に入って来たサーシャを窘めようとしたが、
先に口を開いたのは、サーシャだった。
「お父様、お話が御座いますの」
「今は、謁見の最中だぞ。
話なら、後で聞く」
窘めるゴーレン アンドリウスだが、サーシャに引くつもりは無い。
「いいえ、今でなくてはなりません」
サーシャの視線が、エンデへと向いた。
「エンデ様に、お聞きしたい事が御座います。
エンデ様は、この国を出るおつもりでしょうか?」
「え・・・・・」
エンデの視線は、サーシャの横にいるダバンに向く。
ダバンにも、この国を出ることは伝えていない。
だが、ダバンは、なんとなくそんな気がしていたのだ。
万が一、エンデがこの国を出ることになれば、自身も同行する。
その事を遠回しにだが、サーシャに告げたダバン。
一瞬、目を見開いたサーシャだったが、直ぐに落ち着きを取り戻した。
「まさか・・・・・お父様が、そんなことをお許しになるとは思えません」
「そうだと、有難いのだが・・・・・
ただ、国の民と、1人の人間を天秤にかければ、国として、民を選ぶのは
ごく自然なことだ」
確かにその通り。
王家の人間として、その考えは理解出来る。
しかし、エンデを追放すれば、
想い人であるダバンもいなくなる。
それが、1人の女性として、容認できないのだ。
「ダバン様、今のお話は、あくまでも可能性の話ですよね?
エンデ様に、ご確認も、なされていないのでしょ」
「ああ。
確かに、確認はしていない。
だが、多分・・・・・いや、間違いなくそうなるだろう」
確信めいた言い方をするダバンに、サーシャは、『スクッ』と立ち上がる。
そして、ダバンの腕を掴むと、『ついて来て下さい』とだけ伝え、
謁見の間へと歩き出した。
そして、現在。
謁見の間にて、エンデと向き合っているのだ。
不定期投稿ですが、宜しくお願い致します。




