新たな勇者⑥ ウルグス
スラートも倒され、残るはウルグスだけとなった。
そのウルグスは、1人で旅をしている。
教会からは、仲間を集めるように言われていたが、
ウルグスは、自分の手で成し遂げると決めていた。
それは、少しでも多くのお金を、村に持ち帰る為である。
それに、農民であった自分に、小難しい作戦など理解できないからでもあった。
旅を始めて10日後、アンドリウス王国へ続く砦に辿り着く。
数日前、スラートがここで騒ぎを起こした為、警備は厳重になっていたが
配下も連れておらず、出稼ぎ人の格好をしたウルグスを、誰も勇者だとは思わず、
あっさりと通過する事が出来た。
無事、砦の街に入ったウルグスだったが、宿にも泊まらず、そのまま街を出た。
再び、野宿をしながら王都へと向かう。
そして数日後、ウルグスは王都に辿り着いた。
人も多く、活気のある街。
大量に売られている食料。
村とは全く違う光景を見て、ウルグスは考える。
これの一部でも、持って帰れれば・・・・・
自然と眺めていた。
決心を強めるウルグス。
「奴を倒して、これを持って帰ろう」
気持ちを新たに、今後の事を考える。
エンデが暮らしているのは、貴族街。
流石に、乗り込むわけにはいかない。
その為、ウルグスが、最初に寄ったのは、商業ギルド。
エンデが出て来るのを待つことにしたが、それが何時なのかはわからない。
その為、商業ギルドで仕事を紹介してもらい、仕事をしながら待つことにしたのだ。
冒険者ギルドなら、討伐や護衛など、街を出ての仕事が多いが、
商業ギルドなら、建築などの街の中での仕事が中心となる。
それに、運が良ければ、貴族街に入ることだって出来る。
ウルグスは、そうしてチャンスを窺うことにした。
その機会は早々に訪れる。
建築の仕事に携わって3日目、
先日の大雨で、貴族街のとある屋敷の馬房で、雨漏りが発生したのだ。
修理に向かうのは3人。
代表を務めるのは、髭を生やしたドワーフのような男と、
小柄だが、筋骨隆々の男。
それとウルグス。
荷物と共に、馬車に乗り込む。
「いくぞ・・・・」
ドワーフのような男の言葉と共に、馬車が走り出す。
ウルグスは、いつ遭遇しても問題が無いように、
荷物の中に武器を忍ばせている。
━━━もうすぐだ・・・・・
エンデとやらを殺せば、金が手に入る・・・・・
拳を強く握りしめる。
平民街と貴族街を分けている門を潜り抜け、馬車は奥へと進む。
多くの貴族屋敷が立ち並ぶ一角を通り過ぎ、尚も、奥へと・・・・・
屋敷の数が減り、正面の高台に、一際大きな城のような屋敷が見えたところで、
馬車は、右へと曲がった。
その先に見える一軒の屋敷。
その屋敷が、今日の仕事場だ。
門の前で馬車を止めると、ドワーフのような男は、敷地に足を踏み入れる。
玄関まで行き、扉を叩くと、中から執事が現れた。
「どちらさまですか?」
「商業ギルドから来た。
馬房の修理と伺っている」
「そうですか、では、ご案内致しましょう」
執事のゴージアは、3人を馬房へと案内を始めた。
庭に出て、その広さに驚くウルグス。
広大な敷地。
その向こうに、宮殿のような建物まである。
━━━これが、貴族の屋敷か・・・・・
思わず、感心してしまう。
庭を横切り、屋敷の裏手に回ると、
ウルグスの住んでいる村の家屋よりも立派な馬房が見えて来た。
雨、風が防げるような造りになっており、
窓までついている。
ゴージアを先頭に、馬房に入ると、言い争う声が聞こえて来た。
「主、勝手に藁を持って行かないでくれ」
「いいじゃん、最近はここで寝ていないんだろ」
「そんなことはない!
稀に使っているぞ」
「見たことないよ」
「それは、主が見ていないだけで・・・・・」
馬房に入って来たゴージアは、『ゴホン!』と咳払いをした。
動きを止めるエンデとダバン。
「あ・・・・」
「若様、商業ギルドより、屋根の修理に参られております」
今迄、ゴージアは、エンデの事を『旦那様』と呼んでいたが、
この屋敷は、エンデの父親であるマリオンの屋敷の為、
エンデの事は『若様』と呼び方を変えていた。
手に持っていた藁を元の場所に戻すと、ダバンと一緒にゴージアのもとへ。
商業ギルドから来た3人の前に立つ。
「僕は、エンデ ヴァイス。
屋根の修理、宜しく頼むよ」
━━━エンデ ヴァイスだと・・・・・
ウルグスの顔色が変わる。
偶然にも、ウルグスの仕事先が、ターゲットの屋敷だった。
ドワーフのような男が、『それでは、始めます』と言い、
荷物を取り荷馬車へと戻ってゆく。
後を追う筋骨隆々な男。
遅れて追いかけるウルグス。
馬車に戻り、道具を取り出すと、さっさと行ってしまうドワーフのような男。
筋骨隆々な男も後に続く。
残ったのはウルグス。
荷物の中から、隠しておいた武器を取り出す。
━━━あいつは、屋敷の中だな・・・・・
ウルグスの武器は、巨大なバトルアックス。
一撃で、全てを破壊するといわれる神具だ。
肩に担ぐと、屋敷に向かって歩き出す。
狙うは、エンデ。
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