新たなる幕開け
アラーバの砂漠を覆っていた『黒い霧』が晴れる前に、ワァサたちは魔界に戻った。
この場に残っているのは、ルンとエンデたち。
それと、廃墟と化したサラーバの街。
人々のいなくなったこの街が、今後どうなるかは、エンデたちにはわからない。
サラーバの街を背に、アンドリウス王国軍の待つ、
砂漠の境界線へと向かうエンデたちの前に、天空より光の柱が現れ、道を塞ぐ。
光の中に何者かの姿が映し出された。
『貴様が、アガサを倒した者か・・・・・』
問いかけたのは、映し出された天使。
それは、ルンの知る者だった。
「あっ、マリスィ!」
光の中に現れたのは、天使族族長のマリスィ。
「精霊女王か・・・・・そういえば、お前もそこにいたんだな・・・・・・」
「失礼だよ。
どうせ、見ていたんでしょ」
「フッ・・・・・」
「それで、何の用なのよ?」
ルンの問いに、マリスィは、エンデへと視線を向けた。
「用事は貴様だ!
確か、エンデと言ったな・・・・・貴様は危険すぎる。
このままには捨て置けぬ・・・・・」
エンデは、何も答えず、マリスィを見ている。
代わりにルンが問いかけた。
「どうするっていうのさ?」
「決まっておる。
危険分子は、排除するしか無かろう・・・・・」
「どこが危険なんだよ!
今回の事だって、見ていたならわかっているでしょ。
あのまま放っておいたら、人間界が・・・・・」
遮るマリスィ。
「みなまで言わずとも理解している。
だがな、そ奴は危険だ、危険すぎるのだ!
悪魔でも無く、人でも無い。
それに・・・・・天使の羽まで持っているのだ。
よって・・・・・全力を以って排除する。
これは、確定事項なのだ」
エンデへと視線を戻すマリスィ。
「エンデとやら、残り少ない時を、精々楽しむがよい・・・・・」
マリスィの映像が消えると、光の柱も消滅した。
ため息を吐く、ルン。
「本当に天使は勝手だね。
それでエンデは、どうするの?」
「どうするも、なにも・・・・」
戸惑いを隠せない。
━━━どうすればって・・・・・
答えを出せず、悩むエンデ。
そんなエンデには、強い味方がいる。
エブリンだ。
「どうするも、何も、向かって来るなら倒すまでよ。
エンデは、私の大切な弟なのよ。
それを勝手に排除するなんてこと、許される筈が無いわ!」
シャーロットも同調する。
「そうね、私も力を貸すわ!」
2人は、しっかりと握手を交わし、頷き合う。
「主人は、愛されているのですね」
笑顔を見せるゴージア。
苦笑いをするエンデ。
『ハハハ・・・・』
マリスィの宣戦布告を受けたエンデたちは、
砂漠の境界で待機していたアンドリウス王国の兵たちと合流し、王都へと戻った。
それから数日後、全国の教会に、巫女を通じて神託が伝えられた。
『この世界の害悪となりうるエンデ ヴァイスを倒す為、勇者を起こせ』と。
それともう1つ、『召喚の儀を行え』というものだ。
『勇者を起こせ』とは、神(天使)に選ばれた『勇者』を探し出し、
教会に預けてある武器を授けよということだ。
『勇者』には『勇者の証』が刻まれているらしい。
神(天使)に選ばれた『勇者』には、人ならざる力が与えられていた。
その者に、神器ともいえる武器を授けることで、勇者の力は増大するのだ。
この神託を受け、各国の教会が一斉に動き出す。
神託から、選ばれた勇者は7人。
ある程度の場所は、巫女を通じてわかっているが、その先は、教会の手の者が探すしかない。
その間に、教会には為すべきことがある。
天使を召喚する為の巫女の選択だ。
今回の召喚は、各大国に、1人の召喚が義務付けられていた。
その為、魔力や能力の高い巫女の取り合いにまで発展している。
おかげで、巫女の選定に時間がかかり、召喚の儀まで至っていない。
中々、巫女が決まらない中、勇者の発掘は、上手くいっていた。
現在、教会が探し当てた人数は4人。
2人は【リチャード】と【ルドミラ】。
どちらも剣士で、魔法も使えるランクSの冒険者。
彼らは、パーティを組んで討伐を行っていた為、既に同行する仲間も決まっている。
それと後2人。
1人は、とある村で農業を行っていた者。
名は【ウルグス】。
ウルグスは、ある夜、夢の中で天啓を受ける。
『お前に力を授ける。
『勇者』となり、この世界を救え、
『勇者の証』として、紋章を刻む。
悪なる者、エンデ ヴァイスを倒すのだ』
翌日、ウルグスの胸には、『勇者の証』が刻まれていた。
それを見て、ウルグスは、自分が勇者となったことを自覚し、
教会の手の者が迎えに来るまで鍛錬に励んだ。
ウルグスが勇者になる理由は1つ。
この貧困に喘ぐ村を救う為。
『勇者』になれば、それ相応の対価が支払われる。
その対価が目的なのだ。
━━━この村に害を成すもの以外、どうでもいい。
だが、村を救えるのならば、俺は『勇者』になる。
その思いだけで、毎日の鍛錬に励んだ。
4人目は【スラート】。
某国のスラム街を根城にして、盗賊を纏めている頭だ。
流石に教会も一筋縄ではいかなかったのだが、
なんとか交渉のテーブルに着かせることに成功し、
『勇者』になってもらうための提案をする。
教会側の提案として挙げられたのは、『罪の削除』、『対価を支払う』。
この2つ。
だがスラートは納得しない。
「罪なんて、どうでもいい。
俺に言わせれば、箔がつくというものだ。
金にしても、今まで通り、奪えばいい」
その言葉に、激高する教会関係者の【リック】。
「貴様!
これ以上罪を重ねるつもりか!」
「落ち着けリック!
お前は、護衛として同行を許しただけであって、意見を述べる立場ではない。
理解が出来ないのであれば、この場から立ち去れ!」
リックを窘めたのは、責任者である【レビントン 】。
この国の教会を纏める重鎮。
レビントン に窘められ、落ち着きを取り戻すリック。
「スラート殿、申し訳ございません・・・・・」
「別に、構わないぜ」
謝罪を聞き、レビントンは、スラートに向き直る。
「スラート殿、申し訳なかった。
話を続けさせて頂いても宜しいか?」
「ああ、いいぜ」
「それでは・・・・・」
咳払いをした後、レビントンは、スラートに問いかける。
「貴殿の望みを聞こう」
「そうか、なら・・・・・」
スラートの要望は、『勇者になる対価』、『配下の者たちの無罪と仕事の斡旋』
『スラムの住居改築』。
「なっ!」
何か言おうとしたリックだったが、レビントンが睨むと、口を閉ざした。
「その要望を受けるのであれば、『勇者』になって頂けるのだな」
「ああ、約束するぜ」
「わかった」
レビントンは、この要望を叶えることを約束した。
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少し早いですが、書きあがったので、投稿します。
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