蹂躙
12歳の少年が立ち塞がる姿に、盗賊達から失笑が漏れる。
「僕は、なんのつもりかなぁ?
叔父ちゃん達は、後ろの荷物に用があるから、そこをどいてくれる?
それとも、死にたいの?」
ふざけた言い方に、仲間の盗賊達が笑う。
しかし、エンデの顔には、怒りも恐れもない。
「ここから先は、行かせないよ・・・・・」
「はぁ?
ガキが調子に乗ってんじゃねぇ!」
盗賊の一人が、エンデに接近する。
そして、エンデの胸倉を掴んだ瞬間、男は血を吐いた。
「ぐふっ!
おまえ・・・・」
盗賊の腹に突き刺さった剣。
その場に倒れこむ男。
その光景を、呆然と見つめる盗賊達。
「おい、あのガキ、なにしやがった・・・・・」
静まり返る中、エンデは、左手を前に差し出す。
そして、一気に放出される悪魔の力。
周囲の雰囲気が一気に変わり、気温が下がり、辺りが暗くなる。
「何だ?
何が起きているんだ・・・・・」
召還されていた山ネズミ達は、動物の感が働き、ここから一目散に、逃げようとした。
だが、エンデの方が早かった。
「従い、貫け、我が命に応えよ」
エンデの言葉に従い、木々が山ネズミ達を枝で貫く。
『ギャン!」
短い悲鳴と共に、絶命してゆく山ネズミ達。
盗賊達は、エンデが山ネズミに集中していると思い、
この隙にと、襲い掛かる為の合図を送り、一斉に足を踏み出す。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
途端に響く、叫び声。
ここは、山の中。
地中に伸びる木の根が、盗賊達の足の甲を貫いていた。
激痛の為、地面に転がる者達に、地中に伸びる木々の根が、襲い掛かる。
動くものに反応するかのように、暴れる者達を次々に貫く。
「ひぎぃぃぃぃぃぃ!」
「あがっあがっ・・・・」
喉を貫かれた者は、声も出ない。
その光景は、戦意を失わせるには十分だった。
「動いたら、同じことになるよ」
エンデから告げられた、恐怖の言葉。
一歩でも動けば、木々に貫かれ、横たわる屍が、明日の我が身。
そう思うと、動くことなど出来る筈もない。
先陣を切って襲って来た者達は、ボウリングのピンのように、立っている。
そこに、遅れてやってきた魔法士達。
「あいつらは、何をしているんだ?」
突っ立ったまま動かない仲間の姿に、首を傾げる。
立ち止まった魔法士達の間から、セルグードが姿を見せる。
「どうした?
まだ、終わっていないのか?」
ビーストテイマーのネウロに、話しかけると、
立ちすくむ仲間たちの方に向かって、指を差した。
その姿を捉えたエンデ。
「まだ、いたんだ」
久しぶりに、翼を開放する。
6枚の翼を操り、空へと舞い上がる。
後続の盗賊達を空から見下ろすエンデ。
今度は、右手を前に・・・・・
「光よ、かの者達に鉄槌を・・・・・」
右手を振り下ろすと同時に、上空からレーザービームのように、
光が、降り注ぐ。
一瞬、光った事に気付き、空を見上げた者達は、
声にする暇もなく眉間を貫かれ、絶命する。
だが、足や腕を貫かれた者達は、まだ生きていた。
その様子を見ながら、ゆっくりと空から降りてくるエンデ。
その背中には、見たこともない翼が生えている。
盗賊達は、何が起こったのか理解が出来ず、呆然と見ていた。
神、それとも悪魔?・・・・・・
そう捉えられてもおかしくない翼の持ち主が、
盗賊達と向き合うように、地に降り立った。
「覚悟、出来てる?」
うっすらと笑みを浮かべたエンデ。
「あああああ、悪魔だぁ!・・・・・」
踵を返し、逃げだす盗賊達。
しかし、何かに阻まれた。
「ここは、僕の結界の中だから、逃げれないよ」
『生き残るには、戦うしかない』
セルグードは、部下達に陣形を組むように指示を出す。
しかし、恐怖で足が竦み、思うように足が動かない盗賊達。
モタモタしていると、エンデが左手を前に・・・・・
そして、囁かれる言葉。
「従い、貫け、我が命に応えよ」
地中から伸びた木々の根が、一斉に襲い掛かった。
逃げ道を塞がれた結界の中で起こる虐殺。
暴れる程、木の根が襲い掛かる。
盗賊達が、屍になるまで、それ程時間は掛からなかった。
動く者がいなくなると、エンデは、結界を解いた。
再び空へと上がり、皆のもとに戻る。
戦いが終わった事に、気付いたのか、それとも隠れて見ていたのかわからないが、
エヴリンは、馬車の前で待っていた。
「お帰り、終わったようね」
「うん。
でも、あそこに生き残っている盗賊もいるよ」
エンデが示した方向には、突っ立ったままの盗賊達の姿がある。
『動けば死ぬ』その言葉に囚われ、じっと堪えているのだ。
「ねぇ、私が近づいても大丈夫?」
「平気」
「そう・・・・・」
エヴリンは、エンデを連れて盗賊に近づいた。
怯える盗賊達。
その目の前で、腕を組み、偉そうに告げる。
「私は、エヴリン ヴァイス。
子爵家の長女よ。
それで、貴方達に聞きたいことがあるの。
正直に答えれば、命だけは、助けてあげるわ」
盗賊達は、何度も頷いた。
「じゃぁ、まずはアジトね。
案内しなさい。
それと、喋っても大丈夫だから」
「『はぁ~』と大きく息を吐き、その場に倒れこむ盗賊達。
安堵の表情を見せる。
しかし、それを許さない者もいる。
エヴリンだ。
「さっさと案内しなさいよ!
でないと、うちの弟が・・・・・」
「は、はいっ!」
完全に虎の威を借る狐状態。
だが、エヴリンは、それでいいと思っている。
所謂『お姉ちゃん特権』なのだ。
エヴリンは、何処に行くにも、エンデを連れて回り、世話もする。
その代わり、言う事も聞かせる。
そんな関係で、仲良くやって来た。
だから、『お姉ちゃん特権』で命令されても、エンデは嫌な気がしない。
それよりも、姉であるエヴリンが悲しむ事の方が嫌なのだ。
だから、今回の命令にも素直に従う。
「エンデ、こいつら逃がさないでね」
「うん」
エヴリンは、幌の中に隠れているジョエルと娘達に伝える。
「もう、終わったわよ」
「えっ!
・・・・・そうですか」
驚きながらも、恐る恐る外を見るジョエル。
そこには、冒険者達と盗賊達の屍。
凄惨な景色だが、ジョエルも商人。
旅の最中に、何度も死体など見て来た。
だが、娘達には、刺激が強いと判断する。
「お前達は、ここで待っていなさい」
そう告げると、ジョエルは、1人だけ馬車を降り、
エヴリンと一緒に、エンデのもとに向かった。
盗賊を見張るエンデ。
2人が合流する。
目の前には、盗賊達の姿。
ロープで縛られている訳でもないのに、誰一人、逃げようとしない。
その不思議とも思える光景の中、ジョエルがエンデに話しかける。
「これは、エンデ様が・・・・・」
「うん、もう大丈夫だよ。
それより、この人達どうする?」
エンデが問うのは、冒険者達の屍。
ジョエルが調べるが、生きている者は、いなかった。
「王都に、運びましょう」
エンデ達の被害は、冒険者の7人。
ジョエルの従者達によって、荷馬車に積み込まれた。
再び、走り始めたエンデ達の乗る馬車。
エンデとエヴリンは、幌の上に座っている。
そして、アジトに案内するために、護衛のように馬車の周りを歩く盗賊達。
「さぁ、あんた達、しっかり案内しなさいよね!」
エヴリンに檄を飛ばされながら、盗賊達は、アジトへの道を進んだ。
不定期投稿ですが、宜しくお願い致します。




