王都に向けて
マリオン家から王都に向かうメンバーは、エンデ、エヴリンの他に、
メイドのエリアルとアラーナ。
それぞれ専属の従者だ。
出発当日、マリオンの屋敷の前に、4台の馬車が止まる。
先頭の馬車から降りて来たのは、ジョエルと2人の娘。
「エンデ様、エヴリン様、不束な娘達ですが、どうぞよろしくお願い致します」
ジョエルが代表して、挨拶を告げた後、
従者達の手によって、最後尾の馬車に荷物が運び込まれた。
エンデとエヴリンが両親に挨拶を終えた後、馬車は走り出した。
王都までは4日かかる。
その間は、冒険者達が護衛にあたる。
旅は順調に進み、初日の夜を迎えた。
エンデとエヴリンは、料理をしたことが無い。
いや、する必要が無かったのだ。
その為、他の者達が、テキパキと動く姿を眺めるしかなかった。
「ねぇ、いい機会だから、私達も教えてもらいましょうよ」
エヴリンは、エンデに、そう提案すると、返事も聞かずに立ち上がる。
「それじゃぁ、行くわよ」
まだ返事をしていないエンデの手を引き、料理を作っているメイド達のもとに向かう。
「エヴリン様、何かございましたでしょうか?」
問いかけてきたのは、アラーナ。
「私達に手伝える事って、何かない?」
日頃から、活発なエヴリン。
いつも、このような調子なので、アラーナは驚きもせずに答える。
「申し訳ありませんが、既に料理は出来上っておりますので、
他の仕事をお願い致します」
アラーナは、そう伝えた後、別の提案をする。
「そうですね・・・・・冒険者の方々と一緒に、薪拾いをお願いできますか?」
「わかったわ」
エヴリンは、エンデの手を握ったまま、山の中に駆け出して行った。
旅は何事もなく進み、2日目の野宿を終え、最後の野宿となる3日目を迎えていた。
最後の険しい山の中を進んでいると、人の声が聞こえて来た。
叫び声と笑い声。
エンデ達を護衛する冒険者達が、馬車を止める。
「ジョエル様、この先を見てきます。
暫く、お待ち下さい」
冒険者達リーダー【ドクス】の指示により、
斥侯の【デール】と【ヘドガー】が様子を見に向かった。
馬車は、残った冒険者達に守られている。
2台目の馬車に乗っているエンデ達4人。
「何かあったみたいね」
エブリンは、訝しげにエンデに話しかける。
「うん、盗賊・・・・・?
前の方で、誰か襲われているみたいだよ」
その言葉に『イラッ』とした。
「あんた、気が付いていたの?」
「う~ん、なんとなくかなぁ・・・・・」
「早く言いなさいよ!」
エヴリンは、そう言うと、先頭の馬車の前に陣取る冒険者達を見た。
━━これなら、大丈夫よね・・・・・
少し、不安そうな顔を見せるエヴリン。
その表情に、エンデが気付く。
「お姉ちゃん、僕、行ってこようか?」
エンデが立ち上がる。
「ダメ、あんたは、ここにいなさい。
冒険者の方々が、いるから大丈夫よ」
「うん・・・・わかった・・・・でも・・・・・」
腰を下ろすエンデ。
「何か言いたいことがあるの?
はっきり言いなさい!」
「うん、盗賊の数が多いから、大丈夫かなって・・・・・」
エヴリンは、驚きながらも、言葉を返す。
「だ、大丈夫よ!
きっと・・・・・」
そう言いながらも、不安気な表情をしていた。
その頃、斥侯に出ている二人は、声の聞こえる場所に辿り着き、
木の陰に隠れて様子を伺っていた。
デールとヘドガーの目に映るもの。
それは、豪華な馬車を襲う盗賊たちの姿。
馬車から、引きずり降ろされたと見える女性達の中に
ドレスを着ている者がいる。
「ありゃ、貴族だぜ・・・・・」
小声で呟くヘドガー。
「時間の問題みたいだが・・・・・」
彼女達に、逃げ道はない。
捕虜にされ、慰み者になる姿が見えている。
馬車の周りには、屍と化した護衛の兵士達の姿があった。
彼女達を守る兵士は、殆どいない。
「おい、どうするよ?」
盗賊たちの数は、ざっと数えて30人。
ジョエルの護衛の冒険者達の数は、7人。
そして、この場にいるのは、2人だけ。
「おい、一旦、戻ろうぜ」
「あ、ああ・・・・・」
助けることが出来ず、見殺しにするしかない。
強くこぶしを握り、来た道を引き返す。
しかし、デールとヘドガーは、監視されている事に、気付いていない。
盗賊の中には、ビーストテイマーがいた。
その男の召喚獣は、山ネズミ。
しかも、群れで召還していた。
山ネズミの仕事は見張り。
この場所を通る者達を監視する事。
その為、2人の行動はバレていた。
引き返す2人の後をつける山ネズミ。
そして、山ネズミは、ジョエルの馬車を発見し、
ビーストテイマーである【ネウロ】に伝えられる。
「頭、この先に、4台の馬車が待機しているようです」
ネウロの報告を受け、『ニヤリ』と笑う【セルグード】。
「おい、おめえら、喜べ!
今日は大漁だ!
この先にも、獲物がいるぞ!」
「おぉぉぉぉぉ!!!」
手の空いていた盗賊達は、先陣を切り、ジョエルの馬車に向かう。
そして・・・・・
盗賊達に、待機している4台の馬車が発見された。。
益々、声を張り上げながら、先陣の盗賊達が、馬車に襲い掛かろうと走る。
「盗賊だ!
来たぞ!」
斥侯からの報告を受け、念のためにと武器を携え、陣形を整えて、
馬車の前方で、待ち構えていた冒険者達。
「チッ、本当に来やがったぜ」
思わず舌打ちをするドクス。
盗賊達が、そのまま突撃するかと思っていた。
だが、盗賊達は、予想外の行動に出る。
そのまま突き進んで来るかと思われたが、足を止め、陣形を整えてから
前進してきた。
そして、その後ろから、魔法士たちが、冒険者達に向かって攻撃を開始した。
隊列の後ろから放たれる『ウインドカッター』。
先手を取られた冒険者達は、成す統べなく、風の刃に刻まれた。
「うぎゃぁぁぁぁぁ!」
「ぐはっ!」
4人の冒険者が倒される。
━━こいつら、戦い慣れていやがる。
それに・・・・・・
軍隊まがいの行動に、劣勢を強いられる。
ドクスは、覚悟を決める。
「馬車を逃がせ、その間は、何とか守って見せる」
囮となる覚悟を決め、仲間達を見た。
「わかっているさ」
「俺達のプライドに賭けて、馬車は守る!」
3人は、盗賊達の中に飛び込んだ。
襲撃を受けている事は、エヴリン達にもわかった。
そこに、駆け込むジョエルの従者。
「引き返して、お逃げください!」
「ジョエルさんたちは?」
「・・・・・・」
答えようとしない従者に、苛立ちをぶつけるエヴリン。
「はっきり言いなさい!
ジョエルさんたちは、逃げないの?」
「・・・・・はい、この場に残り、囮になるそうです・・・・・」
グッと息を飲む。
「そう、わかったわ」
「はい、ですので、旦那様の行為を、無駄にしないで下さい」
ジョエルの従者は、頭を下げた。
だが、エヴリンは、呆れた顔で従者に言い返す。
「なんで、私達が、貴方達を見捨てないといけないの?
そんなつもりは、無いし、殺させもしないわよ」
エヴリンの目は、エンデに向いていた。
「・・・・・」
なんとなく察する。
「わかっているわよね?」
「うん、でも人数が多いから・・・・・」
エンデの言いたい事がわかったエヴリンは、言葉を遮る。
「遠慮は、いらないわ、やっちゃって!」
「わかった」
エヴリンから、許可をもらったエンデは、立ち上がり馬車から降りる。
「ぼ、坊ちゃま、何をなさるのですか?」
慌てて声をかける従者に、エヴリンが答えた。
「ここから先の事は、忘れなさい。
いい?
他言無用。
記憶から消すのよ」
「はっはい!」
エヴリンが、ジョエルの従者を強引に説き伏せた頃、
冒険者達は倒されていた。
護衛がいなくなったと思う盗賊達。
再び、奇声ともとれる声を上げた。
しかし、盗賊達の前に、エンデが立ち塞がった。
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