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天魔の子(仮)  作者: タロさ
189/236

配下

『黒い塊』の中に入ると、霧がかかっていた。


「気を付けて、しっかり私の後をついてきてね」


ルンは、皆に声をかけると、迷いなく進み始める。

周囲を警戒しながら、後に続くエンデたち。


暫く進み、目が慣れてくると、少しだが足元が見えた。

薄っすら見える足元には、大地のようなものが見えるが、

その左右は、真っ黒で何も見えない。


━━━あっ、そうだここ・・・・・


エンデには、見覚えがあった。


『嘆きの沼』


今、エンデたちは、沼の真ん中を歩いているのだ。

周りからは呻き声のような声が聞こえてくるが、ルンは気にする素振りも見せない。


「あの時は気が付かなかったけど、『う~う~』五月蠅いところなんだね」


「いえ、私がいた時は、こんな事は無かったのですが・・・・・」


「そうなんだ。

 なら、今日は何で?」


「それは、エンデが来たからだよ」


突然振り向いて、声をかけるルン。


「僕のせい?」


「そうだよ、君はこの沼の主みたいなものだからね」


「僕が・・・・・」


「まぁ、正確には、君の父、魔王ベーゼが主だけどね」


ルンは続ける。


「ここは、ベーゼの領地の一部だったんだよ。

 だから、君の魔力に反応して、声を上げているんだ。

 魔王の帰還を歓迎しているんだよ」


「魔王の帰還って、僕は人族だよ」


「いやいや、君は気付いていないのかい?

 今の君の姿、完全に悪魔だよ」


「えっ!?」


エンデは、自身の手を見る。

人族の手と違い、爪は伸び、肌の色も変わっていた。


「これってもしかして・・・・・」


「主様の姿ですが、完全に悪魔です」


驚きもなく、淡々と告げるホルスト。


━━━ああ、またあの姿になったんだ・・・・・


セグスロードとの戦いで見せた、精悍な顔つきで、角を生やした成人の姿。

魔王ベーゼと瓜二つと言われたあの姿になっていたのだ。


「この地の瘴気にあてられたら、その姿になるのも当然の事よ」


ルンの言葉に『ウンウン』と頷くマム。


「そっかぁ、それなら」


「あ、主様!」


ホルストを抱きかかえると、エンデは翼を広げ、空へと上がる。


「これなら、道を外すこともないし、ルンの速さにもついていけるよ」


「・・・・・そうなんだけど」


何故か、浮かない表情のルン。


『やっちゃった・・・・・』と言わんばかりにマムも頭を抱えている。


「2人とも、どうしたの?」


「確かにそうだけど・・・・ただ・・・・・」


ルンは、地上に向かって指を差す。


エンデが翼を広げた為、エンデの魔力が『嘆きの沼』にばら撒かれた。

それは、魔王ベーゼと同じ魔力。


その魔力を強く感じ、

『嘆きの沼』で眠っていた配下の者たちが、主の生還を歓迎するために目を覚ます。


魂を亡くしていた者たちの中に隠れていたベーゼの配下たち。

次々に、沼から這い上がる。


「えっ!

 なにこれ?」


驚きを隠せないエンデ。

頭を抱えるマム。

『もう、知らない』といった素振りのルン。



そんな中、沼から這い上がった1人の悪魔が、エンデの前で膝をついた。


「ベーゼ様、ご帰還おめでとうございます」


「えっと・・・・あの・・・・・」


「あの時、他の魔王に牽制され、

 助けにも行けず、ただ見守ることしか出来なかったことをお許しください」


「その・・・・・」


「ですが、今後は、しっかりとお守り致しますので・・・・・」


「ちょっと、待っててばぁ!」


「は!?」


悪魔の言葉を、なんとか中断させることができたエンデ。


「あの・・・・水を差すようで悪いんだけど、僕は、ベーゼじゃないよ」


「えっ!?」


続々と這い上がっていた悪魔たちの動きが止まる。


視線がエンデに集まる。


「お言葉ですが、そのお姿と魔力は間違いなくベーゼ様のもの。

 執事をも務めたこの私が、間違えることなどありません!」


「そうかもしれないけど・・・・・」


エンデは、ルンに助けを求める。


『仕方がない』とばかりにエンデに近づくルン。


「久しぶりだね【ゴージア】」


「精霊女王様、ご無沙汰しております」


「うんうん、久しぶり。

 やはり、みんなここに隠れていたんだね」


「はい、隠れていたというより、この沼で、眠りについておりました。

 ですが、ベーゼ様の魔力を感じ、こうして、眠りから目覚めた次第でございます」


ゴージアとルンが話をしている間に、這い上がって来ていた悪魔たちは、

ゴージアの後ろに並び、ゴージアと同じように膝をついて待機している。


「全員が姿を消したと聞いたときは驚いたけど、ここまでするなんて・・・・・

 君たちの忠誠心には、頭が下がるよ。

 でもね、この子は、ベーゼではないんだ」


「ですが・・・・・」


「うん、言いたいことはわかるよ。

 でも、本当に違うんだよ。

 まぁ、全く関係ないわけではないんだけどね」


「それは、どういうことでしょうか?」


悪魔たちは、一斉に顔を上げ、ルンに視線を集中させる。


「彼の名は、エンデ。

 魔王ベーゼと天使ノワールの間に生まれた子さ」


「な、なんと!!」


『天使との間の子だと・・・・・』


膝をついて待機していた悪魔たちの間で、ざわめきが起きる。

流石に、悪魔と天使の間に出来た子だと聞けば、誰だって驚きもする。


しかし、ゴージアだけは違った。


「そうですか、やはりノワール様との間に、お子を儲けておられたのですね」


「あまり驚かないんだね」


「はい、私は存じておりましたので」


「そうなんだ。

 だったら、話は早いね」


「はい、エンデ様の白い翼の意味も理解することが出来ましたので」


「それで、この後、どうするんだい?

 歪な子として始末するか、それともこのまま見逃す?」


ゴージアは、首を横に振る。


「やはりエンデ様には、新たな魔王として、この地を治めて頂きます」


「は?」


「えっ?」


「この地に残って頂き、ご帰還を盛大に祝い、この地を治めて頂こうかと・・・・・」


「ちょっと待って、それ本気なの!!!」


「ええ、勿論です。

 ここにいる者の総意で御座います」


「他の魔王が黙っていると思うの?」


「いえ、それなりの騒ぎもあるでしょうが、今度は必ず、私どもがお守りして見せます」


━━━ああ、これ本気だわ・・・・・


ゴージアたちは、既にエンデを次期魔王として認めている。

このまま放っておけば、先に進むことは難しい。


だが、ルンも譲る気はない。


「今は無理よ。

 人間界に連れて帰る約束もあるし、この子の意見も聞いていないわ。

 あなたたちだって、無理強いするつもりは無いんでしょ」


「それは勿論。

 ですが、出来る限りの努力はさせていただきます」


「努力ねぇ・・・・・」


悪魔の努力なんて、碌な事ではないと思うルン。


ルンは、エンデに耳打ちをする。


「このままだと、あいつら引かないよ。

 それで、提案なんだけど、たまに顔を出すことは出来る?」


エンデなら『黒い塊』を出せば、いつでもここに来ることが出来る。

それがわかっているからこその提案。


「うん、せっかく目覚めたのに、このままだとなんか悪いし、たまにならいいよ」


「わかった」


ルンは、ゴージアに向き直る。


「人間界の事もあるし、色々とやることがあってさ、

 すぐには無理だけど、顔を出すくらいなら出来るって」


「今は、それで構いません。

 人の寿命は短いもの。

 その後でも、お戻りいただけるのであれば、

 私共は、お待ちしております」


「物分かりがよくて助かったよ。

 じゃぁ、そういう事で・・・・・・」


ルンたちは、動き始める。


しかし・・・・・


「お待ちを」


「ん?」


「どちらに向かわれるのでしょうか?」


「精霊界だよ」


「左様ですか・・・・・」


ゴージアは立ち上がる。


「ここは、悪魔のテリトリー。

 精霊の方たちだけでは、何かと不便でしょう。

 ですので、途中まで、私共がお守り致します」


ゴージアはルンの返事を待たず、合図を送ると、

悪魔たちが周りを囲み、隊列を組んだ。


「それでは参りましょう」


ゴージアを筆頭に蘇った悪魔たちは、精霊界との境界までの案内を始めた。



ブックマーク登録、有難う御座います。

不定期投稿ですが、宜しくお願い致します。

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