動向 動き出す者たち
グラウニーが寝込んでいる間にも話が進み、
起き上がった時には、既に話し合いは終わっていた。
「グラウニー、国に戻りますわよ」
話し合いが終わった事を知らないグラウニー。
「姫様、まだ役目を果たしておりません」
「何を言っているのかしら?
その件なら、私と旦那様の御連れの方々で終わらせましたわ」
「なっ!
なんと!!」
「さぁ、帰りますわよ」
サーシャが急ぐ理由。
それは、今ならダバンに送って貰えるからだ。
エンデたちが、暫くこの国に残ることになり、
それならば『サーシャを送ったら?』
とエンデが提案したのだ。
驚くダバンを放置し、
サーシャは大喜びでグラウニーを呼びに来た。
「早く、今すぐ、帰る準備をしますわよ」
「ですが、同行して来た者たちはどうされるのですか?」
「後で、ゆっくり帰ってくればいいわ。
旦那様がいれば、護衛も必要ありませんから」
確かに、ダバンがいれば護衛など必要ないように思える。
「わかりました。
では、急ぎ帰り支度を・・・・・」
「ええ、宜しくね」
上機嫌のサーシャは、グラウニーの部屋を出ると、
ダバンのいる中庭へと戻る。
サーシャが中庭に辿り着くと、そこには隠すことを止めた漆黒の肌のキングホースがいた。
人化している時は、褐色の肌のイケメンだったが、
馬の姿に変わると、漆黒の肌へと変わっていた。
しかも、以前よりも力を得たせいなのか、体も一回り大きくなっていた。
サーシャは、ただただ、呆然としていた。
言葉にできないダバンの美しさに見惚れているのだ。
気が付き、ゆっくりと近づくダバン。
『サーシャ、準備は出来たのか?』
馬に戻ったダバンの言葉が、脳裏に直接響く。
「・・・・・凄い。
エンデ様は、こうして話をしていたのですね」
「ああ、そうだが・・・・・
今は、どうでもいいだろ。
それより、準備は出来たのか?」
「えっ!
はい。
後は、グラウニーを待つだけです」
「そうか」
ダバンは膝をつき、休憩をするような姿勢を取る。
すると、サーシャは、ドレスが汚れる事も気に留めず、
ダバンに寄り添うように腰を下ろし、凭れ掛かる。
漆黒の肌を優しく撫でる。
知らぬ間に、二人だけの世界を醸し出しているダバンとサーシャ。
その様子を遠目に見ていたエブリンたちは、流石に雰囲気を壊そうとは思えず、
黙って見守っていたのだが、恋愛に疎いエンデは、気にも留めず、前へ進み出ようとした。
しかし・・・・・
「ちょっと!
待ちなさいよ!」
襟首を掴まれ、動きを止められた。
「お姉ちゃん、何するんだよ!」
睨みつけるエンデ。
「あなた、あの様子を見て、何とも思わないの?」
逆に睨みつけられ、たじろぐエンデ。
「もしかして・・・・・行ったら駄目なの?」
『ふぅ~』とため息を吐く。
「エンデ様は、もう少し、周囲に気を配った方が良さそうですね」
エブリンのため息に同調するように呟いたシャーロットの言葉に
エンデは、肩を落とした。
「僕だって・・・・・」
いじけた素振りを見せるエンデの頭を、エブリンは優しく撫でる。
「まぁ、これから学べばいいのよ。
それに、エンデに恋愛は・・・・・・まだ早いわ!」
「お姉ちゃん・・・・・」
結局、エンデに甘いエブリンだった。
その後、何事も無く時間は過ぎ、
ダバンは、サーシャとグラウニーを背に乗せ
アンドリウス王国へと旅立った。
ゴンドリア帝国に残ったエンデたち。
彼らには仕事がある。
「僕たちも、始めよう」
「ええそうね、
ホルスト、指示をお願いね」
「はい、お任せください」
エンデたちが残った理由。
それは、この国の建て直しの為である。
勿論指導者は、エンデではなく、シャーロットとエブリン。
力は無くとも、知力に長けているエブリンとシャーロットの見せ場である。
その頃、天界でも動きがあった。
それは、精霊界から起こった。
過去にも天使族や悪魔族と、いい意味でも、悪い意味でも仲の良い精霊はいた。
今回は、悪い方。
闇精霊の『アビズ』は、精霊界から抜け出し、
魔族の領域にあるアガサの屋敷にいた。
何度も抜け出し、訪れている為、不自由はない。
何時ものように、アガサの使用人に入れてもらった紅茶に口をつけていたのだが、
突然、怪しい笑みを浮かべて、アガサに話しかける。
「爺ちゃん、いい事教えてあげるよ」
「いい事じゃと?」
「うん、今ね、地上界に悪魔が出現しているみたいなんだ」
眉唾とも思える話だが、『悪魔が出現』と聞けば見過ごす訳にはいかない。
真意を確かめる為に、話に乗る。
「それは、本当に悪魔なのか?
お主も知っておるだろうが、儂ら悪魔族や天使族は、この身で地上界には降りることは出来ぬ。
それを知っておるお主は、本当に、そ奴が悪魔だと思うのか?」
「う~ん・・・・・
わからない。
でも、女王様も精霊回廊まで創って、地上界に降りたんだよ。
だから、僕は、本物かも知れないなって・・・・・」
━━━ルンまでもが、この一件に関わっておるのか・・・・・・
精霊女王、自らが出向いたとなれば、あながち嘘とは思えないが
地上界に降りて、確かめる術がない。
そう思ったのだが、アガサは、先程のアビズの言葉を思い出した。
━━━ルンの奴が『精霊回廊』を創ったと言っておったな・・・・・・
精霊の体を奪い、精霊回廊を通り抜ければ、力を温存したまま地上界に赴くことが出来る。
思わず、ニヤけそうになるアガサは、グッと堪えて席を立つ。
そして、徐に奥の戸棚の前に進み、引き出しを開けると、
中から、深紅に輝く宝石を取り出した。
それを手に持ったままアビズの元へと戻ったアガサ。
「アビズよ、お前に頼みがあるのだが・・・・・」
「ん?
なに?」
「今回の事だが、もう少し詳しく聞きたくてな。
それでだが・・・・・」
深紅に輝く宝石をテーブルの上に置く。
「うわぁ~」
アビズは、深紅に輝く宝石に目を奪われている。
「もし、仲間を呼んで、詳しく話を聞かせてもらえるのなら、
これをお前にやろう」
思わず、顔を上げるアビズ。
「ほ、本当に、これをくれるの?」
「ああ、嘘は言わん。
だが、出来るだけ多くの者たちから話が聞きたいが、出来るか?」
「うん、任せてよ!
こう見えても、僕は友達が多いんだよ!」
「そうか、そうか、それでは任せたぞ」
笑いを堪えて、笑みを浮かべるアガサ。
アガサの思惑など知る由もなく、
アビズは、深紅の宝石を万能袋に収納すると、
アガサの気が変わらないうちにと、そそくさと退散した。
アビズがいなくなると、執事の役割を果たしている『モス』を呼びつける。
「旦那様、お呼びでしょうか?」
「ああ、ちと、面白い事になってな」
アガサは、モスに事の成り行きを話し、『部下を集めるように』と指示を出した。
それから数日後、アガサの屋敷には、アビズが連れて来た
闇属性の精霊たちが集まっていた。
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