魔王ベーゼと天使ノワール
その後、城で我がまま三昧を繰り返していたルンたちだったが、
エンデたちが到着したと聞き、出迎えに向う。
王都の出入り口に到着すると、兵士がホルストに近づく。
「ホルスト様、皆さまには、待機所でお待ち頂いております」
「わかった」
待機所の中には、いつものメンバー。
「御無沙汰しております、主、エンデ様」
「うん、久しぶり。
それより、なんか、増えたみたいだね」
「ええ・・・・・」
ホルストの周りを飛び回る精霊たち。
しかし、ルンだけは違っていた。
ホルストの背後から、エンデを見つめている。
━━━やっぱり、この子・・・・・・
ルンは、懐かしさを感じていた。
だが、何も知らないエンデは後退る。
「あの、僕に何か用かな?」
「ええ、勿論よ。
私はルン。
これから貴方と共にある者よ」
「???
あの・・・・・お断りします」
「は?」
「えと・・・・お断りしていいかな?」
「貴方、何を言っているの?」
ルンは、精霊女王。
今迄、断られることなど無かった為、状況が理解できない。
「いい、この私が仲間になってあげると言っているのよ。
感謝することがあっても、無下にすることなど無い筈だわ」
ルンの不機嫌さが周囲に伝わると、
今までホルストの周りを楽しく飛び回っていた精霊たちに緊張が走った。
「ルン様・・・・・」
「誰か、何とかしてよ」
精霊たちは集まって相談を始めたのだが、その声は駄々洩れ。
「貴方たち、全て聞こえているわよ!」
『ヒィ!!!』
ホルストの陰に隠れる精霊たち。
ルンは、『はぁ~』とため息を吐くと
エンデの前に飛び出し、鼻先で止まる。
「貴方に、いいものをあげる」
両手でそっと、エンデの額に触れるルン。
「何?」
「いいから、目を閉じて・・・・・」
ルンに戦う意思が見えなかった為、エンデは黙って従った。
ルンの両手から、光が放たれる。
それは、淡く優しい光。
光は、エンデの頭の中に吸い込まれ始めた・・・・・
エンデの脳裏にルンが見て来たものが再生される。
それは、魔王ベーゼと天使ノワールの物語。
いつもの待ち合わせ場所で落ち合った魔王ベーゼと天使ノワール。
「ベーゼ、私、子供が出来たみたいなの」
その言葉に、魔王ベーゼは喜んだ。
しかし・・・・・
この事が他の天使たちに伝わり、ノワールは牢獄へと捉えられた。
その事を知ったベーゼは『インビシブルマント』を使って天使族の領域に足を踏み入れる。
『インビシブルマント』のお陰で
ノワールを助け出す事に成功したのだが、
小石に躓き、音を立ててしまう。
「誰だ!」
警笛を鳴らされ、天使たちが集まる。
逃げ道がない。
「ノワール、お前だけ先に行け!」
「ベーゼ!」
「大丈夫だ。
いつもの場所で、落ち合おう」
魔王ベーゼは、『インビシブルマント』をノワールだけに被せると
天使たちに突撃する。
「魔王だ!
魔王ベーゼだ!」
天使たちの視線が、ベーゼに集中する。
その隙を突き、ノワールは、見事に逃げ切った。
だが、1人残った魔王ベーゼは、大勢の天使たちを相手にすることとなる。
「逃がすな!
今ここで、魔王ベーゼを盗伐する!」
逃げ道を塞ぎ、連携で迫る天使たち。
耐え凌ぐ魔王。
魔王ベーゼは、魔法を発動した。
『アースクエイク』
大地を割り、奈落の底へと天使たちを誘う。
しかし、翼を持たない天使たちを屠るだけに留まった。
「もらったぁぁぁぁぁ!!!」
襲いかかるバルキリー。
「しつこい奴らめ・・・・・」
魔王ベーゼは笑う。
指を千切り、血を滴らせると強力な魔法を発動する。
『フレイムバスター』
魔王ベーゼの血が黒い炎と化し、バルキリーたちを焼き払う。
「お、おのれ・・・・魔王」
天使たちは、魔法を封じにかかった。
『アンチマジックシールド』
放っていた魔法が消えると同時に、
ベーゼの体に変化が起きる。
「魔力が・・・・・」
魔法が使えなくなったベーゼ。
同時に体力も落ちる。
しかし、連携を崩された天使たちにも隙が出来ていた。
━━━今なら・・・・・
その場から脱出を試みる魔王ベーゼ。
だが、背中を見せた途端、光が突き刺さった。
『グハッ!』
それは、天使族長マリスィが投げた三又の槍。
その威力に押され、膝をつきそうになるが、
必死に耐えて、脱出する為、懸命に走る。
━━━ノワールを1人にしてはおけぬ・・・・・
天使族の領域を抜け、精霊界へと辿り着いた魔王ベーゼ。
「ここまで来れば・・・・・」
安堵すると同時に、意識を手放し、その場に倒れた。
そこに押しかけて来た天使たち。
「魔王ベーゼ、ここが貴様の墓場だ」
振り上げられる剣。
しかし、その剣を振り下ろす前に、声が掛けられた。
「待った待った!
ここは、精霊族の縄張り、中立地帯だよ」
剣を止めた天使が振り返ると、そこには精霊女王ルン御付きの精霊がいた。
「もし、ここでその剣を振り下ろすなら、今度は僕たちが相手になるよ」
精霊の言葉に、動きが止まる天使たちだが、
このまま引き下がるつもりはない。
「確かにここは中立地帯。
この場で剣を振るのはやめよう。
魔王は、私たちが連れて行く」
意識を失っている魔王に近づく天使たち。
しかし、草花が魔王ベーゼを包み、その身を隠す。
「なっ!」
精霊を睨む天使たち。
そこに姿を見せる精霊女王ルン。
「この地に辿り着いた者を、引き渡す訳にはいきません。
このまま引きなさい」
「な、なにを言うのだ。
さっさと魔王を引き渡せ!」
反抗する天使たち。
だが、精霊女王ルンは引かない。
「私たちと戦うつもりですか・・・・・」
持っていた杖を振るうと、次々に『森の守護者』と言われる大男が姿を見せる。
その数は、徐々に増え始め、あっという間に天使たちを取り囲んだ。
「さぁ、どうしますか?
戦いを挑むというのなら、容赦は致しません」
ルンに睨まれれた天使たちは後退る。
「クッ・・・・・ここは引くぞ」
天使たちが精霊界から去ると、
ルンは、魔王ベーゼを元に戻した。
そして、『後は任せます』とだけ伝えて姿を消した。
その場に残った精霊は、魔王ベーゼに『回復の実』を与える。
「本当に・・・・・ルン様を悲しませないでよね」
そう言うと『フンッ!』と背中を向けて、その場から立ち去った。
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