顛末
エンデが慣れない生活を始めて2日後、再び領主の館に集まった3人。
領主、ファーガス ゲイルド。
マリオン ヴァイス子爵。
そして、顔色の優れない、仲裁委員のビートル ガンマ。
ガンマの顔色の優れない理由。
それは、ヴァイス家に、子供を攫いに行かせた冒険者達が、
誰一人帰って来なかったからだ。
━━クソッ、どうなっているんだ・・・・・・
チラッとマリオンを見るが、変わった様子は窺えない。
時間となり、先日の続きから、話が始まる。
「それで、私に任せて頂けないという事でしたね」
平静を装うビートル。
マリオンが口を開く。
「やはり、認める訳には、いきません・・・・・」
ビートルが、マリオンの方に目を向けると、マリオンもビートルを見ていた。
「何か、気になることでも?」
睨みつけてくるマリオン。
それは、当然の態度。
マッシュが殺され、今度は、エンデとエヴリンがが狙われたのだ。
心中穏やかでは、いられない。
ビートルは、その様子から、仲間が捕まった事を確信した。
━━不味いぞ、このままでは・・・・・
2度の襲撃に失敗し、そのどちらもヴァイス家に防がれたのだ。
ある程度の情報は、掴まれている。
そう考えると、気が気ではない。
額から、どっと汗が流れ出す。
「どうしたのですか?
顔色が、悪いですよ」
ビートルは、この場から逃げることを優先する。
「どうやら、体調が優れない様なので、帰らせてもらう」
そう言うと、椅子から立ち上がる。
「まぁ、まぁ、お待ちください。
私が良い薬を知っているので、お持ちしますよ。
ですが、その前に、病の原因を突き止めなければ、なりませんね」
マリオンは合図を送る。
すると、扉が開き、そこには、縛られた冒険者達の姿があった。
「病の原因は、これですかな?」
問いかけらえれたビートル。
冒険者達を、睨みつける。
━━失敗しやがって・・・・・・
ファーガスが口を開き、ビートルに問う。
「こ奴らを、知っているようだな」
「はぁ!?
なぜ私が、こんな平民を知っていると思うのだ?
私は、知らん。
こんな奴ら見たこともない」
あっさりと、自身の子飼いの冒険者達を切り捨てた。
━━ふんっ!
奴らの代わりなど、いくらでもいる。
それよりも、早くこの場から立ち去らねば・・・・・・
「もう良いな、私は体調が優れぬ、
今日は、帰らせてもらう」
踵を返し、部屋から出て行こうとするビートル。
その前に、兵士が立ち塞がった。
「貴様ら、どういうつもりだ!
そこをどけ!」
兵士を押し退け、その場から逃げようとするが、
そのまま兵士達に取り押さえられる。
「な、なにをする!
貴様ら、この私が誰かわかっているのか!」
暴れるビートル。
だが、体の上に乗られ、身動きが取れなくなった。
そこに近づく2人。
「彼らが、全て話してくれたよ」
そう告げるマリオンを睨みながら、しらを切るビートル。
「私は、知らん。
知らんと言っているだろう!」
ファーガスが、怒った声で話しかける。
「貴様、自分が何をしたかわかっているのか?
貴様の仕出かした事は、重罪なんだぞ!」
「だから、私は・・・・・」
あくまでも、しらを切り通そうとするビートルだったが、
マリオンが告げた。
「ヘルガ・・・・・だったな」
その名前を聞き、ビートルの動きが止まる。
マリオンは続けた。
「あいつも頑張ったが、最後には、全て吐いたぞ。
貴様が王都で仕出かした事も、含めてな」
逃げ道を失ったビートルは、項垂れた。
「クッ・・・・・」
ファーガスの命令で、ビートルも地下の牢獄に連行される。
翌日から、尋問が行われ、ビートルにとっての地獄が始まった。
尋問を始めた当初は、『自分は、無罪』とか『家からの命令だった』、
『逆らえなかった』とか言い訳を繰り返していたビートルだったが
痺れを切らしたファーガスが、尋問から拷問に切り替えたことで、
大人しく自供するようになった。
ビートル ガンマ。
ガンマ子爵家の次男。
実家の子爵家は、長男のハウロ ガンマが継ぐ為、
ビートルに、居場所はない。
だが、『分家』として『男爵』の地位を与えてもらうことが出来る。
しかし、爵位を与えられるだけある。
その為、王都で役所に勤めながら、
荒くれ者の冒険者を使って、小銭稼ぎを繰り返していた。
そんな日々の中で、ビートルの耳に入った、魅力的に思える事件。
ゲイルドの街に住む叔父。
カーター レイトン子爵逮捕。
貴族を裁くためには、王都への連絡が不可欠。
その為、役所で働くビートルの耳には、早い段階で届いた。
ビートルは、直ぐに行動に移し、
賄賂と脅迫で、書類を書き換えて報告したのだ。
その結果、ゲイルドの街に向かうのは、法で罪人を裁く執行官ではなくなり、
あくまでも、揉め事が大事になった時に送る仲裁委員に成り代わったのだ。
ビートルの狙い。
カーター レイトン子爵家には、後を継ぐ男性がいない。
基本、後継者は、男性と決まっている為、娘しかいないレイトン家は、
何処からか、婿養子をもらわなければ、子爵の地位を返還することになる。
だから、今回の事件をビートルが解決し、
叔父であるカーター レイトンに恩を売り、
自身が、子爵家の跡取りになろうと計画した。
だが、その計画は崩れ去り、
最終的に全てを自供することになったビートル。
マリオン家の跡取りを殺したカーター レイトンの事件から
王都のガンマ子爵家を巻き込む事態にまで発展し、
一領主の判断出来ないところまで来ていた。
マリオン家のマッシュ殺害事件に、やっと解決の目途が見えたが
領主としては、頭の痛くなる課題を多く残すことになった。
しかし、事態が好転する。
ガンマ子爵家が、どんな手を使ったかは知らないが、
ビートル ガンマとは、半年前に親子の縁を切り、
ガンマ子爵家とは、一切関係のない人間だと、証書と共に手紙を添えて
ファーガス ゲイルドの所に、送って来のだ。
これにより、貴族でもない平民を裁く事に、国に伺いを立てる必要が無くなり、
残る問題は、カーターだけになった。
だが、その事も解決する。
ファーガスのもとに、この手紙を持ってきたのは、
新たに派遣されて来た執行官【クリス アダムス伯爵】なのである。
クリスは、領地をもつ貴族だが、
今回の不始末を重く受け止めた王都からの命を受け、この地に赴いた。
クリスは、連れて来た部下と共に、
もう一度、カーターの起こした事件からの書類を読み直し、適切に処分を下した。
子爵家であったカーター レイトンは、爵位はく奪、財産は国が没収、死刑。
他貴族の跡取りを殺したことへの罪は重い。
しかし、貴族の地位は失ったが、家族にまで罪が及ばなかったことには、
カーターは、感謝すべき事だろう。
執行官が滞在して、6日後・・・・・・
町の広場にて刑が執行され、この日を以って、カーター レイトン子爵家は、
この世から抹消された。
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