貴族の思惑 狩り
アイゼンが監視を増やして、数日が経った。
その日も、いつもと同じように監視を行っていた。
そして、日が沈み、夜の帳が降りた頃、監視を任されていた者たちが帰路につく。
3人の男たちは、暗闇の中を歩く。
「これ、何時まで続けるんだ?」
「さぁな、貴族様の考えることなんて、分かんねぇよ」
毎日毎日、ただ監視を行うだけの日々に辟易していた男たちが愚痴をこぼす。
「本当に、ガキの監視なんて面白くもなんともねえな」
雇われで、監視を行っている者たちは、アイゼンの部下から伝えられたエンデたちの脅威を、
既に忘れ去っていた。
周りに気を配ることもなく、『ダラダラ』歩いている。
「おい、誰か報告に行って来いよ」
「・・・・・」
返事がない。
━━━こんな所で、ふざけやがって・・・・・
「おい・・・・・」
もう一度、声をかけて男が振り向くと、そこに仲間の姿はあった。
しかし、男たちは、崩れ去るように地面に倒れた。
「おい!」
慌てて近づこうとしたが、倒れた仲間の後ろに、人影が見え、足が止まる。
腰に携えている剣に手をかけた。
「何者だ!?」
雲の切れ間から月明かりに照らされ、男の姿がはっきりとわかった。
「お前は、あのガキの!」
「監視していただけに、覚えていましたか。
私は、マリウル。
少しだけお付き合い下さい」
マリウルの剣からは、血が滴り落ちていた。
「このっ!」
男が、マリウルに襲い掛かる。
マリウルは、余裕をもって剣を躱した。
そして、静寂をかき消すかのような叫び声を上げ、男の命は尽きた。
同時刻、他の場所で見張りをしていた監視者たちは、
その叫び声を聞き、辺りを見渡す。
「今のは、なんだ?」
「わからん」
「誰か、見て来いよ」
この場所で監視をしているのは3人。
様子を見に行くという任務の擦り付け合いをしている。
そして、くじ引きで負けた男【ラコル】が見に行くことになり、
隠れていた岩の隙間から飛び出した。
「お前ら、何処にも行くなよ。
直ぐに帰って来るからよ」
ラコルは踵を返し、歩き出す。
「気を付けて行って来いよ~」
気の抜けた仲間の声に応えるように、片手を上げた。
次の瞬間、『バフッ!』という音と共に、ラコルの姿が消える。
「えっ!」
目の前で起こった出来事だが、何が起きたのか理解できない。
「ラコル・・・・・」
仲間の呼びかけにも、ラコルからの返事は無い。
「何が起きたんだ?
ラコルは、何処に?」
2人が顔を見合わせていると、笑い声が聞こえてきた。
そして、アンデットオオトカゲと共に、ガリウスが現れる。
「ハハハ・・・・やっぱり、お前は凄ぇな。
人間を丸飲みだぜ」
背中に乗っているガリウスは、褒め称えるように『ペシペシ』叩いた。
『グルルルルル・・・・・』
アンデットオオトカゲも満更でもない様子。
「な、なんだこの化け物は・・・・・」
思わず後退る男たち。
作戦を決行するにあたり、ガリウスはエンデに
『アンデットオオトカゲを貸してくれ』と頼み込んでいた。
ここは人里から離れた一軒家、周りにあるのは、自然の大岩や木。
アンデットオオトカゲを開放しても問題ないと判断して、エンデは貸し与えたのだ。
家の裏手で、アンデットオオトカゲを開放すると、
ガリウスは背中に飛び乗る。
「相棒、頼んだぜ」
声をかけられたアンデットオオトカゲは、舌を『ニュル』と出した後、動き始める。
「じゃぁ、行って来るぜ」
そう言ってガリウスとアンデットオオトカゲは、暗闇に消えた。
そして今、監視者の前に現れ、1人を丸飲みにしたのだ。
「おい、お前ら、誰の命令かは知らんが、人の家を覗くとは、いい趣味とは言えねぇな」
アンデットオオトカゲから飛び降りるガリウス。
「貴様、ラコルを何処にやった!?」
「ああ、あいつならこの中だ」
ガリウスが指したのは、アンデットオオトカゲの腹。
「貴様・・・・・」
男たちは臨戦態勢を取り、剣を抜く。
すると、ガリウスの背後からアンデットオオトカゲが素早く舌を伸ばした。
その舌は、剣と腕に絡みつき、男の動きを止め、地面を引きずる。
「は、放せ!」
必死に抵抗するが、無駄な足搔き。
引きずられた男は、身動きの取れないまま、ガリウスの前に連れて来られた。
「これ・・・・止めを刺せってことか?」
ガリウスの言葉に『グルルル』と反応するアンデットオオトカゲ。
剣を抜いたガリウスは、心臓を一突きにして命を奪う。
命を奪われ、息絶えた男は、そのままアンデットオオトカゲの餌となった。
一連の流れに、抵抗の無意味さを知った。
唯一、生き残った男は、剣を放り投げて降参する。
「ま、待ってくれ。
俺は、雇われただけなんだ。
た、頼む。
見逃してくれ」
地に頭を付け、土下座で許しを請う。
「見逃すことは出来ない。
俺たちの任務は、抹殺だ」
「そ、そんな・・・・・」
愕然とする男。
「でもまぁ、知っていることを全て話すなら、考えなくもねぇけどな」
男に残された唯一の生き残る道。
縋るように懇願する。
「話す。
なんでも聞いてくれ」
思わず笑みが零れるガリウス。
「じゃぁ、場所を変えようか」
ガリウスは、男を身動き出来ないように縛り上げると、
アンデットオオトカゲの背中に放り投げた。
「帰るぜ」
ガリウスの言葉に、出発の時と同じ様に、舌を『ニュル』と出した後、
アンデットオオトカゲは動き始めた。
不定期投稿ですが、宜しくお願い致します。
メリークリスマス・・・・・




