ゴンドリア帝国再び ホルストの力
ゴンドリア帝国領に足を踏み入れてから、王都に向かう道を歩いているが、
未だ盗賊たちの気配は無い。
エンデたちは商人の格好をし、兵士たちは、護衛の依頼を受けた冒険者を装っている。
ただ、普通よりも大人数での行動なので、普段なら怪しまれるところだが、
今のこの国の状況を考えれば、別段おかしいとは思えなかった。
冒険者に扮した多くの兵士たちに囲まれながら、王都への道を進む。
エンデたちは馬車の中。
のんびりと雑談をしながら待機していると、
シャーロットの膝の上で休んでいたシェイクが、首を持ち上げ、幌の外を伺う素振りを見せる。
同時に、メルクも低く唸り声をあげた。
「来たみたいね」
「ええ」
「お前たちは此処にいろ、様子を見てくる」
ガリウスは立ち上がり、馬車から飛び降りる。
外に出ると、甘い香りが漂っていた。
慌てて、口元を隠すガリウス。
「くっ!
これは・・・・・」
━━━これは、何の匂いだ・・・・・・
そう思った瞬間、体の力が抜ける感じと同時に、睡魔が襲う。
「眠り薬・・・・・か・・・・」
ガリウスが馬車の方に振り返ると、幌を開け、顔を覗かせるマリウルの姿があった。
「兄貴、来るな!
眠り薬だ!!!」
その言葉を最後に、ガリウスは、兵士たちと同じように地面に倒れ込んだ。
「ガリウス!」
叫び声を上げると、甘い香りが鼻を衝く。
「くっ!」
慌てて、口元を抑え、幌を閉めた。
「どうしたの?」
エンデの質問に、マリウルが答える。
「外には、眠り薬が充満している。
今出れば、敵の餌食になるぞ」
マリウルの忠告に、ホルストが立ち上がる。
「今なら、盗賊に会えるのですね」
「確かにその通りだが、眠り薬が・・・・・」
「大丈夫です。
私は、アンデットですから」
ホルストは、そう言い残し、馬車から飛び降りた。
すると、その後を追うように、シェイクとメルクも馬車から飛び降りる。
ホルストが、馬車の外で見た光景。
それは、眠りにつかされた兵士たちが、
鎧を着た5人の騎士たちに、心臓を一突きにされている光景だった。
「貴様ら・・・・・教会騎士だな」
ホルストには、見慣れた鎧。
『これで、話が繋がった』
そう思いながら、剣を抜く。
「眠らせた兵士を狙うなど、騎士の風上におけぬ愚行。
万死に値する」
その叫びにも似た声に、殺戮を繰り返していた騎士たちの手が止まった。
「生き残りがいたのか・・・・・」
5人の教会騎士は、兵士を突き刺していた剣を抜き、ホルストと対峙する。
「女がたった一人で、俺たちの相手をするのか?」
薄ら笑みを浮かべる教会騎士。
「出来れば、こんな所ではなく、静かな所で相手をして欲しいものだ」
その言葉に、大声で笑いだす教会騎士たち。
「・・・・・」
無言で、睨みつけるホルスト。
「怖くなったか?
素直に従えば、悪いようには、しない。
大人しく捕まれ」
教会騎士の1人、【オクト】は、ホルストに近寄ろうと進み出る。
そして、嫌な笑みを浮かべながら、左手を伸ばした。
ホルストは、伸ばされた手を弾き飛ばすと、
そのまま剣を抜き、オクトの首を体から切り離した。
「え!?」
悲鳴を上げる暇もなく、命を絶たれたオクト。
その光景を助ける暇もなく、ただ、呆然と見ているしかなかった教会騎士。
しばしの静寂の後、我に返る教会騎士は、怒りを露にする。
「貴様・・・・・生きては返さん!」
3人の教会騎士が剣を構え、ホルストを取り囲みにかかる。
だが・・・・・・
『ガウッ!』
気配を消して近づいたシェイクとメルク。
背後から、ホルストに気を取られていた教会騎士の首元に嚙みつく。
彼らもアンデット。
並の牙ではない。
2頭の牙は、首の骨を砕き、教会騎士を絶命させた。
「おい・・・・・」
ホルストの前に、一人残された教会騎士の手が震える。
「俺たちが、こんなあっさりと・・・・・」
これが、この教会騎士の最後の言葉となる。
間合いを詰められ、一気に片を付けたホルスト。
「あと1人・・・・・」
仲間たちが殺される様を見ても、動くこともなく、ただ見ているだけだった男【ケルマン】。
「流石、ホルスト魔法士隊長。
ですが、おかしいですね。
貴方は、一度も魔法を使っていない・・・・・
いや、この『甘い誘惑』の眠りを妨げることに使っていますか・・・・・」
「私を知っているようですね。
だが、私は魔法士隊長ではない」
「・・・・・まぁ、どっちでも構いませんよ。
貴方と相対せたことを、神に感謝致しましょう」
ケルマンが指輪を外すと、膨大な魔力が解き放たれる。
「久しぶりです。
この感覚・・・・・」
両手を広げ、大きなジェスチャーで、感慨にふけるケルマン。
「さぁ、始めましょうか」
ケルマンに、シェイクとメルクが襲い掛かる。
だが、魔法の障壁に阻まれ、ケルマンに辿り着けなかった。
「邪魔をしないでくれますか?」
『プリズン』
シェイクとメルクを魔法の檻に閉じ込めた。
『ガウッ!』
『ガウッ!』
檻の中で暴れる2頭。
だが、その檻を破ることは出来なかった。
「ククク・・・・・
これで、気兼ねなくなく戦えます・・・・」
ケルマンとホルストは、お互いに一定の距離を置き、相対する。
先に仕掛けたのは、ホルスト。
『ファイヤーアロー』
無数の矢が、ケルマンに襲い掛かる。
だが、ケルマンは、微動だにせず、笑う。
『ファイヤーアロー』は、突如現れた水の壁に阻まれた。
「あれっ弱い?
弱いですね・・・・・これが、貴方の力ですか?」
ホルストは、エンデとの戦いで精霊を失っている。
その為、以前のような力は出せなくなっていた。
「この程度なら、恐れることはありませんね、終わらせましょう」
『ホーリーアーク』
ホルストの頭上に、現れる光の聖櫃。
「この中で、永遠の眠りにつきなさい」
光りの聖櫃の蓋が開き、ホルストを吸い込む。
抵抗するホルストだが、その力は凄まじく、『ズルズル』と後退りを始めた。
━━━このままでは・・・・・
私に力があれば・・・・・みんな・・・・・・
ホルストは、失われた精霊を思い浮かべた。
その途端、吸い込む力を阻むように、土の壁が現れた。
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