アンドリウス王国へ
兵士の案内で、ホルストを待たせている部屋に向かう。
「こちらです」
案内された部屋の前に立つマリウルとガリウス。
軽く扉を叩いてから、相手の反応を待たずに開けた。
すると・・・・・・
そこには、村娘の格好から、普段の衣装に着替えようとしていたホルストの姿。
「・・・・・・」
「・・・・・」
お互いに、見合ったまま固まる。
その呪縛から、先にホルストが解けた。
「申し訳ないが、閉めて頂けると有難いのだが・・・・・」
ホルストも兵士。
裸を見られたぐらいで、叫び声を上げたりしない。
それでも、恥ずかしいことには変わりはない。
我に返り、声を上げたのはガリウス。
「すまない」
慌てて部屋から出ようとする。
しかし、長男のマリウルは、その場で立ち尽くしていた。
━━━綺麗だ・・・・・
見惚れていた。
アンデットになったとはいえ、
ホルストの体は、エンデの魔法で傷1つ残っていない。
生前のままなのだ。
ハーフエルフは、元々見惚れる程の美形。
そこに、アンデットになったことで色素が薄くなり、さらに磨きがかかっていた。
誰でも、お近づきになりたいと思うのだが、
ゴンドリア帝国では、王家の名前を頂戴しているだけに、おいそれと声を掛ける者などはいない。
だが、そのような事情をマリウルは知らない。
ホルストは村娘の格好をしていたし、名乗ってもいないのだから・・・・・
思わず、一歩踏み出しそうになるマリウルを、袖を引っ張りガリウスが止める。
「おい兄貴、何してんだよ!」
我に返るマリウル。
「す、すまない。
失礼をした」
2人は、一度退室をする。
部屋の中から声が掛かり、2人は、改めて部屋に入った。
部屋の中には、着替えを終えたホルストが、ソファーに腰を掛けている。
「申し訳なかった」
マリウルは、改めて謝罪を口にする。
「気になさらないで下さい。
私も兵士の端くれ。
あの程度の事をとやかく言うつもりはありません」
「感謝する」
マリウルとガリウスは、対面のソファーに腰を掛ける。
「本題に入るが、ここを訪れた理由を聞きたい」
マリウルの問いかけに、ホルストはゴンドリア帝国の現状を語った。
「それで、エンデ殿にお力を借りようと思いまして・・・・・・
通行の許可を頂きたいのです」
ホルストの頼みに、マリウルとガリウスは、お互いの顔を見る。
「兄貴、どうする?」
「はっきりと申し上げますが、貴方がエンデ殿の知り合いだという証拠もありませんし、
現在、アンドリウスとゴンドリアは、敵対関係にあります。
ですから、『はいどうぞ』とここを通すわけにはいきません」
マリウルの言う事は尤もだ。
だが、ホルストもこのまま帰る訳にはいかない。
「では、私がエンデ殿の知人、いや、関係者だと判れば、通していただけるのですね」
食い下がるホルストに、マリウルが答える。
「それはそうですが、何か証拠となる物でもお持ちなのですか?」
ホルストは、自身の胸に手を当てる。
「証拠は、私です」
「「えっ?」」
「私は、エンデ殿に召喚されたアンデットです。
その証拠に・・・・・」
ホルストは、手を二人の前に差し出した。
「???」
「この手を握ってみてください」
マリウルは、言われた通りに手を握る。
「冷たい!」
確かに、色素の薄い方だと思っていたマリウルとガリウスだが、
アンデットという事実に驚きを隠せない。
「アンデットだったとは・・・・・
ですが、ゴンドリア帝国の・・・・・」
「はい、私は、ゴンドリア帝国魔法士団の団長でしたが
エンデ殿と戦い、命を落としました。
その後、エンデ殿のアンデットとして復活させて頂き、
今は、ゴンドリアの王家に仕えております」
「それでは、貴方は、エンデ殿の従者のような立場なのですね」
「はい、その認識で間違いありません」
「1つ、尋ねたいのだが・・・・・」
ガリウスが割って入る。
「何でしょう?」
「失礼を承知で尋ねますが、
ホルスト殿の体は、アンデットにしては綺麗すぎませんか?」
先程、着替えを見てしまった時、
体に腐食や傷痕は見当たらなかった。
その事を問いただすと、ホルストは素直に答えた。
「アンデットになれば、傷などは残ります。
最悪、腐食する事もあります。
ですが、私の体は、エンデ殿の魔法に守られておりますので、傷などありません」
話を聞き、驚愕する2人。
「そんな魔法、聞いたことが無いぞ・・・・・」
「でも、あいつなら、やりかねん」
マリウルとガリウスは、ホルストを信用することにした。
だが、王都への旅には、監視役としてマリウルが同行することを条件として出す。
ホルストもその提案を飲み、翌日には2人で砦から旅立った。
道中は、何事も無く無事に進み、予定通りに王都に到着する。
王都に到着すると、その足でエンデの所に向かおうとするホルストをマリウルは止める。
「今回の事は、陛下にも話を通しておきたいので、ついて来てくれ」
突然の国王との面会。
まして、今まで揉めていた国の兵士となど、易々と会えるはずがない。
その事がわかっているだけに、ホルストは、尋ねずにはいられなかった。
「私などが、国王に会えるのか?」
「わからぬ。
だが、それは、これから会う者が判断するだろう」
「誰と会うのだ?」
「宰相のグラウニー殿だ。
陛下に会えるかどうかは、グラウニー殿が決めるであろう」
「そうか・・・・・」
その後は会話も無く、黙々と歩く。
王城に着くと、門番に『グラウニーに会いに来た』とと告げる。
「少々お待ちを・・・・」
急ぎ、駆け足で城の中に入ってゆく兵士。
暫くすると、グラウニーが姿を見せる。
「マリウルではないか!
砦は、どうした?
メビウスは、元気か?」
矢継ぎ早に問いかけるグラウニーを制止し、重要な案件があると告げた。
「そうか、ならば聞こう」
グラウニーの後をついて王城に入るマリウルとホルスト。
案内されたのは、グラウニーの執務室だった。
「ここには、儂しかおらんし、外に漏れる事も無い。
話を聞かせてくれ」
マリウルは、頷いた後、ホルストに顔を向ける。
『うん』と会釈で返事をした後、話し始めた。
「私は、元ゴンドリア帝国魔法士団長のホルストと申します」
「元?」
「はい、現在は、エンデ殿に召喚されたアンデットです」
「・・・・・・ちょっと待て・・・・・」
頭が痛くなるグラウニー。
━━━あ奴は、他国で何をやっておるのだ・・・・・
ソファーから立ち上がると、窓に近づき、遠くを見つめる。
浮かんでくるのは、エンデの無邪気な笑顔。
━━━考えていないな・・・・・・
溜息を吐き、ソファーに座り直した。
「すまない。
話を続けてくれ」
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