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天魔の子(仮)  作者: タロさ
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教会 動き出す者たち

ここは、王都にある教会の懺悔室。

ミラーナは、慣れた様子で、片側の部屋に入ると扉を閉めた。


「この場での事は、神様しか知り得る事はありません。

 貴方の心の声を、思う存分、吐露して下さい」


神父の言葉に、ミラーナは『クスッ』と笑う。


「【オルゴーナ】様、冗談が過ぎますよ」


「冗談などではない、これが儂の本業だからのぅ」


生やしている顎髭を、触りながらオルゴーナも笑った。


「ミラーナよ、今日は?」


「ええ、少し聞きたい事があったの。

 ガルバンの放っていた暗殺部隊のリーダーの名前だけど?

 『モンタナ』だったかしら?」


「その通りだが、奴は、兵団長のキルードが、あの商人の屋敷に襲撃を掛けた時、

 逃げたと聞いておるぞ」


「その男、チャコール男爵の屋敷に匿われていたのよ」


「ほう・・・・・

 それで、奴は、今、何処に?」


「死んだわ。

 正確には、殺されたのよ」


その言葉に、オルゴーナの眉が『ピクッ』と動く。


「あ奴は、仮にも暗殺部隊のリーダーだった男だぞ。

 そんな男が、簡単に殺される訳が・・・・・・」


「事実よ・・・・・」


オルゴーナは、息を飲む。


「それ程の手練れが、この王都にいるのか?」


「・・・・・・子供よ」


「はっ、今、なんと?」


「モンタナを殺したのは子供。

 エンデ ヴァイスという子爵家の跡取りよ」


本来なら、ガルバンから教会にも報告が届いていそうだが、

プライドが邪魔をして、エンデの事は、教会には知られていない。


「エンデ ヴァイス・・・・・聞いたことは無いが・・・・・。

 その子供は、今どこに・・・・・・いや、迂闊に接近しない方が良いかのぅ・・・・」


色々と考えを巡らせながら、ブツブツと呟いているオルゴーナ。


「オルゴーナ様、どうなさいますか?」


しばしの沈黙の後、オルゴーナが口を開く。


「少し、こちらで探ってみるとしよう」


翌日から、オルゴーナは、部下を使いエンデの周辺を探る。

その為、王都では、色々なところでシスター見習いや、神父見習いの姿を見かける事になった。


その頃、エンデとエブリンは普段通り?というか、

最近は、何事も無く、学院に通う毎日を送っていた。


だが、その学院にも、教会の者の手が伸びる。



学院長室を訪れたのは、神父でありオルゴーナの補佐を務める【スベラハート】という男だ。


「ルードル殿、ご無沙汰しております」


「スベラハート殿が学院を訪れるとは、一体、どのようなご用件でしょうか?」


普段なら、学院に用事がある時は、

小間使いのような神父見習いの男が来る。


それなのに、オルゴールの補佐であるスベラハートが、直々に顔を見せたという事は

無理難題を押し付ける為だと踏んだ。


━━━どうせ、金当ての良からぬ事を、企んでおるのじゃろう・・・・・


そう思うルードルだが、表情には出さない。


「ええ、今日、訪れたのは、今後の学院と教会のあり方についてでございます」


「あり方・・・・・?」


「はい、先日、貴族の紹介で入った教師が、揉め事を起こしたと聞きました。

 やはり、一貴族の推薦では、今後も同じような事が起こり得ません。


 元々、教会は、祈りを捧げるだけの場所ではなく、教養を教える場所でもあります。

 その為、生徒を教える資格を持つ者を多く抱えております故に、

 今後は、私たちにも、教師となる者を推薦させて頂きたい」


『ああ、そういうことか』と納得するルードル。

グルーワルド学院では、偏った教育を避ける為、教会に教師を推薦する権利を与えていなかった。

その為、この度の事件に乗じて、その権利を頂こうという腹積もりだ。


だが、それだけではない。

学院に教師を派遣できれば、エンデやエブリンの監視も容易になる。

その事が裏には隠れていた。


「如何ですかな?

 急な申し出な故、即答は難しいと思いますが、

 先ずは、試しに1人を推薦させて頂けませぬか?」


1人を受け入れれば、後は、なし崩し的に、教師を送り込んでくることは明白。


「いや、待ってくれ。

 1人を受け入れれば、それは、推薦を受けたことと同じじゃ。

 試しなどは要らぬ。

 取り敢えず、今日の所は帰ってくれ」


即答どころか、1人の推薦も断ったルードル。

その態度に、スベラハートは、膝の上に置いていた拳を強く握りしめた。


━━━このクソじじい、素直に従えば良いものを・・・・・


スベラハートは、教会に楯突かれることを嫌う。

彼の中で、オルゴーナと教会は、絶対的なのだ。


「学院長、本当に、このまま私を帰して宜しいのか?」


「『ムッ!』

 どういう事じゃ?」


「この国、いや、この世界全体に広がる我が教会の力を、知らぬわけではないでしょう。

 どの国でも、我らに逆らう者などおりませぬ。

 その意味を、貴方ほどの者になれば、お判りでしょう」


『黙って、今回の申し出を受け入れろ』と安易に脅している。


「この学院が、陛下のお志から成り立っている事も、教会の者なら知っておろう。

 それでも、我らに、脅しをかけるというのか?」


ルードルも引くつもりはない。


スベラハートが『教会』を盾にすれば、

ルードルは、『国王』を盾にして対抗する。


これ以上、スベラハートが対抗すれば、それは国王に反意を示すことになり兼ねない。

その為、直線的な圧力をかける事が難しくなった。


だが、スベラハートは、切り札を隠し持っていた。

ソファーに、腰を深くかけ直す。


「少々、熱くなり過ぎましたね。

 少し、雑談でもしましょう」


そう切り出したスベラハートの顔には、笑みが零れている。


「最近、他国からの進行があったと聞き及んでおります。

 陛下も、大変ですね。

 それがあの『ゴンドリア帝国』なのですから・・・・・

 まぁ、私どもの教会も、かの国にもありますが、優秀な者ばかりでしてね。

 今では、教会出身の者が『宰相』を務めているとか・・・・・」


自信満々で言い放つスベラハートだが、期待に反して、ルードルに変化はない。


「その事なら、知っておるぞ」


「えっ!」


「今、アンドリウス王国とゴンドリア帝国への通路は、全て遮断されておるから

 教会の者であっても、最近の事は知らぬようだな」


ルードルは、一息つくと続けた。


 「その『宰相』まで上り詰めた男の名だが、『ガルバン』ではないか?」


「ああ、そうだが・・・・・」


「奴なら、反逆の罪で、死刑になったぞ」


切り札が全く役に立たず、逆に驚かされる。


「!!!」


実際は、エンデが殺して王家を助けたのだが、

対外的には、王家がガルバンの企みを見破って、討ち取った事になっている。


ルードルは、話を続けた。


「それにな、今回の反逆に加担したと思われる教会の者たちも、捕まったと聞くぞ」


全身の力が抜けて行くスベラハート。


「嘘だ・・・・・そんな・・・・・」


言い返すことも出来なくなったスベラハートに、ルードルは冷めたような視線を向ける。


「こんなところで、道草を食っていても良いのか?

 早く知らせなくても、良いのか?

 もしかしたら、教会にとって大事になるやもしれぬぞ」


脅しをかけられたスベラハートは、挨拶もそこそこに、学院長室を飛び出した。

後姿を見ながら呟く。


「小物め・・・・・」


ルードルは、テーブルの上に置いてあった冷めたお茶を飲み干した。



ブックマーク登録、有難うございます。


不定期投稿ですが、宜しくお願い致します。

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