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天魔の子(仮)  作者: タロさ
102/236

学院生活 チャコール男爵の屋敷

エブリンが首輪をつけたアンデットオオカミの後を追い、

街中を爆走したアンデットオオカミとエンデたちが辿り着いたのは

チャコール男爵の屋敷。


門の前では、首輪をつけたアンデットオオカミが、門番を踏みつけて待機していた。


「あっいた!」


エブリンが声を掛けると、駆け寄ってきた。


「いい子ね、この中にモンタナがいるの?」


『ガウッ』


返事を聞き、頭を撫でててやると、アンデットオオカミは、嬉しそうな顔をした。

それを複雑な表情で見つめるエンデ。


「僕の召喚獣・・・・・だよね・・・・・」


シャーロットに1頭が懐き、エブリンにも1頭が懐いている。

本来の主は、エンデなのだが、

エンデは、このアンデットオオカミたちは『召喚獣』とは違うのではないかと疑ってしまう程に

アンデットオオカミたちは、勝手に主を決めているように思えた。


「さぁ、お仕事よ」


エブリンが手を叩くと、アンデットオオカミたちは、一斉に走り出し

屋敷を取り囲みにかかる。


そのタイミングで、キルードが、部下を連れて現れた。


「ここにいたのか?」


「あっ!

 おじさん」


「おじさん・・・・・」


「こら、エンデ!

 きちんと挨拶をしなさい」


エブリンに窘められたエンデ。


「いや、おじさんで構わない。

 それよりも、この状況を説明してくれるか?」


「私が説明するわ」


エンデの代わりに、エブリンが学院で起こった事、

その立会人をした教師が、何故か、逃げ出したことを掻い摘んで話した。


「そうか、では皆はここで待っていてくれ」


「僕も行くよ」


「無茶は、するなよ」


キルードは、エンデに釘を刺したながらも、同行は許した。

門を潜り、玄関の扉を叩くキルード。


「私は、王都統括兵団長のキルードだ。

 話が聞きたい。

 ここを開けよ」


強めの口調で、叫んだキルード。


暫く待っていると、人1人通れる程度だけ扉が開き、中から執事と思わしき男が現れた。


「キルード様、我が屋敷に何かご用事でしょうか?」


出て来たのは、執事の『コッペン』。


「ここに学院から、逃げ込んだ者がいると聞く。

 名を『モンタナ』と言うそうだが、知らぬか?」


逃げ込んだ事は知っていたが、敢えて、知らないふりをして聞く。


「そうですか・・・・・少々、お待ちください」


コッペンは中に入り、一度扉を閉めた後、大きく開け放つ。


「どうぞ、お入りください」


コッペンは、扉を開け放つことで、『何も知らない、無関係』であることを示したのだ。

思わずエンデの方に振り返るキルード。


エンデは、『ニコッ』とほほ笑むと、キルードの横に並ぶ。

臆することの無いエンデの態度に、キルードも頷く。


「では、案内を頼む」


「畏まりました」


コッペンに案内されたのは、応接室。

奥の席には、この屋敷の主、チャコール ベクターが座っていた。


「これは、キルード兵団長。

 今日は、何の御用ですか?」


白々しく、何も知らない素振りで答えるチャコール。


「この屋敷に、『モンタナ』という学院の教師がいると思うのだが」


「『モンタナ』ですか・・・・・・

 そのような者は、この屋敷にはおりません」


あくまでも、『知らない』で突き通そうとする。


「では、調べさせて頂いても?」


チャコールは、キルードのその言葉にも動揺は見せない。


「それは構いませんが、それなりの証拠と陛下からの通達書を持っておられるのですね」


確かに、貴族の屋敷を調べるとなると、それなりの準備が必要なのだ。

だが、早急だった為、持っていない。


「いや、持ってはいないが、この屋敷に入るところを見た者がいるのだ。

 それに、居ないのであれば、調べられても、問題は無かろう」


キルードは強気の態度に出る。

しかし、いくら強気な態度に出た所で、

『陛下からの通達書』が無いのだから強引に調べることが出来ない。


チャコールも、その事がわかっている。


「『陛下からの通達書』をお持ちでないのならば、調べさせるわけにはいきません。

 ここは、貴族の屋敷ですぞ。

 ただ『見た者がいる』という誰ともわからぬ曖昧な理由だけで

 屋敷を調べる事は、ご遠慮いただきたい」


チャコールは怒りを滲ませて、キルードを睨みつけた。


アンデットになったとはいえ、オオカミの臭覚は正しい。

匿っている事は確実なのだが、それを証明する手立てがない。


━━━ 一度、出直すしかないか・・・・・


キルードがそう考えた時、エンデが袖を引っ張った。


「おじさん、僕、トイレ」


「えっ!」


『何を言っているんだ』と思わずエンデの顔を見る。

しかし、エンデは、演技を止めなかった。


「僕、もう我慢できないよ」


股間を押さえて、『ソワソワ』するエンデ。


「悪いが、トイレを貸してもらえぬか?」


不躾なお願いだったが、無下に断ると、余計に怪しまれる恐れがある。


仕方なく、チャコールは執事のコッペンを呼び、エンデをトイレに案内させた。


コッペンの後ろを歩くエンデは、周囲を確認しながら歩く。


━━━あっちにも、通路がある・・・・・

   それに、奥にも屋敷が・・・・・・


周囲を確認していると、コッペンが、とある扉の前で立ち止まる。


「こちらで御座います」


「ありがとう」


エンデは、急いでトイレに駆け込むと扉を閉めた。

『ふぅ~』と一呼吸置いた後、

子供が通れる程度の大きさしかないトイレの窓から抜け出した。


そして、先程見えた反対側の通路に、

窓を使って、もう一度屋敷に入り直すと、モンタナを探す。


しかし、しばらく歩いたところで、部屋から出て来たメイドに見つかってしまう。


「ここで何をしているのですか!?」


「あっ・・・・・」


「何処に行かれるつもりだったのですか?」


メイドに問われて素直に答えるエンデ。


「モンタナの所」


「えっ!・・・・・そのような方はおりません」


メイドはモンタナの世話をしている。

その為、何処にいるのかも知っていた。

だからこそ、聞かれて思わず、動揺してしまったのだ。


エンデは、それを見逃さない。


「知っているんだね」


「え・・・・いえ・・・・」


「嘘はだめだよ。

 何処にいるの?」


「わ、私は、用事がありますので、失礼致します」


メイドは、慌ててその場から立ち去ろうと踵を返す。


「あ・・・・・」


不審者であるはずのエンデは、その場に放置された。


エンデは、気付かれないように追いかけて行くと

メイドは屋敷を抜け、奥の屋敷に向かった。


そして、扉の前で辺りを見渡し、誰もいない事を確認すると

扉を開けて中に入った。


屋敷の中に入ると、一番奥の部屋に向かう。

そこには、モンタナがいた。


「モンタナ様、大変です!」


部屋の中で、逃げ出す準備をしていたモンタナだったが、

メイドの焦りようから、ここに隠れている事がバレた事を知る。


「誰か来たのか?」


「はい、兵士の方と少年が訪ねて来ました。

 それから、屋敷の周りにも見張りが・・・・・・」


「クソッ!」


もう逃げ道がないと悟ったモンタナだったが、なんとかして逃げようと考える。

しかし・・・・・・


「みーつけた」


少男の声が部屋に響く。

顔を上げたモンタナの視線の先にあるのは、エンデの姿。


「こんなところに隠れていたんだ」


笑顔を見せるエンデに

モンタナは、顔を(しか)める。


「このクソガキ・・・・・嗅ぎつけやがったか」


モンタナは、剣を抜き身構える。


━━━このガキ、やべぇ匂いがしやがる・・・・・


接近して分かる学院に通っている時との違い。


暗殺部隊のリーダーをしているだけあって、

その嗅覚は、正しかった。


モンタナは、部屋の隅で震えているメイドに目をやると、

急いで近づいた。


人質にしたのだ。


「どけ!

 この女を殺されたくなかったら、そこをどけ!」


エンデの後ろには、この部屋の扉がある。

人質を盾にして、この部屋から抜け出し、

エンデを、そのまま閉じ込めるつもりでいるモンタナだったが、

エンデは、動こうとしなかった。


「この女が殺されてもいいのか?」


再び、問いかけたモンタナだったが、

エンデからは、意外な答えが返って来た。


「殺せば。

 でも、殺したら、人質はいなくなるから、お前も死ぬよ」


「うっ・・・・・」


エンデから解き放たれる殺意。

背中には、6枚の翼。


「お、お前は、何者だ・・・・・」


言葉を無視し、睨みつけるエンデ。


放たれた殺意は、段々と濃くなり、部屋に充満する。


贖いきれず、メイドは意識を失う。

モンタナも、震えが止まらず剣を落とす。


その瞬間、エンデの左手に『黒い塊』が出現し、

そこからアンデットオオトカゲが現れて、モンタナを一飲みにした。


翼を消すと、殺意も消え去った。

エンデは、気絶しているメイドを放置して屋敷から出る。


暫く歩いていると、執事のコッペンに見つかった。


「トイレから逃げ出すとは・・・・・

 勝手に、屋敷をウロウロされては、困ります」


「ごめんなさい」


エンデは、コッペンに連れられて応接室に戻る。


「遅かったな」


エンデに問いかけたキルードだったが、答えたのはコッペンだった。


「どうやら、私が見ていなかった隙に、迷子になられたようで」


「迷子?」


ソファーに腰をかけているエンデを見るキルード。


「あはは・・・・」


笑って誤魔化すが、キルードに見破られていた。


━━━こいつ、何か隠しているな・・・・・




エンデが戻って来たので、キルードは、改めて伺うと言い残し、

チャコールの屋敷を後にする。


屋敷を出ると、先程迄、屋敷を囲んでいた筈のアンデットオオカミたちが寛いでいた。


「これは・・・・・」


アンデットオオカミたちを見て、絶句するキルード。

それも当然の筈。


禍々しさを醸し出しているアンデットオオカミの群れが目の前にいるのだ。

こんなものが街中を走れば、パニックになるのは当然。


誰もが、近寄りたくない。


そう思う筈なのだが・・・・


その群れの真ん中で、

笑顔でアンデットオオカミの頭を撫でているエブリンとシャーロット。


キルードは、自身の目を疑った。


「エブリン嬢とシャーロット嬢、怖くはないのですか?」


「えっ!

 可愛いよ」


「・・・・・・」


「別にドロドロに溶けているわけでもないし、毛もフサフサ。

 それに、言う事も聞きますよ」


「・・・・・そうですか」


返す言葉の無くなったキルード。

その横で、『絶対こいつら召喚獣じゃない』と思うエンデだった。




不定期投稿ですが、宜しくお願い致します。

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