083.機巧技師とエルの慰め
「ま、まさかの大逆転!! これはプスレキア・マズラの勝利かぁ!!」
決闘場の中央に聳え立つ、巨大な氷柱。
その中には、アルヴァリオンがそのままの姿で氷漬けにされていた。
本選大会における、魔法攻撃の中でも、間違いなく最強の一撃。
会場中の全ての魔素をかき集めるかの如く放ったその渾身の氷魔法は、勇者の機巧人形ですらも、深き氷の淵へと閉じ込めていた。
「はぁはぁはぁ……」
「お嬢様!!」
アルエオアクアの機巧技師が、魔力の欠乏により倒れかかったサリィを支える。
「はぁ……大丈夫、ですわ……」
なんとか自分の足で立ち上がったサリィは、自身の生み出した氷柱を眺めた。
だが、その瞬間。
「は、はは……」
サリィの口から、笑い声が漏れた。
同時に、氷柱に亀裂が入り、その隙間から光が迸る。
一瞬後、あれだけ重厚な存在感を放っていた氷柱は、完全に砕かれていた。
水晶の剣を青白く光らせたアルヴァリオンは、全身に緑の風をまとわせ、ゆっくりと地面へ着地した。
「ア、アルヴァリオン……あの、分厚い氷を砕き、復帰したぁ!!!!」
そして、じわじわとプスレキア・マズラへと歩を進めるアルヴァリオン。
「も、もう一撃……」
汗まみれの顔を苦痛にゆがめつつも、サリィが再び魔力を練る。
しかし、いくら魔力を込めても、プスレキア・マズラは動こうとはしない。
『お、お嬢様、魔素転換炉が、もう……』
会場に設置された巨大モニターに、搭乗者越しの魔素転換炉が映し出される。
そこには、先ほどの無理な攻撃で入ったであろう、大きな罅が刻まれていた。
こうなってしまえば、いくらパスを繋ごうが、もう機巧人形が動くことはない。
「プ、プスレキア・マズラの行動不能を確認!! よって、勝者は、トライメイツ、アルゼンタム……です!!」
司会の声が響くと同時に、プスレキア・マズラは、項垂れるようにその身を倒れさせたのだった。
「サリィ!!」
ふらふらと決闘場の搬入路から出てきたサリィを、エルが抱きしめた。
「身体は、大丈夫なの!?」
「エル……。大丈夫ですわ。少し疲れてしまっただけですの」
そうは言うものの、普段からケアを欠かしていない白い肌は、いつにも増して白く見える。
魔力を絞りきった事で、かなり疲弊しているのは間違いない。
その上、機巧決闘にも、完全な敗北という形になってしまった。
精神面でも、彼女のショックは計り知れない。
「ふふっ、大口を叩いたのに、一矢報いることさえ出来ませんでしたわ。本当に格好悪い……」
「サリィは、格好悪くなんかない!!」
大声を上げたのはエルだ。
エルは、その瞳にほんのりと涙を滲ませながらも、真剣な表情でサリィの顔を見つめていた。
それを見て、サリィも顔にも、わずかに穏やかな表情が浮かんだ。
「エル。あなたにそう言ってもらえるだけで、勝負に負けた悔しさも、吹き飛ぶようですわ」
「そんなわけがなかろう」
サクラ君が、ゆっくりとサリィに近づいていく。
「お前はよくやった。だが、こんな言葉だけで満足するお前じゃないこともわかっている。だから」
それだけ言うと、サクラ君は、大きく頷いた。
すると、どういうわけか、アルエオアクアの他の2人も、同じく頷いた。
そして、その場を後にする3人。
「え、えっと……」
「ビス、お前も来い」
「あ、うん」
サクラ君に連れられ、僕ら4人は、道の端を超え、魔導トラックのある辺り場所まで歩いていく。
少しして、背後からすすり泣く声が聞こえてきても、僕達は、決して振り返ることはしなかった。
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