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081.機巧技師とサリィの新たなる力

「サリィ、頑張ってね」


 エルが、わずかばかりの不安を滲ませながらも、そう伝えると、アイスブルーの髪をなびかせたサリィは、ふふん、と鼻先で払った。


「そんな不安そうな顔をしなくても良いですわよ。エル。私、勝ちますから」


 ギュッと、エルを抱きしめるようにしたサリィは、すぅはぁと深く息を吸った。


「うーん、元気が出てきましたわね」

「あの、サリィさん。モモさんの件も含めて、君には本当に感謝している。だからというわけじゃないけど……」

「先日はああ言いましたが、別に気にするほどのことでもありませんわ。それに、今、十二分に見返りはもらっていますし。すぅはぁ」


 エルを抱きしめたまま、サリィは満足そうに息を吸った。


「安い女だな」

「それ以上何か言うと、凍らせますわよ。偽イケメン」


 ようやく、エルを手放したサリィは、わずかにこぼれた髪のひと房をゆっくりと掻き上げた。


「さて、エネルギーも十分補給できましたし、そろそろ行くとしますわ」

「庶民派、ルストは強いぞ」


 歩き出そうとするサリィに、声をかけたのはサクラ君だ。


「機巧人形を通さず、素の個人同士の戦いなら、この学園で勝てる者は間違いなくいないだろう。俺を含めてな」

「わかっていますわ。"勇者"という職業(クラス)が、いかに別格かということは」


 あの十三迷宮で助けられた時の事を思い返す。

 彼は、ただの剣の一振りで、あのサーベルヴァイパーを一刀両断した。

 その姿は、まるで一陣の風だった。

 通り過ぎた時には、すでに斬られている。

 圧倒的な剣術の腕前に、単純なステータスの高さ。

 勇者という職業に加え、戦闘経験値さえも、彼は十分に持ち合わせている。


「でもね。負けるつもりはありません。この勝負に勝てば、あなた達ともう一度戦えるのですから」


 グッと胸元で拳を握るサリィさん。

 一瞬だけ目を閉じると、彼女は、そのまま何も言わず、僕らの元から歩き去っていった。

 いつの間にか、同じアルエオアクアの2人の男子生徒も合流している。

 そんな背中を見つめながら、僕は、ただただ、サリィの勝利を願うのだった。




「おおっと、アルヴァリオン!! やはりスピードが違う!!」


 風の魔力を身に纏い、風そのものと見間違うばかりの速度で迫るアルヴァリオン。

 そのスピードを少しでも削り取るべく、その進行上に5枚もの氷の壁を発生させつつ、私は歯噛みした。

 やはり、この機巧人形は疾い。

 その上、単純な剣技でもって、氷の壁を次々と破壊して、肉薄してこようとする。

 接近されれば、近接戦で、あの機巧人形に対抗する手段は、プスレキア・マズラにはない。

 こちらが相手を凍らせる前に、頭部を斬り落とされてしまうだろう。


「やはりアルヴァリオンの機動力は圧倒的です。対して、予選や一回戦の戦闘を鑑みると、プスレキア・マズラはほぼ定点から移動することのない完全魔法戦主体の機巧人形です。このままもし、接近されてしまえば……」

「おおっと!! そう言っている間にも、アルヴァリオン、最後の氷の壁を破壊したぁ!!」


『悪いが、このまま斬らせてもらう』


 努めて冷静な搭乗者──勇者ルストの声。

 その朴訥とした声を聞きながら、私は……。


「そう簡単に行くと、思わないで下さいまし!!」

『何!?』


 極限まで高めた魔力を解放する。

 プスレキア・マズラの魔素転換炉で増幅された魔力は、機体を中心に波紋のように広がり、やがて、決闘場の地面を凍り尽くす。


「出たぁ!! 1回戦でも相手をしとめた大技!! しかぁし!!」

「これが資料にあった決め技というやつですか。ですが……」


 相手チームのトライメイツの機巧技師ノギスが、その小柄な身体を伸ばすようにして、空を差す。

 その言葉通り、足元から凍らされるかと思ったアルヴァリオンは、五体満足な姿で"空中に浮かんでいた"。


「凍らされるならば、触れなければよい!! ただそれだけのことです!!」


 風の魔力を身に纏い、空中を浮遊するアルヴァリオンは、真っ向からプスレキア・マズラへと突撃してくる。

 大技を使った直後で、プスレキア・マズラの魔素転換炉が悲鳴を上げる。

 次の魔法発動には、わずかばかりインターバルが必要。

 万事休す。誰もがそう思ったであろうその時、私は、パンと手を打ち鳴らした。


「さあ、行きますわよ!!」

『はい、お嬢様!!』


 一瞬後、一陣の風となったアルヴァリオンが、プスレキア・マズラのいた場所を"通り抜けた"。


「な、何ぃ!?」

「プスレキア・マズラ!! 今の攻撃を避けたぁ!! でも、いったいどうやって……ああっ!!」


 司会の大仰な声につられて、観客が私達のプスレキア・マズラの足元へと注目する。

 その足裏には、先ほどまではなかった2本のブレードが生えている。


「な、なんだ、あれはぁ!!」


 これこそが、私が第十三迷宮の攻略で得た、プスレキア・マズラの新たなる力。

 デビルエッジという魔物の肉体をそのまま加工し、作り上げた2本のブレード。

 これがあれば、プスレキア・マズラは、この凍らせた地面を自在に滑り、移動することができる。


「さあ、勝負はここからですわよ!!」


 空中に浮かぶアルヴァリオンの勇者然とした風貌を眺めながら、私の身体から、さらなる魔力が迸ったのだった。

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