076.機巧技師と波乱の2回戦
『さあ、ついにやってきました!! 機巧決闘本選大会、第2回戦!! 最初のカードはぁ!! まずは、西司令塔から、トライメイツ"センチュリーズ"、機巧人形は"ダガーデクス"!! そして、東司令塔からは、予選で圧倒的な火力を見せつけた、トライメイツ"モンジュノチエ"の"カリブンクルス"だぁ!!』
2体の機巧人形が紹介されると同時に、会場に歓声が巻き起こる。
目の前に立ち塞がる機巧人形、ダガーデクス。
ニッパー先輩たちが、3年間をかけて、改修に改修を重ね、作り上げてきたその機巧人形は、今日のために磨き上げられた装甲を陽光に煌かせた。
本当なら、そんな機巧人形と戦えることを僕は心から誇りに思っていたはずだった。
だが、今は……。
『ビス……』
通信機から、サクラ君の声が聞こえる。
『どうする。本当に、従うのか……?』
「"今は"そうせざるを得ないよ」
拳を握りしめる。
昨晩の一件から、僕らはずっとマクランが用意したドローンに監視されている。
今も司令塔の隅では、こちらへとカメラが向けられている。
不用意な事を言えば、その時点で、モモさんにどんな危害が及ぶかもわからない。
悔しいけれど、今は、従うしかない。
『できるだけ……』
引き延ばす、という言葉を飲み込みつつ、サクラ君はカリブンクルスをゆっくりと立たせた。
この戦い、ただただ敗北するためだけの戦いにはしたくない。
モモさんを救出し、この勝負を正しいものにするためにも、諦めるわけにはいかなかった。
(あれが、彼女の手にさえ渡れば、きっと……)
一縷の希望を託しつつ、僕は試合開催のブザーに耳を傾けるのだった。
「さあ、いよいよだ!! 準備はいいね、カクタス!!」
『ああ、絶好調だよ。ニッパー』
通信機越しに聞こえるカクタスの声。
そこには緊張はない。極めて自然体だ。
「しかし、やはりカッコイイなぁ。カリブンクルスは」
「こんな時まで、相手の機巧人形褒めてる場合かね」
「あの機巧人形にはロマンがあるのさ。だからこそ、そんな相手と機巧決闘の場で戦えることを俺は誇りに思う」
『ああ、こちらが先輩ではあるけどね。胸を借りるつもりで行くさ』
「そうだね。背伸びなんかしなくてもいい。あたいらは、あたいららしく戦うだけさ!」
士気も上々。
その時、会場にブザーが鳴り響く。
「みんなでいくよ!!」
「ああ!」「おう!」
『機巧決闘!! レディ、ゴー!!!』
3年間の集大成。今こそ、それを見せる時だ。
「ふふっ、さて、どちらが私の対戦相手になるかしらね」
会場内の最前列に陣取った私は、これから始まる2回戦第1試合で戦う2体の機巧人形を眺めていた。
1体は、センチュリーズのダガーデクス。
かなり古典的な、戦士職業の冒険者を模した機巧人形で、派手さはないが、堅実な戦い方が特徴的だ。
対するのは、モンジュノチエのカリブンクルス。
予選で私達のプスレキア・マズラから白星を捥ぎ取った機巧人形。
云わば、因縁の相手なわけだが、だからこそ、私は、どちらかといえば、こちらの機巧人形の肩を持っていた。
十三迷宮を一緒に攻略した時に得た素材を使って、カリブンクルスは、かなり様変わりしていた。
1回戦も生で見ていたが、元々足りなかった部分が補完され、予選時よりも、遥かに性能が上がっているのは間違いなかった。
正直、今のあの機巧人形に勝つのは、容易ではないだろう。
でも、こちらとて、あの頃と同じではない。
必ず、勇者ルスト率いるアルゼンタムを下し、カリブンクルスとの再戦を果たす。
それこそが、今の私の一番の望みだった。
それなのに……。
「何をやっていますの……!?」
試合が始まってから、カリブンクルスは一切の攻撃をしていなかった。
避けるか、防ぐ。それだけしかしていない。
あのエルの猛るような炎も全く出ることはなく、防戦一方。
一気呵成な普段の戦い方とは大きく違っていた。
これは作戦……?
いや、それにしては、どことなく歯切れが悪い。
「ああ、今のところ、普段ならカウンターを入れられますのに!!」
「お、お嬢様! 落ち着いて下さい!!」
「これが、落ち着いていられますか!!」
やはりだ。
明らかに、戦い方が消極的だ。
司令塔に立つビスとエルに視線を向ける。
いつもは、コロコロと表情を変える彼らだが、今日はただひたすらに黙々と目の前の戦いを見つめていた。
まったく、何をやっていますの……!!
そんな風に、叫んでやろうかと思ったその時だった。
魔導陣の中央に立つエルと一瞬、視線が合ったように感じた。
「おおぉお!! カリブンクルス、ここに来て、炎を纏ったぁ!!」
司会の興奮した声が聞こえたかと思うと、カリブンクルスが派手に全身から炎を拭き出す。
それとほぼ同時のタイミングだった。
「お嬢様!!」
「へっ!?」
見上げた先に黒いボールのようなものが一直線に私に向かって飛んできた。
私は、慌てて、それをキャッチする。
「な、何かしら、これ……?」
それは両の掌にちょうど納まるくらいの黒い球体だった。
カリブンクルスが炎を拭き出したと同時に、まるで、そちらに注目が行くタイミングを見計らっていたかのように、このボールが飛んできた。
もしかして、これは、エルが私に向かって飛ばしたもの……?
しげしげと眺めていると、球体の表面がカパッと展開する。
そこにあったのは、小さなモニターだ。
表示されているこれは……この島の地図?
そして、下部にはメッセージが。
「……何だかよくわかりませんが、わかりましたわ」
「お嬢様……?」
エルのメッセージを受けて、私は再び防戦一方の戦いを繰り広げるカリブンクルスに背を向け、会場を後にしたのだった。
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