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049.機巧技師、再びダンジョンに潜る

 第13迷宮は、島内のダンジョンの中でも、最もフロア数が多いダンジョンだ。

 未踏破ゆえに、正式なフロア数は誰にも知られていないが、現状で人間がたどり着けた限界が41層。

 そして、今回の目標である炎熱竜が住処としているフロアが、30層だ。

 人類の限界までとは言わないが、それでも、相当下層まで進まないといけないという事実に代わりにはない。

 本職の冒険者パーティーでない、ただの学生である僕らには、かなり厳しい条件だと言える。

 それでも、本気で勝つつもりならば、妥協するわけにはいかない。

 気合を入れるように槌を握る手に力を込めると同時に、魔物達がこちらへと殺到してきた。


「来ましたわね!!」


 サリィさんの声がしたかと思うと、次の瞬間には、すぐに魔法が飛んでいた。

 機巧決闘でも多用していた氷塊を作り出し、相手へと撃ち出す攻撃魔法だ。

 散弾のように撃ち出されたそれが、突進して来ようとしていた魔物達の気勢を削ぐ。

 その間に、サクラ君が相変わらずの素早さで、次々と魔物を討ち取っていく。

 行動を阻害を得意とするサリィさんの氷魔法、そして、一気呵成なサクラ君の戦い方。

 性格的には合わない2人だが、戦闘ではどうやら相性ピッタリのようだ。


「僕らも負けてられない」

「う、うん!」


 続いてエルが魔法を放つ。

 攻撃力に定評のある火炎魔法は、こちらに迫って来ようとしていた数匹の魔物達を一瞬のうちに炭へと変えた。

 それでも、難を逃れた魔物の一部は、こちらへ向かって来ようとする。

 先頭をやってきていたクマのような魔物を僕は全力でひっぱたく。

 腕力には自信がある。

 大地を踏みしめるようにして振り回したハンマーは、クマのような魔物のみぞおちに食い込むと、そのまま後方へと大きく吹き飛ばした。

 巨体につぶされるようにして、後続の魔物達までもが吹き飛ばされていく。

 気が付くと、ほんの一瞬の間に、あれだけいた魔物達の姿は一匹もいなくなっていた。


「あらら、拍子抜けですわね。やはり、私の力があれば、攻略など造作もありませんわね」

「別にお前だけの力ではないがな」


 涼しい顔でそんなことを宣うサリィさんに、サクラ君はじとーっとした視線を向けている。


「でも、やっぱりみんな凄いよ。これなら、30層だって、本当に行けちゃいそうだ」


 そんなこんなで、時折魔物の襲撃を受けつつも、僕らの快進撃は続いた。

 さすがに最難関ダンジョンと言われるだけあって、魔物の数はかなり多い。

 だが、その分、取得できる素材も多く、例の如く、転送用の魔道具にそれらを納める手が止まることはなかった。

 そうこうしているうちに、かなりの時間が経過した。

 太陽の見えない洞窟の中では、時間の感覚というのは曖昧になる。

 マルチプルインパクトの柄に表示された時計を確認すると、気づかぬうちに、すでに時刻は夜に差し掛かり始めていた。


「そろそろ今日の探索は終わった方が良さそうだね」

「あら、もうそんな時間ですの。もう少し進んでもよさそうなものですのに」

「止めておけ。ダンジョンの探索では、休める時に休むのが鉄則だ。ちょうど、この辺りは魔物も少ないようだし、今日はここで野営をして、明日早くから探索を再開するのが良いだろう」

「へぇ、さすがに本職ですわね。では、そうするとしましょう」


 案外素直に言うことを聞くサリィさん。

 そんなわけで、ダンジョン探索を始めた初日。僕らは、12層の見通しの良い岩場で一泊することとなった。

 背負ってきたバックパックから野営道具を取り出し、そそくさと準備していく僕とサクラ君。

 瞬く間に簡易式のテントをくみ上げ、焚き火の用意を済ませた。


「エル、ここに火を」

「うん」


 サクラ君の指示で、エルが魔法で火を灯す。

 焚き火の温かいオレンジ色が周りを包むと、にわかに野営の雰囲気が整ってくる。


「手慣れてますのね」

「ガキの頃から何度もやっているからな。ビスの奴も、以前はよく1人でダンジョンに潜っていたようだし」

「あはは、あの頃に比べると、本当に楽すぎて……」


 ウォルプタス時代は、野営も1人。

 準備の大変さもさることながら、魔物を警戒しながらの野営はろくに休めたものじゃなかった。

 それを思えば、一緒に準備ができたり、簡単に火を熾せる今の環境は、まさに神だった。


「何か、私にも手伝えることはありませんの?」

「あ、それなら」


 僕は、サリィさんにお願いして、持って来た鍋の中に氷の塊を生み出してもらった。

 それを火にかけると、すぐさま新鮮な水の出来上がりだ。

 ダンジョンの中では、水の確保は簡単じゃない。

 だから、飲み水に関しては、かなり用意してくるのが定石だったが、サリィさんがいれば、こうやっていつでも安全な水を確保することができる。

 そういった意味でも、サリィさんという魔導士が1人同行してくれるのは、かなり大きなアドバンテージだと言えた。


「本来のダンジョン探索とは、過酷なものですのね」

「でも、サリィさんがいれば、百人力だよ」

「当然ですわ。私は、筆頭貴族、イルミンスール家の令嬢ですのよ」


 ふふん、と鼻を鳴らすサリィさん。

 そんなサリィさんに、サクラ君がぼそりと。


「自分から手伝おうとしたり、思いのほか庶民派だがな」

「何ですって?」

「いや、褒めんたんだ。ふんぞり返って、下っ端にさせるばかりの高慢な女かと思っていたが、案外よく働くと」

「もう少し言い方を工夫して下さいまし」


 心外だと言わんばかりのポーズだが、口元のほころびからは、喜んでいるのがわかる。

 なんにせよ、思ったよりも、仲良くやっていけそうで良かった良かった。

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