046.機巧技師、スポンサーを選ぶ
開宴から少し遅れて、パーティー会場へとやってきた2人の美少女。
サクラ君とエルヴィーラさん。
いや、モモさんには裁縫の趣味があるというのは聞いていたが、まさに言葉通り誂えたかのように似合った衣装だ。
おそらく、髪の毛のセットやお化粧なんかもモモさんの手並みによるものだろう。
どれも明らかにプロレベル。モモさん、もしかして、これで食っていけるんじゃないだろうか……。
素のままでも十二分に美形だった2人だが、こうやってめかしこんだことで、お世辞抜きで誰にも負けないくらいの美少女に仕上がっている。
サクラ君は普段の男装時の格好良さを残しつつも、ボディラインの出るドレスでセクシーさもにじみ出ている。
エルヴィーラさんは、とにかく可憐だ。少し幼げな印象の彼女の愛らしさが、フリフリなドレスでさらにパワーアップされている。
なぜだか、僕は、ごくりと唾を飲み込んでいた。
「人前で女性の格好をするのは久しぶりだな……。落ち着かない……」
「ビス君……変じゃない……?」
「ぜ、全然変じゃないよ!! 2人とも!!」
むしろ、美しすぎて直視できないレベルだ。
「ビ、ビス君。もしかして、彼女達が、君の……?」
「あ、うん。トライメイツの仲間」
「す、凄い美人さんだね……」
ポカーンと呆けた様子のニッパー先輩。
周りの反応も同じようなもので、皆、2人に見とれている。
と、そんな僕達の元へと、堰を切ったように、スポンサーの大人達がなだれ込んできた。
「わ、私、ネリヤゴム工業の営業をしておりま──」
「抜け駆けするな! 当方は冒険者派遣業者"ブレイブリーマーケット"の──」
「待て待て!! 弊社は、サンライズ造船の──」
「う、うわぁっ!?」
一気に囲まれるサクラ君とエルヴィーラさん。
いや、確かにこれだけの美少女2人を擁するトライメイツとなれば、観覧者にも、ビジュアル的なインパクトは大きいだろう。
タイミングも良かった。
各トライメイツは、規約上、最大で1社との契約しか認められていない。
人気上位のトライメイツ狙いで、不意にされてしまったスポンサー達が、こちらに回ってきたというところだろう。
だが、それにしても……。
「す、すまないが、順番に頼む……」
「ふ、ふ、ふぇ……」
さすがのサクラ君もたじたじだ。エルヴィーラさんは涙目。
うーむ、これはどうしたものか。
「お待ちなさい!!」
その時、会場内にひときわ大きなおっさん声が響き渡った。
静まり返る場内。
謎のプレッシャーを感じ、最後尾にいたスポンサーの一人が振り向いた。
「…………ば、化物……!?」
「誰が化物よっ!!!」
突っ込みの如く、若いスポンサーさんをはたく巨体。
壁際まで吹き飛ばされたスポンサーさんは、泡を吹いて地面に転がった。
いや、ちょっと待って。あの人は……。
「メイキンさん……」
「はーい、ビス君♪ スポンサーになりに来たわよ♪」
そこに立っていたのは、筋骨隆々の肉体に、ピッタリと張り付くような女物のドレスを身に纏ったメイキンさんの姿だった。
さて、忘れている人もいそうだから、一応紹介しておこう。
メイキンさんは、ネリヤ港で、小さなコンテナマーケットを開いている店主さんだ。
以前のトライメイツにいた頃から、僕とは個人的な付き合いがあり、よくダンジョンでは手に入らないパーツなんかを融通してもらっていた。
それなりに良い年のおじさんであるのだが、少々独特の趣味をしており、普段から露出の高いメイド服を着用している。
うん、僕の知る中でも、トップクラスの"剛"の者といってよい。
とにかく、小さな商店とは言え、事業主であるところのメイキンさんは、僕らのスポンサーになるべく、参上してくれたというわけであった。
メイキンさんが登場した瞬間、あれだけ殺到していたスポンサーさん達が、まるで、神話の救世主が起こした神の御業の如く道を開ける様は、さながら幻想的ですらあった。
いや、確かに、慣れれば普通の良い人なのだが、慣れるまでは、あの威圧感には抗えないもんね。
とにもかくにも、スポンサーラッシュを脱し、少し落ち着けた僕達は、メイキンさんと挨拶を交わした。
「メイキンさん、わざわざ来てくださったんですね」
「ええ、もちろんよ。最初から、あなた達の本選出場が決まったら、スポンサーとして立候補するつもりだったんだから」
ウインクするメイキンさん。
「でも、いいんですか。他にも、トライメイツはありますけど」
「懇意にさせてもらってるあなた達に協力したいのよ。それに実際のところ、うちみたいな個人事業主をスポンサーにしたがるトライメイツなんて、他にないでしょうしねぇ」
悪びれずにそう言うあたりが、なんともメイキンさんらしい。
「で、あれだけ、たくさんスポンサー候補さんがいたわけだけど、うちと契約してくれるのかしら」
その言葉に、僕はサクラ君とエルヴィーラさんと頷き合う。
「元々、カリブンクルスが完成できたのも、メイキンさんが魔核の買取価格に色を付けてくれていたおかげですしね」
「あら、気づいていたの?」
「僕も、それなりに目利きですから」
にやりと微笑み合う僕とメイキンさん。
「それじゃあ、改めて宜しく頼むわ。トライメイツ"モンジュノチエ"のみんな」
「はい!!」
僕らは、それぞれ、メイキンさんの大きな手と握手を交わした。
「き、君達……」
「あっ」
いい感じに話がまとまりかけたところで、声をかけてきたのは、さっきの金持ち男だ。
2人が登場した際に、もみくちゃにされたのか、しっかりと固め、整えていた髪はほつれ、服もしわくちゃになっている。
「ま、まったく、僕に恥をかかせてくれたね……」
「いや、そんなつもりは……」
「トライメイツ"モンジュノチエ"の諸君。覚えておきたまえ! 僕は"イシルディン"のラチェット=R=シュタルダー。この借りは、本選にて返す!! 僕らと当たるまでに、負けないよう、せいぜいがんばりたまえ!!」
サクラ君とエルヴィーラさんが、ぽかーんと見つめる中、ヘタリとしおれた髪をした金持ち男は、スタスタと逃げるように去っていった。
「なんだったんだ。あの男は?」
「あはは、まあ、とりあえず、スポンサーも決まったし、あとはパーティーを楽しむとしようよ」
色々あったが、その後はつつがなくパーティーが進行し、いくつかのトライメイツとの顔合わせも無事に済ませた僕らだった。
「面白かった」や「続きが気になる」等、少しでも感じて下さった方は、広告下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援していただけますととても励みになります。




